第26話 5-1 居場所
「未だ意識が戻らないというラーニアのことが心配かぁ?」
「別に。あの子は強いし、心配はしてないわ」
「そうか。さっきから気にしてたように見えてたからなぁ」
ソルの挑発めいた心配をエクアは一蹴した。今、二人は南部地域にある火山・ファウンテン山の火山地帯にいる。フェイランからの極秘任務の内容すらも明かさない謎の人選により、北部地域にフロストを、南部地域にソルとエクアが突然配備されてから今に至るが、残るラーニアは“風の渓谷”での戦闘で片腕を失う程の重傷を負い、未だに意識が戻っていない中での極秘任務に、エクアの顔は平常心のままでも内心は気が気ではなかった。
そもそもエクアは、何故それ程までにラーニアを想うのか?
あれは、五年前に遡る。
エクアの故郷だった黒族が主の名も無き一つの村が、心無い色族によって無惨に蹂躙された。
当時のエクアは、まだ普通の黒族の民の一人で、たまたま別の所に居た事で難を逃れたが、村の方向に煙を確認した事で急いで帰還するも時既に遅く、最初に目に飛び込んできた惨状に言葉が出なかった。家屋は焼け、道端には無数の死人。それはまさにこの世とは思えない光景だった。
「なんでこんなことに…お父さん!お母さん!」
エクアは無我夢中で “生存者”という一つの希望を求め、この先程まで起こった地獄を歩き回り、そして“彼女”と出会った。
「生存者!?大丈夫?怪我は…きゃっ!」
「色族!あたしの命まで奪うか!」
今となってはあの時、両親といった生存者探しに夢中になっていたエクアにとっては一瞬の油断だったかもしれない。倒れている人の中に座り込んでいる黒目の“生存者”を確認し、近づいた所で“生存者”は突然エクアに向って持っていた納刀状態の剣を振り回したのだ。もし、反応が一歩遅ければ、エクアに当たっていたかもしれなかった中、エクアはすんでの所で回避し、なおも剣をかざしながら威嚇する“生存者”に対し説得を試みた。
「落ち着いて。私は味方よ。貴方と同じ黒族よ!」
「み…かた?」
エクアを新手の色族と勘違いしたのだろうその“生存者”は、エクアの目の色が黒かったのを確認した後、持っていた剣を落とし、力なく座り込み倒れそうになる所を、エクアは素早く駆け寄り、“生存者”を抱きしめた。
「怖かったでしょ。もう大丈夫よ」
「なんで…」
「?」
「なんで、“色族”は“黒族”を襲うの?…あたし、悪いことなんてなに一つしてないのに…色族なんて、大嫌い…う…うわぁあああああん~」
恐怖から解放されたのか、突然“生存者”が泣き出したのだ。エクアの体の中で泣き叫ぶ“生存者”を見て、こんな子供までも恐怖に陥れた心無い色族の行動に初めて憎しみを感じた瞬間でもあった。
その後もエクアは“生存者”と共に他の生存者の捜索をしたが、結局エクアの両親も死亡しており、生存者は彼女一人だけだった。
そして、その“生存者”こそ、当時まだ幼き黒族の少女だったラーニアだったのだ。
あの出会いを境に、エクアは故郷を失った黒族の村で唯一生き残った“生存者”同士であるラーニアを我が妹のように可愛がった。お互い両親を喪い身寄りも無くなった二人をフェイランが引き取るや、あの時エクアを攻撃した納刀状態の剣をそのまま持ってきたラーニアと共にフェイランの元で戦闘経験を積み、やがて彼女と一緒に任務に同行しては、期待以上の戦火を上げる二人に、いつしかエクアに「お面の雷紅」、ラーニアに「漆黒の風」という通り名が付くまでに成り上がっていった。
しかし、急成長するエクアやラーニアの活躍を心よく思わない人がいた。ソルである。
フロストに聞けば、ソルはプライドが高く、遂行の為なら手段は問わないフロストと共に任を任されては完璧に任務をこなしていく中、ただの平民から成り上がって行ったエクアとラーニアの活躍が気に入らなかったのだ。
その為、ソルの挑発めいた軽口に簡単に乗ってしまっては衝突するラーニアに、エクアはいつも二人の喧嘩を止める毎日だった。このままラーニアとソルの衝突が長引くと、最悪同士討ちも起こりかねないだろう。エクアはそれを恐れていながらも、同時にラーニアが手をかけるぐらいなら、私がやる決意を胸に秘めていた所で、耳障りな声が聞こえてきたのはその時だった。
「エクア。エクアさぁ~ん」
どうやらラーニアとの出会いを思い出してずっと呆けていたらしく、ソルの呼びかけにようやく気付いたエクアが反応した。
「なんだ、ソル。聞こえているわ」
「これは失礼。斥候からの情報だ。どうやら、“絶望の奇跡”御一行様がこの近くの町に向かっているらしいぜ」
「“絶望の奇跡”御一行様?まさか、フェイラン様は…」
火山地帯周辺に飛ばしている斥候からの情報を聞いた後、ふとエクアにある案が浮かんだ。
「なら、その“絶望の奇跡”御一行様とやらをここへ誘い出しましょう。私にとっては“風の渓谷”でのリベンジ、ソルにとっては“平原の村”でのリベンジでお互い都合がいいはず」
「リベンジねぇ。まあいいだろう。その策、乗ったぜ」
エクアの提案に了承したソルを見ながら、エクアは同時にある決意を固めた。この思いがけぬチャンスを逃すわけにはいかなかったのだ。
(ラーニアが手をかけるくらいなら、私が…)
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