第37話 6-6 リアティス=スティルレント
「くっ。所詮寄せ集めの集団である色族のどこに、こんな統率力が…」
戦闘開始から数分経つが、未だフロストは交戦中のカージナル達に手間取り、詠唱中のセージや、セージの後ろにいる“絶望の奇跡”ことレインの元へ到達していない。一対四の状況で、うち一人は現役の騎士団で残りは普通の一般人の構図なぞ、“平原の村”での戦闘で、一瞬の隙を突いてカージナルやセージを軽くあしらっていたようにいくはずだったフロストがこうも苦戦していたのは事実であったが、ここまでカージナルと交戦していたフロストに、突然の攻撃が割り込んできたのはその時だった。
「どうした?無駄口叩く余裕はないと思うが。それっ!」
「くっ!」
レイン・カラーズに住む人間なら、生まれた瞬間から必ず持つ「色」こと七つの属性から突出している一つの適正能力から名付けられた“主力属性”の力で、まずはカージナルが繰り出す「火」の斬撃にフロストは後方に跳躍して回避したが、着地した所は既に青い方陣が仕掛けられていたことに気付くも、最早再回避出来ない状況だった。
「引っ掛かったわね。水よ。凍てつく氷となりて、出でよ!」
「ぐぁっ…このっ!」
今度はフェルメールの主力属性である「水」に、雪山に漂う「氷」の「色」も交えた青い方陣から氷柱を繰り出し、攻撃を受けたフロストは大剣をフェルメールに向けて氷柱ごと薙ぎ払うが、既にフェルメールの姿はなく、その反対側から新たに現れたのはガーネットだった。
「どこ斬りかかってんだ?ワシはここだぜ!」
「くそっ!」
「遅いんだよ!今度は左だ!喰らぇ!」
ガーネットに斬りかかろうとしたフロストだったが、ガーネットは攻撃をかわして即座に敵の懐に飛び込み、彼の主力属性である「地」の力の拳で、先程の不意打ちでは右手から殴りかかったフロストに、今度は左手から腹部に向けて渾身の一撃を与えた。腹部に大ダメージを負い、溜らず血を吐いたフロストは体勢を崩すが、倒れる暇も与えないばかりに、周囲に光の結晶が降り注いだのはその時だった。
「行かせてもらいます!光の力よ!喰らいなさい!」
「ぐぁっ!こ、ここまでとは…!?」
最後に、ジーンの主力属性である「光」の結晶がフロストの元に降り注ぎ、同時にジーンがフロストに向けて短刀で切り刻み一閃した。息づく暇も与えないジーン部隊の連続攻撃にフロストは倒れかけながらも、大剣を杖代わりにして何とか踏みとどまり、再び大剣を構え直すが、もうフロストの負けは見えていた。なぜならセージの詠唱が完了したからだ。
「詠唱が完了したようですね。先輩、今です!」
「フロスト、これで終わりだ。喰ら…」
「終わり?主力属性の本当の力を見せて、同じ事が言えますかね!」
「させるか!…何!?」
セージの詠唱が完了し、彼の主力属性である「風」の魔法で六年分へのトドメを刺そうとしたその時だった。フロストの武器である大剣に付けられている水色のアイ、“ライトブルー・アイ”が光るや、突然吹雪が吹き荒び、吹雪と共にセージの元に突撃をかけたのだ。この突撃にカージナルが咄嗟に迎撃をしたが、剣劇によるフロストの大剣からカージナルの双剣に、フロストの主力属性である「氷」が伝染し始めたのだ。カージナルの主力属性が「火」でなければ最悪氷漬けになっていた所で、カージナルも主力属性「火」の力で氷を溶かし、フロストの突撃を何とか食い止めた。
「“カージー”、大丈夫!?」
「ああ。だが、フロストは主力属性の力を解放しやがった。もう、接触すら氷漬けコースだぞ」
「なら、どーするんじゃ?」
「ここは自分に任せて下さい。はっ!」
フロストの主力属性である「氷」の力を解放した事で、最早交戦すらままならない状況に途方に暮れる三人に、唯一ジーンが打開策があるのか名乗り出ては、光の短刀を三本フロストの周囲に向けて放ち、そこから現れた光の結界がフロストの周囲を包み込んだのだ。
「よし、これなら」
「最近編み出した技ですが、そう時間は稼げません。さあ、先輩。急いで下さい!」
「あ、ああ」
「色族め、小癪な真似を。こんなもの!」
ジーンが作ってくれた時間を無駄にするまいと、セージはフロストの思わぬ妨害で不発となってしまった「風」の魔術の再詠唱へ入り集中力を高めようとするが、耳元から響くフロストが大剣で結界を壊そうとする音で焦りが先に出てしまっていた。
「早く、早く、早く、早く、早く…」
このままでは、光の結界が破られ、ジーン達に危害が及ぶかもしれないという考えが先に出てしまい、なかなか集中できずにいたその時だった。詠唱するセージの手に別の手が添えられたのだ。見ると、そこにはリアがいたのだ。
「リアさん。何を?」
「自分の仲間達を信じて下さい。貴方ならできますよ。セー…」
最後が何故か聞き取れなかったが、リアの助力もあって先程まで焦りも出ていたセージは落ち着きを取り戻し、集中力を高め直す。その甲斐あってセージの主力属性である「風」から生まれた緑色の魔法陣に、恐らくリアのであろう紫色の魔法陣が加わり、たちまちジーンの光の結界を壊そうとするフロストの地上と上空に緑と紫の魔法陣が形成された次の瞬間―
物凄い稲光音と共に、周囲が真っ白な光に包まれた。
「い、一体何が起こったんじゃ?」
「凄い稲光が鳴り響いてたが…よし、目が慣れてきたな…!?おいおい。これ、同じ場所か?」
「まるで、クレーターね…って、セージに…リアさん!?あぶな…」
「待って下さい、フェルメールさん。もう勝負は付きました」
真っ白な光景からどれくらいの時間が経ったのか、ようやく目に慣れてきたフェルメール達が最初に見た光景は、先程まで均等に積もっていたはずの雪山の開けた場所にクレーターのような窪みが出来上がっており、あの稲光の凄さを思い知る中、フェルメールがクレーターの中央を見るや、稲光を間近に受けたのか、放電状態で倒れているフロストの近くにセージとリアを確認しては、途端に慌てて二人の元に近付こうとするも、決着を確信したジーンに静止された事で已む無く状況を見守った。
「く、ハハハ…まさか、これ程とはな。だが、両親の仇を取る好機を逃し、私を殺せない程の「雷」の力は情けか…?」
「何とでも言って下さい。貴方には聞きたい事がたくさんあります。その為に敢えて抑えましたから」
「ふっ、なら一つ忠告する。ヤツの、フェイランの真の目的。ヤツは端からオレ達を捨て駒にしていた。フェイラン…ヤツは、あの続きを…」
そこまで伝えた所でフロストは気絶し、少しの間の後、まずリアが口を開いた。
「さて。貴方達、騎士団ですか?なら、部隊長は誰かしら?急いで、“六年前の犯人”を“色族首都”に連行しないと」
「はい。部隊長は自分ですけど…え?」
フロストを倒し、今後の処置をフェルメール達に求めるリアだったが、彼女の発言に不可解な所に気付き、騎士団でジーン部隊の部隊長であるジーンが問い返した。
「お言葉ですが、リアさん。今、なんて?」
「え?“六年前の犯人”の事ですか?それに、“リア”ってなんか足りないですわよ。わたくしは…」
そう“リア”はセージの元に顔を向き直しては、自分の素性をセージに明かした。
「もう、六年も婚約者を待たせるなんて、わたくしの嫁になる夫失格だぞ。セージちゃん」
「ハハハ、六年ぶりの再会でも君には敵わないな。おかえり、“リアティス”」
“リア”改め“リアティス”は、六年ぶりの再会を果たした婚約者に記憶が戻った事を報告し、その光景にジーンが六年分の喜びを爆発させ、二人の元へと駆け寄って抱きしめた。
「おかえりなさい…リアティス先輩」
「ただいま、ジーンちゃん。騎士団就任、おめでとう」
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