第29話 5-4 居場所
“活気ある港町”の山道エリアの先には、ファウンテン山という火山がある。その周辺を火山地帯と呼ばれ、周囲には所々にある穴からマグマの熱気が溢れている岩場である危険地帯に、敢えて囮役として敵の罠に乗るフェルメール・セージ・レインの三人が先行し、彼等に遅れて後方から、万が一に備えてカージナルとジーン、そしてカージナルから同行を許したガーネットの三人が足を踏み入れた。
「ここ、熱いわね…」
「気をつけて、“フェル”。ちょっとでもよろめこうものなら、下のマグマにまっ逆さまだよ」
「それも勘弁してほしいわね。レイン、怖い?」
「ううん。“フェル”とセージさんがいるから…」
マグマからの熱気に早くも根を上げそうなフェルメールだが、セージの注意から何とか奮い立ち、一緒に同行しているレインを励ます姿を、後方に気付かれない位置からカージナルとジーン、そしてガーネットが先行する三人を見守りつつ、ふとジーンが、カージナルの介入で途切れたあの話の続きをガーネットに振った。
「お言葉ですが、ガーネットさん。スカーレッドさんから聞いた十五年前の話の続きですが…」
「お、おお。ガキの頃、ワシが嫌がる“カー坊”と共に「町の外に行くな」というスカーレッド小母さんからの忠告を無視して外に出た時に、運悪く黒族と出くわしたんじゃ。昔は怖いもの知らずだったワシの軽はずみな行動から、助けに来た親父が死んでしまい、“カー坊”とも暫く口を聞けない程気まずい状況が続いた。ワシが“カー坊”の居場所を壊したんじゃ…」
「そんな事が…」
ガーネットが語る十五年前の話をふったジーンが黙った所で、カージナルの歩みが止まったのはその時だった。
「どうしたんですか、カージナルさん?」
「皆、隠れろ。先行している三人の歩みが止まった」
ジーンが見るや、先行していたフェルメール・セージ・レインの三人の足がさっきから止まっている事から、いよいよ迫る敵の登場を警戒し、後続の三人も近くにあった岩陰に身を隠した。
「セージ…」
「ああ。どうやら、ここが指定場所のようだね。矢文通りの三人でここへ来て歓迎なしとは。隠れてないで出てきたらどうですか!」
その頃、殺気に一早く気付いて歩みを止めたセージら先行の三人は、誰もいないはずの火山地帯に一喝するや、近くの岩場に二人の影が現れたのはその直後だった。
「流石ね。伏しても私達を見破るとは」
「おうおう。守れない男が、随分と威勢張っちゃってさぁ!」
現れた二人の人影。一方は“平原の村”で“絶望の奇跡”ことレインを守ろうとカージナルと交戦したソル。もう一方は、“風の渓谷”で出会った「お面の雷紅」ことエクアだ。
「変わった組み合わせで登場とは。矢文という手の込んだ悪戯をしてまで、敢えて罠に乗った僕達をおびき寄せた目的は、大凡見当付くけど」
「ええ、そうよ。どうせ後続で構えてるだろう仲間達も合わせて、お前達はここで死んで貰うから。その為の墓場がここよ」
(やはり、後続の“カージー”達も読んでの罠か)
「レインは渡さないわ!」
「いいのかぁ。その青目の色族は戦闘経験皆無と聞いてるぞぉ。実質一対二で何が出来るんだぁ?」
敵のチェックメイト宣言から抗うべく槍を構えるセージとレインを守りながら長剣を構えるフェルメールの色族側と、こちらも武器を構えるエクアとソルの黒族側の戦闘態勢が整い、いざ矢文通りの決闘へ入ろうかとしていたその時だった。先に動いたのはソルだったが、彼の武器である鉤爪の狙いが、敵であるはずの対面のフェルメールらではなく、横にいた同じ黒族で仲間のはずのエクアだったのだ。
「!?…なんの真似だ、ソル…」
「悪く思うなよ、エクア。いや、ラーニアの事しか考えてない足手纏いさんよぉ!」
仲間であるはずのソルの攻撃を受けたエクアが地面に倒れるや、倒れたエクアの顔を、ソルが今までの鬱憤を晴らすかの如く何度も踏みつけていった。
「ぐはぁ!ぐっ、うう…」
「黒族のエリート出身であるオレからにしては、平民であるお前とラーニアの活躍が気に入らなかったんだよ!生意気だったんだよぉ!だから、お前が先に死にな。こんな任務、オレ様だけで十分だし、フェイラン様の報告では『エクアは、色族との激戦の末、壮絶な最期を遂げた』と伝えておくからさぁ!」
ソルの同士討ちが合図だったのか、エクアとソルが現れた岩陰以外から続々と黒族の手下達が現れ、たちまちフェルメール達を囲んだのだ。その数は十人。
「これって、私は知らな…ぐはぁ!」
「黙れや、エクア…さあ、お前ら。かかれ!“絶望の奇跡”を捕獲せよ!」
ソルの指揮に、エクアすら知らなかった黒族の手下達が、同士討ち以降黙るフェルメール達に向けて襲いかかろうとする一方、こちらにとっては想定外な事態も尚、劣勢の立場になりながら、それでもフェルメールとセージの表情は変わることはなく、このままソルの描いた計画通りになる…はずだった。
「何!?」
今まさに攻撃が届こうとしていた黒族の手下達が全員吹き飛んだのだ。“平原の村”でフロストと交戦していたはずのセージはさておき、戦闘経験が皆無と聞いていたはずのフェルメールまでもだ。吹き飛ばされた中から何人かの手下達が立ち上がり、再度攻撃を仕掛けようとするも、セージの槍とフェルメールの長剣によって尽く迎撃されていき、あっという間に手下達を蹴散らしたのだ。
「馬鹿な。有り得ん!婚約者を守れない男が…それに、あの青目の色族は、戦闘経験皆無と聞く!」
敵の知らないデータに動揺するソルを尻目に、たった今黒族を蹴散らしたセージと再びレインの近くに立つフェルメールが、ソルに敗北宣言に値する言葉を告げた。
「もう私だって十分戦えるのよ。黒族のエリート出身さん」
「どうやら、“フェル”を過小評価していたようだけど、それが仇になったようだね。仲間を信じなかったお前の負けだよ。もう僕は、六年前の僕じゃない」
「くっ、くそぉおおおおお!」
セージからの指摘に逆上して自暴自棄になったソルが二人の元に突撃するも、セージが落ち着いて迎撃すべく槍を構え、次の瞬間―
一閃
セージの攻撃を受けたソルは倒れ、彼の手から恐らく証拠隠滅用だろう零れ落ちた“レッド・アイ”が、セージの手元へと移っていった。
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