第24話 4-6 セージ=フォレスト
「ラーニア…」
電気も点けず、薄暗い病室のベッドで未だ目を開ける事なく眠り続ける意識不明のラーニアの姿に、エクアはただ隣で見ている事しか出来なかった。
無理もない。あの“風の渓谷”で起こった出来事から何とか“黒族首都”への帰還を果たした二人だったが、砂塵を吹き飛ばす程の龍を模った「水」の攻撃をまともに受けた事で右腕の付け根部から先は無くなっているラーニアを真っ先に病院に搬送して今に至っているが、同時にラーニアを意識不明の重体まで追い込んだ原因である敵の色族への怒りや、砂塵が晴れるまで待っていた油断から生まれた敵からの攻撃に、混乱もあって避けれなかった己の不甲斐なさによる後悔もあったエクアに、薄暗かった病室の電気が点けられ、ドアが開けられた音から聞こえて来る二つの足音に気付いたのはその時だった。
「誰!?…なんだ。フロストとソルか」
「ラーニアの容体は…言うまでもないか」
「結局、オメェらも“絶望の奇跡”奪還に失敗した中、右腕を犠牲にしてまで同僚を護った、まさに名誉の負傷ってか?」
「ソル!」
ラーニアの病室に来た新たな見舞客ことフロストとソルに、エクアとラーニアの活躍を気に入らないソルは、早速自分達と同様に“絶望の奇跡”ことレイン捕獲任務に失敗した事に対する皮肉を込めた言動でエクアの怒りを買おうとするも、見舞いに来たフロストが一喝してソルを黙らせた。
「で、見舞いと皮肉を伝えに私の元に来たのか?」
「これは失礼した、エクア。フェイラン様から急の召集がかかった」
「こんな夜中に招集って。一体何の用件なの?」
「分からんが、まあ、来れば分かるだろう」
フェイランからの予想外の召集にエクアは不思議がるも、当のフロストらも詳しくは分からないと首を振った程、これから何が伝えられるのかはフロストらにも伝えていないようだ。意識が戻らないラーニアも心配だが、フェイランからの召集命令とあらば仕方ないと割り切り、エクアもフロストらと共にラーニアがいる病室から退出した。
「皆、こんな夜中にすまない」
フロスト・ソル・エクアの三人は、夜中に召集をかけた張本人であるフェイランの私室に場所を移し、フェイランはまず夜中に召集をかけた三人に非礼を詫びた。
「それで、フェイラン様。私達をこんな夜中に呼び出した目的とは?」
「うむ。単刀直入、お前達に極秘任務を与える。出立は明日。人選は北部地域にフロスト、南部地域にソルとエクアだ」
「ちょっ、フェイラン様。なんでオレ様がエクアなんかと組むんですか!?」
フェイランからの突然の極秘任務の通達にまず驚いたのは、エクアとラーニアの女性陣とは馬が合わないにも関わらず、そのエクアと共に南部地域に割り振られたソルだった。残るフロストとエクアもフェイランからの突然の通達や今までとは違う人選に不思議がる中、まずフロストが説いた。
「フェイラン様。ここまでソルと共に任務をこなしてきた身としては、今回の極秘任務とやらで私だけ北部地域で、ソルとエクアを南部地域に割り振られた人選の理由をお聞きしたいのですが…」
「何。この極秘任務は各々の出身に合わせて配置したまでだ。あとは現地で待てば分かる。今回は以上だ」
三つの気候であるレイン=カラーズで、一年中寒い地域である北部地域出身であるフロストと、一年中熱い地域である南部地域出身であるソルとエクアから、恐らく土地勘に合わせた人選と思われる今回のフェイランの思惑だが、当の極秘任務が内容は現地に行けば分かる以外は全く分からず、人員配置といい謎だらけで三人は未だに理解に時間がかかる中、フェイランはエクアにこの場にはいないラーニアの事でこう告げた。
「エクアよ。お前がラーニアの事を大事にしているのはよく知っているし、“風の渓谷”での戦闘で右腕を失って意識不明の重体に心配な気持ちも分かる。だが、彼女に付きっきりのあまり、「お面の雷紅」と呼ばれるお前のその腕を訛らせるわけにはいかぬ。ラーニアの事は我に任せよ」
「フェイラン様…分かりました」
「ケッ、やっぱり気に入らねぇ」
「ソル。フェイラン様の前だ。口は慎め」
“風の渓谷”から帰還以降、意識不明のラーニアにずっと付きっきりだったエクアを想ってのフェイランからの言葉に、エクアは覚悟を決めた一方で、男性陣からソルはエクアと組む極秘任務に納得がいかず、フロストも未だに疑念が残るが、これ以上の問いは無駄と判断し、三人はフェイランの私室から退出した。私室にはフェイラン一人のみとなったが、フェイランは私室の窓に映る“黒族首都”の夜景を見ながら、とある呟きを始めた。
「ここまでお前達には感謝している。が、“あの出来事”を知らぬ身である以上、我の目的である“あの続き”には加えられぬ…そういえば、北部地域の“雪国の町”にある医者に、昔“色族首都”で起こった殺人事件の生存者によく似た若い女性がいるらしいと聞くが…まあ、“絶望の奇跡”以外は興味がない我には関係ないがな」
何か意味深な台詞を残しながら、フェイランの私室の窓から電気が消えた。
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