第23話 4-5 セージ=フォレスト
「せっかくの再会に、何故すぐに離れたのですか?」
「何の話だ?」
「“絶望の奇跡”と共にいた少女、フェルメールと名乗る水色の髪に青い目の瞳が、隊長の娘さんに似ていましたが…」
「リク。口を慎め」
「これは…失礼しました」
“色族首都”の街中を歩く傭兵のリクと隊長を名乗るラズーリとの会話は、先程二人が装飾店前で出会ったフェルメールと“絶望の奇跡”ことレインの話題だったが、リクがフェルメールの事をラズーリに問い質そうとするも、ラズーリはそれ以上の事を制し、リクは責める事なくそれに従った。
(確かに似ていた。が、もし彼女だとして、正体を知った後、俺の事を“お父さん”と呼んでくれるのだろうか…?)
ラズーリにしか聞こえない謎の呟きの中、二人は“色族首都”を後にした。
それぞれの“色族首都”散策を終えたフェルメールとレイン、カージナルの三人がエルム城前で合流した時はもう夜になっていた。
「ったく、意気揚々と街に散策もいいが、泊まる宿の事まで考えろよ」
「ゴメン。そこまで考えてなかった…」
「お言葉ですが、そんな事と思って、アザレア女王様とジェード団長がレインさんを“色族首都”に連れて来たお礼に宿の手配をさせたそうです。自分が案内しますよ」
「マジかよ。ホント色族民にフレンドリーな女王様だな」
いくらアザレアから街の散策を薦められたとはいえ、泊まる宿まで考えずに飛びした事を悔やむフェルメール一行に、ジーンがアザレアらから宿の手配済みの報告にカージナルが驚きながらも宿問題は解決したが、この場に居ないあと一人の問題が新たに発生した。
「ところで、セージ先輩はまだ来ていないのですか?」
「そういえば…まさか?」
「ちょっと、“カージー”!?」
この場に居ないあと一人―セージがまだエルム城前に来ていない事に気付くジーンとカージナルだが、カージナルが心当たりでもあるのか、急に走り出し、慌ててフェルメールらが追いかける中、やがて辿り着いたある場所に彼が居た。
そこは、草が多い茂った何もない更地、スティルレント邸の跡地だった。
「…やっぱり、六年経てば流石に何もないか」
六年前、黒族のフロストとソルによって自分の人生を狂わせた場所であり、婚約者であるリアティスが住んでいたスティルレント邸跡地に立つセージに、彼を探しに来たカージナルらが近付いては、更けるセージに声をかけた。
「セージ。お前、昔というか、本当はここの出身だったんだな。夕方、たまたまここを通った際に、偶然そこで出会ったお前の母さんに聞いたよ」
「“カージー”!?…ああ。僕は六年前までは“色族首都”で名門貴族の一つだったフォレスト家の人だよ」
「え?セージ、そんなにお偉いさんだったの!?」
セージの隠しもしなかった自分の正体に、今まで“平原の村”の保安官だと思っていたフェルメールは驚くが、カージナルは驚くフェルメールを見る事無く会話を続けた。
「どうやら、ジーンがいる騎士団になるはずが、ここで起こった事件を境に、どういうわけか、今は“平原の村”を守る保安官に…話せよ。メヴェウ隊長さんが言ってた“スティルレント家殺人犯”といい、このスティルレント邸の跡地で、六年前に一体何があったんだ?」
スティルレント邸跡地で起こった事を問い質すカージナルの訴えに、セージは顔を俯いたままだったが、暫くの沈黙の後、観念したのか重い口を開いた。
「ここの家の一人娘―リアティス=スティルレントの誕生日だった六年前の夜、君も交戦した“平原の村”でレイン君を狙った黒族のフロスト=クルセイドとソル=クロード。アイツらによってスティルレント家は惨殺された。僕の介入でリアティスだけは救えたが、ソルは去り際に床に撒いてた油に爆発寸前の“レッド・アイ”爆発させた。劫火の中、僕は命からがら逃げ出せれたが、待っていたのは、僕がスティルレント家の殺人犯という事実だった」
セージの口から語られる真実に、流石のカージナルらも息を呑んだ。
「それで、その後はどうなった?」
「僕は必死に無実を訴えたが聞き入れず、救えたはずのリアティスも行方不明となり、結果僕は罪を受け入れ、騎士団の地位、“色族首都”の住民権といった全てを失った。街を追い出されて流浪の身の中、辿り着いた“平原の村”で、僕を村の一人として受け入れてくれた」
「そして、俺や“フェル”と出会い、今に至ると…成程な。よく分かったぜ」
セージの口から語られた真実も終わり、事情を把握したカージナルは、セージに近付くや、突然鉄拳を繰り出したのだ。あまりの突然さに驚くフェルメール一行をよそに、セージの体はバランスを崩して地に倒れた。
「ぐわぁっ!」
「呆れたぜ。街の騎士団から村の保安官に成り下がった真実が、殺人犯の濡れ衣を着せられた冤罪者とはな!」
「仕方ないだろ。こうでもしなければ、いつまで経っても…」
「そこだ!やってもいない事を自分だと認めて諦める…俺はそれが気に入らねぇんだ!」
「じゃあ、どうすればよかったんだ!」
突然カージナルに殴られた理由が納得できず、セージが反論しようとするも、カージナルは間髪入れず、セージには知らない真実を語り始めた。
「これもお前の母さんから聞いたが、事件の後、ジーンが真っ先にお前が犯人じゃないという訴えを自ら起こしたらしい。最初はジーン一人だったが、徐々に賛同者が増えていつしか大所帯になった。その中にはお前の母さんもいたし、あのアザレア女王様やお前の親父は今も事件に疑問を抱いていると聞く」
「え?本当か、ジーン」
「はい…先輩」
「お前の事だ。ジーンがお前の冤罪を訴えているのに、誰にも迷惑かけずに一人で全てを片付けようとしたんだろ?そういう所がお前の悪い癖なんだよな」
カージナルが語るセージが知らない真実にセージの顔が変わり、悪癖までも見破られたセージはいつしか顔が赤面顔になっていった。
「全てを失ったとはいえ、何個は取り戻せるだろ。行方不明のリアティスという人を探すとかさ」
「でも、六年も経って何処に居るかは…」
「一人が駄目なら俺。それでも駄目なら“フェル”やジーンと共に探せばいい。一人で何もかも片付けないで、困ったら俺達を頼れ。“仲間”だろ?」
「仲…間…?ふふふ、ハハハ。やれやれ。そういう所は“カージー”には敵わないや」
“仲間”。全てを失った六年前から暫く忘れ去られていた単語に、セージの目からいつしか涙が溢れそうになるも、同時にこみ上げて来る笑いで誤魔化した。自分が“平原の町”で暮らしている間に、ジーンが自分の無罪を訴えて戦っていた事やカージナルの“仲間”発言に、それまで一人で全てを片付けようとしていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきたからだ。
「さて、夜に皆揃って僕を探していたという事は…さしづめ宿関連かな?」
「いや。お前は宿よりも帰るべき場所があるだろ?」
「え?」
セージの過去の話題で、そもそもの目的だった宿を手配した事によるセージ探しに話を戻した一行は、アザレアが手配した宿に行くのかと思いきや、何故か一軒の豪邸へと到着していた。
「凄~い、ここがセージの家!?」
「お言葉ですが、フェルメールさん。正確には「元」です。あと、夜で煩いです」
セージの家ことフォレスト邸を前に、夜である事を忘れて大きな声を出すフェルメールを見て、ジーンがお決まりの台詞で注意する中、カージナルが玄関の門をノックして暫く待った後、老齢の女性が応対して門を開けた途端、昼以来に改めて再会する息子の存在に言葉を失った。
「はい。こんな夜中にどなた…!?カージナルさんに、セージ…」
「た、ただいま…か、母さん」
「おかえりなさい。やっぱり、セージだったのね」
応対した老齢の女性―リーフと息子であるセージの六年ぶりの再会をよそに、フェルメール一行は何も言わず、静かにフォレスト邸を後にした。
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