第38話 6-7 リアティス=スティルレント
“彼女”との出会いは、六年前に別の村で患者の診察を終えて“雪国の町”に帰宅途中の時だった。
ボロボロな軽装服姿という、見るからに北部地域の人ではない女性がフラフラと放浪しては、パービュアの目の前で倒れ、只事ではないと思ったパービュアは彼女を保護し、“雪国の町”でパービュアの家である医者へと連れて来たが、彼女が目覚めた時には何故か記憶がなく、名前を聞こうにも「リア」止まりだった事から、パービュアは仕方なく彼女を「リア」と呼ぶ事にした。
それから六年の月日が経ち、今やパービュアの家族となった「リア」改め、記憶が回復したリアティス=スティルレントは、パービュアと遊びから見つかった事による制裁の拳骨なのか、タンコブが痛々しいレノと共に家の手伝いに追われていた。
「そう。この寒い北部地域向けではない服装だったから、ここの人間ではないと思ってはいたけど、あの六年前の殺人事件で生き残った人とはねぇ」
「何か、色々とすみませんでした。パービュアさん」
「いいのよ。それで、貴方の記憶を取り戻した騎士団さんは、今何処に?」
「今は、宿屋の酒場で貸し切り状態ですわ。何でも、わたくしの両親を殺した殺人事件の犯人だったらしいセージちゃんの冤罪が晴れた事によるパーティーらしいけど」
そんな六年前に「リア」としての出会いを振り返るパービュアに、リアティスは「リア」の頃と変わらない返答で返し、リアティスの記憶を回復させたという騎士団達の所在の話題の後、パービュアがリアティスに告げたのは意外な言葉だった。
「なら、行きなさい。貴方の本来帰るべき場所に」
「え!?ですが…」
「記憶を失っていたとはいえ、六年も離れた本当の故郷で、天国の両親に記憶を取り戻した事と真犯人を捕まえた事を報告しなさい。何、記憶を取り戻しても、貴方は私達の家族として迎え入れるわよ」
「パービュアさん、ありがとうございます。では、行って参ります」
「あっ、リアお姉ちゃん。俺も…」
「アンタは駄目!ってか、もう夜でしょ!」
パービュアからの許可に、リアティスは感謝のお礼と共に外出準備を始め、出かけようとするリアティスの姿にレノも続こうとしたが、パービュアからの鉄拳制裁による拳骨音が聞こえては、リアティスはクスッと小さく笑いつつ、一路自分の記憶を回復させた騎士団がいる宿屋へと出かけて行った。
「ハハハ!フォレストの無罪確定パーティーじゃー!」
「お言葉ですが、ガーネットさん。まだセージ先輩の無罪が確定したわけでは…あと、お酒臭いです…」
その頃、宿屋の酒場では、ガーネットが本来の主役であるセージそっちのけ状態で酒をガブガブと飲んでは騒ぐ有様で場を仕切り、その姿にジーンとカージナルは呆れていた所だった。
「兄貴、主役はお前じゃないだろ。んで、酒をガブガブ飲むな。“フェル”とレインに二十歳だけど酒は飲めないジーンのジュース組にも配慮しろ」
「お、おお。すまん、“カー坊”。でも、これで六年分の重圧から解放されたじゃろ。フォレスト」
「ああ。でも、ソルと共にスティルレント家殺人事件の真犯人として再審が出来たとして、多分“色族首都”の住民権は取り戻せるかもしれないが、追放されている騎士団からの復帰は難しいだろう。如何せん時間をかけ過ぎたね」
「先輩…」
セージの今後の話から、ガーネットも先程まで美味しく飲んでいたはずの酒が不味く感じる程に我に返っては、途端に暗くなる酒場だったが、やって来た新たな客が、暗くなっていた酒場の重い空気を断ち切った。
「あらあら、どうしましたの?せっかくのパーティーがお通夜状態になってますよ」
「リアティス先輩!?どうして?」
「パービュアさんに許可を頂きましてね。よいしょっと」
お通夜状態のパーティーに新たにやって来た客―リアティスの到来に一同はまず驚いては、リアティスもセージの無罪確定パーティーへと参加していき、主役であるセージの隣へと座った。
「やっぱり、わたくしが行方不明になった事で、セージちゃんには色々と辛い思いをさせてしまったわね。でも、生き証人であるわたくしと騎士団のジーンちゃんで、セージちゃんへの“色族首都”への住民権復活や騎士団の復帰要請を…」
「いや。いいんだ、リアティス。六年前「絶望」に浸っていた僕は、“カージー”や“フェル”、騎士団になったジーンと出会い、事件を知って「希望」を諦めなかった仲間達と出会い共に戦った結果、記憶喪失から回復した君を取り戻した「奇跡」だけでも僕は幸せだよ」
「セージちゃん…」
リアティスは自分の行方不明と記憶喪失でセージに迷惑をかけた事にまずは謝っては、何とか追放された“色族首都”の住民権や騎士団に復帰できないか考えるも、セージはこの間“平原の村”の自警団としてカージナルとフェルメール、ジーンとの出会いや再会から、最終的にリアティスを記憶喪失から回復させた事で十分だと返した。
「ところで、これからどうするんですか?聞けば、わたくしの両親を殺した真犯人であるフロスト=クルセイドとソル=クロードに、行方不明であるわたくしの捜索任務でこの町を訪れたらしいですけど」
「そういや、今回で両方果たしたんだな。どうするんだ、ジーン?」
「では、アザレア女王様やジェード団長に無事を報告すべく、“色族首都”へご同行お願い出来ますか?リアティス先輩」
「ええ。それもパービュアさんからの許可が出ておりますし、大丈夫ですわよ。しかし、六年ぶりの故郷帰還となりますわね」
ジーンからの“色族首都”の同行要請に快く受諾したリアティスの一方で、ふとカージナルがある事に気付いた。
「しかし、無事に任務を果たそうとする今、このジーン部隊もそろそろ解散か。なんだかんだであっという間だったな。“同行者扱いの”兄貴」
「ぶほっ!お、思い出したくない事を…“カー坊”!」
「ガーネット君…」
「あらあら。セージちゃんの顔がお酒まみれですわね」
スティルレント家殺人事件の真犯人であるフロストとソルの確保と、行方不明であるリアティスの捜索が完了した今、“色族首都”でアザレア女王に報告を済ませば解散となるだろうジーン部隊から、ガーネットが“活気ある港町”でのスカーレッドからの言葉を思い出したのか、飲んでいた酒をセージに向けて盛大に噴き出してはカージナルに怒りの目を向け、顔が酒まみれになったセージに、リアティスが笑っては再び場が盛り上がりつつある一方、端からジュースを選んだ未成年であるフェルメールとレインの二人は、酒を飲むガーネットの所為か、成人組の会話からなかなか加われずにいた。
「まったく、ガーネットさんの顰蹙ときたら。ねぇ、レイン…レイン?」
「“あの続き”?…まさか…そんな…」
ガーネットの顰蹙行為に呆れるフェルメールは隣のレインに振るも、直ぐに返さないレインにおかしいと思って顔を見るや、フェルメールには聞こえない声で独り言を喋りながら、レインの体が小刻みに震えていたのだ。
「どうしたの。レイン?眠いの?」
「え?う、うん…」
「そう。なら、そろそろ寝ようか。“カージー”。私、レインと一緒に先に寝るわね」
「あ?ああ、お前らこの中で最年少だしな。そろそろ寝とけ」
「“カージー”も寝坊しないでよ」
夜故の眠気と、これ以上酒飲み勢の場に居てはレインが持たないと踏んだフェルメールは、カージナルに一言かけて先に別れ、残る成人組によるパーティーは、結局夜遅くまで続いたのであった。
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