第28話 5-3 居場所

「で?今日が父さんの命日だったのを口実に、実家の片付けに来たスカーレッドさんから逃走してたら、たまたま俺達を見かけたって事?」

「おお。“カー坊”も知っとるじゃろ?スカーレッド小母さんの怖さを…」

「それは、兄貴の自業自得だろ。はぁ、俺がいなくなった途端、これかよ…」


父親の命日による墓参りを終えたカージナルとガーネットだったが、ガーネットから五年ぶりに実の弟と再会するまでの経緯を聞いたカージナルはため息を漏らすも、当のガーネットは、先程のスカーレッドの事を早く忘れたいのか、直ぐ様次の話題へと移っていた。


「そういや、“カー坊”。あんな連れと共に、五年ぶりに帰って来た故郷で何しに来たんじゃ?」

「ああ。兄貴との不意打ちな再会とかですっかり忘れてたな。俺達は…」


今回の里帰りの目的を話そうとしたカージナルだったが、ふと感じた殺気に会話を中断せざるを得なかった。続きを聞きたがっていたガーネットも、足を止めたカージナルを見て途端に不思議がる。


「どうしたんじゃ、“カー坊”?」

「いや、何でもない。さて、実家がああだと、“フェル”達はスカーレッドさんの家かな。話はそこで済ますから急ごう」

「え?お、おお」


どうやらガーネットには気付いていない殺気から振り切ろうと、カージナルは急遽足早の歩幅で歩き出し、事情を知らないガーネットも慌てて後に続いた。



「はぁ~疲れた~もうダメ…」

「“フェル”、しっかりして」

「あらあら。余程疲れてたんですね。まあ、ここ青目の人はあまり見かけないからね。ささ、残りの人達も遠慮しないで、上がって。上がって」

「お邪魔します」

「失礼します」


その頃、ブラウン兄弟の義母であるスカーレッドの家に、フェルメール・レイン・セージ・ジーンの四人がいた。スカーレッドが玄関の扉を開けるや、疲労困憊のフェルメールが真っ先に入っては彼女と共にいたレインも続き、その後にセージとジーンの二人も上がって今に至る中、女性三人の構図を見て、スカーレッドが開口一番切り出した。


「しかし、カージナルもやるわね。五年の間に、彼女三人も引き連れちゃって」

「か、かか、彼女!?」

「ははは。冗談よ、冗談。アイツ、恋愛なんて興味ないからさ」

「じ、冗談って…」


「彼女」発言に、真っ先に反応したフェルメールが戸惑うが、スカーレッドの冗談発言に赤面し、その光景に他の仲間達もただ笑うだけであったが、セージが窓の傍にある写真立てに目を付けては手に取ると、そこには父親らしき人とやんちゃな子供と恥ずかしがり屋な子供が二人の計三人の写真だった。


「この写真に写っている人、“カージー”とガーネット君と…お父さんですか?」

「ええ、そうよ。信じられないかもしれないけど、恥ずかしがり屋な方の子供がカージナルよ。アイツ、昔はどうしようもない程の泣き虫小僧でね。ガーネットやお父さんが唯一の拠り所だったのよ」

「へぇ。あの“カージー”が…そういや、さっき“お父さんの命日”とか言ってたけど」


セージが見つけた昔のカージナルらが写っているブラウン親子の写真立てに、フェルメールやレイン・ジーンも見入るが、フェルメールが先程のカージナルらの会話にあった「命日」の言葉を思い出してはスカーレッドに問いかけるも、スカーレッドは暫くの間を置いて重い口を開いた。


「十五年前かな。突然村に現れた黒族に攫われたカージナルとガーネットをを助けようと単身飛び込んだけど、交戦時に致命傷を負いながら二人を助けだし、何とか町に帰還出来た所で…」

「えっと…なんか、すいません」


先程の陽気な口調から一転したスカーレッドの暗い話に、話を切り出したフェルメールも謝る程となり、セージ達もただ黙るしかなかった。


「いいのよ。それで、あの出来事を境にカージナルは急に変わったわ。泣く事を止める宣言と共に、急にお父さんの剣を振り回してたし、ガーネットの方はああだけど、内心は自分の所為でカージナルの居場所を無くしてしまったという罪悪感もあると思うわ。それに…」

「おいおい。五年ぶりの故郷に帰って来た話題が暗過ぎだっての。ただいま、スカーレッドさん」

「“ただいま”って、“カー坊”。ここスカーレッド小母さんの家じゃ…」


まだ話を続けようとしたスカーレッドから割り込むかのように、丁度墓参りから帰って来たカージナルとガーネットの二人がスカーレッドの家に現れた。


「おかえり、カージナル。で、ただ単に連れと共に里帰りしたわけじゃないでしょ?」

「ああ。俺達は今、ちょっとした任務に協力しててな。詳しい話は騎士団であるジーンから」

「はい。自分達は今、六年前に起こったスティルレント家殺害事件の犯人だったセージ=フォレストに罪を擦り付けた真犯人である黒族、フロスト=クルセイドとソル=クロードの行方と、行方不明であるリアティス=スティルレントの捜索でこの町に来ました」

「え?その事件、セージ=フォレストという人が犯人じゃなかったの?真犯人と急に言われても、にわかに信じがたいけど…」


カージナルから振られたジーンからの話に、スカーレッドは突然告げられた知らない真実で混乱も、当のセージが勇気を出してスカーレッドに向けて口を開いた。


「スカーレッドさん。その事件の犯人にされたセージ=フォレストは僕です。しかし、僕はやっていません。解決済みの事件の犯人が冤罪を訴えるのも信じがたいかもしれませんが、信じて下さい」

「貴方がセージさん…成程ね。見た所、嘘をつく人じゃなさそうだし、信じられそうね。で、リアティスという人だけど、この町には…!?伏せて!」


犯人であり冤罪者でもあるセージの訴えに、スカーレッドが一拍間を置いての返事をしたその時だった。突然窓が割れ、向かいの壁へと何かが突き刺さったのだ。スカーレッドの判断が一歩遅ければ誰かに刺さっていたかもしれなかっただろう。


「何?何なの、一体!?」

「落ち着け、“フェル”。どうやら矢文だ。しかし、手の込んだ悪戯だな…」


突然の出来事に混乱するフェルメールを尻目に、カージナルが冷静に壁に突き刺さっている矢を引き抜き、一緒に付いていた白い小さな物を広げると、そこにはこう書かれていた。


【青目と緑目の色族と“絶望の奇跡”のみを連れ、火山地帯にて待つ】


「果たし状?」

「恐らく。で、「青目と緑目の色族」は“フェル”とセージの事で、「“絶望の奇跡”」はレインの事だろう」

「差出人不明な上、場所や来る人まで指定させての決闘…罠確実ですね」


矢文の内容に、ガーネットとスカーレッド以外の一同が見入る一方で、果たし状に指定された場所を知るスカーレッドが、一同に向けて忠告した。


「火山地帯って、この先にあるファウンテン山の事なら、あそこは危険地帯よ。そこに何しに?」

「恐らく、黒族からだ。“絶望の奇跡”であるレインまでも指定している所からして…」

「“絶望の奇跡”?五年の間に何が起きたかは知らないけど、私も同行させて」

「スカーレッドさん。気持ちは分かるが、矢文の内容からして、“フェル”とセージとレイン以外は来てはいけないみたいだ。だから…」


スカーレッドからの同行要請に断ろうとするカージナルだったが、スカーレッドの家に来てからずっと傍観していたガーネットがカージナルの元に歩み寄るや、再会時では防がれた鉄拳を、今度はカージナルの頬めがけて一発かまし、突然の鉄拳にカージナルの体が壁まで吹き飛んだ。


「ガーネット!」

「いたっ!いきなり何すんだ、兄貴!」

「“カー坊”。お前は親父が死んでから変わった。どうしようもなかった泣き虫小僧から変わるべく親父の剣を振るう姿を見て、親父を喪った事が変わるきっかけとなってしまった事にワシは複雑やった。お前の居場所をなくした犯人であるワシからにしては、親父に続いて今度はお前の連れまでも喪いたくない。だから、スカーレッド小母さんの代わりにワシが行くぞ!居場所を無くすな!」


スカーレッドに代わり、同行を名乗り出たガーネットからの説得に黙るカージナルは、少しの間を置いた後、口を開いた。


「兄貴…分かった。万が一に備えて、三人が出た後に俺達も行くから、ついて来い」

「“カー坊”…おおっ!」


ガーネットからの説得に観念したカージナルは、ガーネットの同行を許可し、後続部隊を結成しつつ、黒族の指名で先行する三人へ、今一度作戦確認をした。


「さて。黒族の罠に敢えて乗るからには、何が起こるか分かりません。自分達は遅れて行きますが、くれぐれも気を付けて下さい。先輩」

「分かったよ。ジーン」

「何で私まで指名したのか知らないけど、レインを狙う黒族を守るべく頑張らないとね」

「うん。“フェル”とセージさんの二人なら、怖くないよ」

「火山地帯は、山道エリアの先にあるわ。一本道で迷わないでしょうけど、気を付けて」


セージに続き、疲れも癒えて張り切るフェルメールとレインが先に出て行った所を見届けた後、カージナルは先程ガーネットに殴られた頬を当てながら、一言呟いた。


「“居場所”か…」

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