第34話 6-3 リアティス=スティルレント

「レノー!レノー!…ったく、また私の目を盗んで外へ遊んでいるのかい?あのバカ息子は…」


さっきから息子であるレノの名を呼び続けているパービュア=ライラックの不機嫌は最早臨界点になりつつある中、そんな彼女を見かねたのか、一人の女性が名乗り出た。


「あの、パービュアさん。お困りなら、買い物はわたくしが代わりに行きましょうか?」

「いつもすまないわねぇ。リアさん」

「いいえ。これくらいは、お手伝いの身分としては当然ですから」

「ついでに、バカ息子に会ったら、捕まえて一旦戻って来てもいいからね」

「分かりました。では、行って参ります」


“リア”と名乗る女性は、本来はレノが任せるはずだったらしい買い物を代わりに引き受けるや、身支度を整えて外へと出かけて行った。



「着きました。ここが、“雪国の町”です」


“雪国の町”は、レイン・カラーズの北部地域にある町であり、南部地域が一年中暑い熱帯地域なら、北部地域はその逆で、“雪国”の名に相応しい一年中寒い寒冷地域である。当然のように、道行く人は防寒着を当たり前のように着こなしている町を、エルム城襲撃失敗による逃走の追撃と、本来の目的である六年前のスティルレント家殺人事件の残る真犯人であるフロストと、行方不明のリアティスの捜索でやって来た騎士団・ジーン部隊だったが―


「う~、顔が寒い。北部地域ってほんと寒いな…」

「そう?私は平気だけど。ねー、レイン」

「う、うん」

「お前とレインは青目系の色族だからここには強いんだろ。ったく、ホント寒いぜ…」


“色族首都”での補給から、各々防寒着を着こなしているとはいえ、“雪国の町”に着いて早々、赤目のカージナルはもう北部地域の寒さに参っていた一方で、青目のフェルメールは寒さなぞ気にしないかの如くな平気な顔をしていた。これでは、南部地域の“活気ある港町”とは真逆の立場である。


「何じゃ。だらしがないのぉ、“カー坊”は…は、は、ふぁくしょーい!」

「ガーネット君。鼻水飛びましたよ」

「おお、すまん。フォレスト…確かに。こりゃ、南部地域出身には堪えるわ…」

「早く拠点となる宿を確保しようぜ。俺もう…あたっ!」


カージナルと同じく南部地域出身のガーネットも、寒さで鼻水が隣のセージに飛ぶ程の豪快なくしゃみをしては、カージナルも寒さに耐えきれず宿を探そうとしたその時だった。突然何処からか飛んできた雪玉がカージナルに命中し、投げた大元と思われる複数の子供達が、ジーン部隊の元へとやって来たのだ。


「おにいちゃん、ごめんなさい」

「べ、別に構わんよ。たまたま俺に当たっただけだ。よくあるよくあ…たっ!」


恐らく寒さで顔が怒っているように思われたであろうカージナルを見て謝りに来た子供達を宥めようとしたカージナルだったが、またも飛んできた雪玉に当たった事で中断せざるを得ず、飛んできて当たった雪玉の方向を見ると、如何にもな悪ガキの子供が、カージナルに向けて挑発をしていた。


「やーい!やーい!寒さでつっ立ってるから当たるんだよ!」

「成程、アイツがリーダー格ってか?よーし、そこのお前ら。正直に謝ってくれたお礼は、俺と一緒にそこの悪ガキと一緒に成敗に協力してくれ。この雪を丸めりゃいいんだな」

「え?ちょっと、“カージー”!?」

「ハハハ。あの“泣き虫カー坊”が、子供と戯れてるとはのぉ。昔だったら有り得なかったのに」

「ガーネットさん。笑ってる場合?あっ、誰か来たわ」


恐らくカージナルを謝りに来た子供達を率いるリーダー格だろう悪ガキの挑発に乗ったカージナルは、子供達と共に雪玉遊びに加勢し、その姿を見て過去のカージナルを知るガーネットが笑い、フェルメールはあたふたし始める中、前方からこちらに向かってくる人影に、雪玉遊びをしていた子供が一人気付いては、リーダー格の悪ガキに向けて忠告をかけた。


「レノ。ヤバいよ。リアお姉ちゃんが来たよ」

「何!?良い所で…逃げるぞ!」

「あっ、見つけましたよ。レノちゃん。待ちなさぁ~…あっ!」


“リアお姉ちゃん”の言葉に、レノと名乗るリーダー格の悪ガキは途端に焦り出しては一目散に逃げ出し、彼に続かんばかりに子供達も逃げ出す姿に気付いたのか、リアと名乗る人影も彼らを追いかけ始めようとするも、雪道に足を取られて転んでしまい、転んだ拍子に被っていた帽子が飛んでいき、カージナルの足元へと落ちていった。


「いたた…」

「何なんだ?アイツら…大丈夫ですか?ほれ、帽子だ」

「あ、ありがとうございます…」


さっきまで子供達と雪玉遊びに加勢したばかりのカージナルは、突然の事態に呆気にとられるも、飛んできた帽子を拾っては、倒れているリアの体を起こそうと手を伸ばし、リアは雪まみれの服を叩いてはカージナルの手を掴んで起こしてはまずお礼をした一方で、彼女の姿を見たセージとジーンの二人の顔が突然変わった。


「!?」

「先輩。まさか、あれって…」


帽子が飛んで露わになったエメラルドグリーン色の髪、帽子で見えなかった目は紫色の“色族”。そして名前は“リア”という女性…


「さっきの悪ガキ…レノという奴とお知り合いなんですか?」

「ええ。わたくしは、そのレノちゃんがいる医者でお手伝いの身分でして、買い物をサボって遊びに出掛けたレノちゃんを見つけたら連れ戻してくれとパービュアさんに言われましてね…あっ、申し遅れました。わたくしは…」

「リアティス!」

「リアティス先輩!」


リアがカージナルに名前を言おうとした矢先、割り込むようにしてセージとジーンの二人が、彼女に向けた別の名前を叫んだのであった。

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