第32話 6-1 リアティス=スティルレント

ソルとエクアが担当の南部地域のファウンテン山の“火山地帯”で、“絶望の奇跡”捕獲に失敗しただけでなく、ソルが騎士団に捕まり、エクアは色族に寝返ったという報告は、北部地域にいるフロストの耳へと入っていた。


「何!ソルが騎士団に捕まり、エクアが裏切った!?やはり、ラーニアもあって仲が悪かった二人が、何も起こらずに任務を終えるわけはないと思ってたが、その二人を倒した色族もここまでとは…」


仲間の捕獲と裏切りに最初は動揺するフロストだったが、その二人を撃退した恐らく“絶望の奇跡”と共に居ただろう、“平原の村”でソルと交戦した色族の脅威と同時に、この不可解な任務の真の目的に気付いた。


「奴の真の狙いはまさか…俺達は結局、奴の捨て駒にしか過ぎなかったのか…」


フェイランの真の目的に気付いたフロストは拳を握り締めながら、ある決意を固めていた。


「このままやられるわけにはいかない。なら、俺が…」



「おお~っ!これが“色族首都”か!って事は、あそこにそびえ立つ建物がエルム城か?デカいな~!」

「兄貴、声デカいって。恥ずかしいよ…」


南部地域の“活気ある港町”から“色族首都”に戻って来たフェルメールらジーン部隊は、次なる目的地である北部地域に向け、一般人であるフェルメール・カージナル・セージ・レイン、そして“活気ある港町”で新たに仲間として加わったガーネットの五人は補給の為に各々買い物をし、残る部隊長であるジーンは、“火山地帯”で起こった出来事をアザレア女王に報告する為、エルム城で一人別行動だが、そのエルム城や“色族首都”の街並みを見て、ガーネットの周囲にお構いなしな大声が街中に響き渡っていた。


「何でじゃ、“カー坊”。“色族首都”じゃぞ!都会じゃぞ!田舎者にとっちゃ高揚しないわけないじゃろ!」

「俺は一人旅とかで何度も来てるし、セージに至っては…アレ?セージ?」


初めて“色族首都”に来た頃のフェルメールと同じような台詞で、フェルメール以上に高揚高ぶるガーネットにカージナルはウンザリしながら、この場にいるだろうセージに話を振ろうとしたが、ふと視線を見るや、当のセージの姿はなかった。


「セージ?…まさか、あそこか?」

「お、おい。何処行くんじゃ、“カー坊”?」


いつの間にか居なくなったセージを探し始めるカージナルだったが、この“色族首都”でセージが行きそうな場所といったらあそこしかない。その予想は当たり、セージはすぐに見つかった。


「やっぱり、ここにいたか。急にいなくなるから探したぜ」

「“カージー”…」


セージを見つけた場所―今回の任務の目的の一つであるリアティスという女性が六年前までに住んでいたというスティルレント邸があった空き地に、セージともう一人、セージの母親であるリーフもいた。


「あっ、リーフさんもいましたか。突然居なくなったセージを探しに来ましたけど、何か邪魔しちゃいましたか?」

「いいですよ、カージナルさん。たまたま会っただけですから。ところで、任務は順調ですか?」

「えっと、セージを冤罪に至らしめた人は捕まえたんですが、リアティスさんはまだ…」


親子の場面を邪魔して謝ろうとするカージナルにリーフは礼儀正しく返す中、リーフはカージナルに任務の進行を問おうとした所で、遅れてやって来たガーネットが、何も知らない事を差し引いても、空気を壊すに匹敵する発言をしたのはその時だった。


「ゼェ、ゼェ…やっと、追い付いたぜ。って、ん?何じゃ?この都会に合わない不自然な空き地は?」

「ちょっ、兄貴。失礼だろ。ここは俺達が今回の任務の目的であるリアティスという人が昔住んでいた家があった場所だ。んで、今セージの隣にいるのは、セージのお母さんだ」

「フォレストのお母さん…え?フォレストって、ここの人だったんか!?」

「正確には、六年前までは…かな」


ジーン部隊の同伴者として初めて訪れた“色族首都”とはいえ、何も知らずに任務の目的であるスティルレント邸の跡地を初めて見たガーネットの無礼な発言を、弟であるカージナルが必死の説明し、事情を把握したガーネットが驚く中、セージと共に盛り上がる三人を見てリーフが笑い始めた。


「リーフさん、すいません。初めて見たから出た台詞とはいえ、兄の無礼を…」

「ふふふ。いいのよ。セージがこの街を追い出されて六年の間、無事に過ごしていたのか心配していたけど、こんな愉快な仲間達と楽しんでいる姿を見て心配はないようね。よかった…」

「母さん…」

「何じゃ。良いムードになってきてんじゃん」

「ああ。兄貴が言うセージの居場所を取り戻す為、リアティスさんを何としても見つけ出さないとな」


セージがスティルレント家殺人犯として“色族首都”を追われ、一人残されて絶望に浸るも、ジーンの呼びかけから始まったセージの殺人犯を取り消すべく、微かな希望を求めて共に立ち上がったリーフの心境は相当のものだったに違いないと改めて思い、改めて行方不明のリアティスと残る事件の真犯人であるフロスト捜索の決意を固めようとしたその時だった。突然エルム城の方向から爆発音が聞こえたのだ。


「なんだ?」

「城の方からだぞ!」


城からの突然の爆発音に街中の人が一斉に反応し始め、カージナル達も爆発音がしたエルム城に注目したが、爆発先である城から立ち上る煙に、カージナルとセージの嫌な予感が働き始めていた。


「一体何じゃ?この爆発は?」

「あの場所…確か、ジーンはアザレア女王への報告で城にいるはずじゃ」

「くっ、ジーン!」

「あっ。おい、セージ!ったく、ただの爆発ならいいんだが…追うぞ、兄貴!」

「追うぞって、スカイとボウはどーすんじゃ?」

「今は時間がない!リーフさん、また」

「皆さん。気を付けて下さいね」


未だ爆発の正体が分からないが、その正体を一早く突き止めようと先行するセージをカージナルとガーネットが追いかけつつ、男性陣の三人は、急遽エルム城へと向うのであった。

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