第21話 4-3 セージ=フォレスト
「童が色族女王・アザレア=ブルーシードルよ…ふむ?どうした?」
「いや、結構フレンドリーな女王様だなというか…」
「こらっ、“カージー”!」
アザレアの歓迎に呆気に取られては、つい女王様相手に無礼を口走ってしまうカージナルだったが、そんなカージナルをアザレアではなく隣に居た男が赦した。
「アザレア様は、大人から子供までどんな身分の色族だろうと自ら接する程、色族国民からも好かれているからな。貴殿の印象は至極当然だろう。我からも“絶望の奇跡”と我が未来の騎士団の救出感謝する。我は騎士団長・ジェード=フォレストだ」
「フォレスト?セージの…」
「フォレスト」に反応したフェルメールだったが、その先は当のセージの方を見ながらカージナルによって遮られた中、自己紹介を終えたジェードは早速本題へと切り出した。
「さて、“絶望の奇跡”を“色族首都”へ保護する命を果たしたとはいえ、色々想定外ばかりでこちらとしては情報不足だ。起こった事を全て話して欲しい」
「ふむ。そんなことが…」
“絶望の奇跡”ことレインと共に“色族首都”に帰還中、黒族―エクアとラーニアの襲撃で部隊が全滅し、逃げ込んだ“風の渓谷”で“命の恩人達”ことフェルメール達による救出やエクア・ラーニアとの交戦と、帰還中に起こった出来事を、ジーンが代表して全てアザレアとジェードに報告した。
「黒族も“絶望の奇跡”の奪還に本気という事か。報告、大義であった。ジーン=スパイラルよ」
「はい。でも、新米騎士である私を護ってくれたメヴェウ隊長や皆は、もう…」
その先の言葉を出そうにも、メヴェウらを守れなかった己の不覚さにジーンの目には涙が溢れそうになる中、カージナルがそんな彼女を励ました。
「おいおい、泣くな。俺達が爆発音に気付かなかったら、今頃レインは黒族に奪還されてたんだし、犠牲者を悼む気持ちも分からんでもないが、生き残っただけでも価値があるもの。だから誇れ!」
「そうですね…」
カージナルの励ましにジーンは涙を拭った後、アザレアはフェルメール達に対し口を開いた。
「さて、フェルメール達よ。お主らには色々と知りたいことがあろう」
「なぜ、レインは黒族に追われているの?」
まずはフェルメールからだった。
「うむ。単刀直入に言うと、彼女は“虹族”という特殊な力を持つ色族だ」
「“虹族”?」
初めて聞くかのような単語に一行が訝しむ中、アザレアの会話が続く。
「お主らは、今から二十九年前にレイン・カラーズで起こった“開戦しなかった戦争”を知っておるか?」
「確か、開戦寸前に突然デカい虹がかかって、そこから現れた虹の精霊とやらが不思議な光を放ち、色族と黒族の争いを沈ませた…子供の頃、親父から聞いたことがある…じゃなかった。あります」
「ぷっ」
アザレアの質問に対しカージナルが答えたが、まだ敬語に慣れないカージナルにフェルメールは少し笑いかけながらも、アザレアは気にせず会話を続ける。
「その通り。その不思議な光を両者は「奇跡」として受け止め、その戦争は開戦しなかったが、ここ最近その不思議な光を持つ“虹族”が発見されたらしい」
「それが、レイン?」
「うむ。どうやら、彼女には“絶望の奇跡”の力の大元である“レインボウ・アイ”が宿っているらしく、その力をむざむざあの戦争で攻める側だった反国王派の黒族が黙ってはおるまい」
「“レインボウ・アイ”…そういや、メヴェウ隊長さんが言ってたような…」
“虹族”という色族・黒族とは異なる第三の種族の存在を知る一方で、“平原の村”でメヴェウから聞いた“レインボウ・アイ”の新たな情報も得たアザレアによる解説から、フェルメールがここまでのまとめに入った。
「つまり、二十九年前の戦争を止めた程の力を持つ「奇跡」、“レインボウ・アイ”を求める反黒族国王派の人達にレインが狙われているという事?」
「となると、俺達はトンでもない物を河原で拾ってしまったようだな。で、そのレインを無事にここに送り届けたんだが、その後どうする…んですか?」
「暫くはここで保護となる。直にブラック黒族国王との和平交渉を控えている故、そこまで至れば、反国王派も打つ手はないだろう」
ジェードによってレインの処遇も決まっていく中、フェルメールがアザレア女王様相手に勇気を出して口を開いた。
「アザレア女王様。あの…そのブラック黒族国王との和平交渉が終われば、レインは自由なんですよね?」
「ん?そのつもりではあるが」
「なら、その和平交渉が終わったら、レインを“平原の村”で一緒に暮らせれるんですよね?」
「“フェル”?」
一般人であるフェルメールからの要求に、当のレインですら驚く程だったが、あまりに子供じみた我儘な要求に、ジェードが真っ先に異論を唱えた。
「色族よ。仮に黒族国王との和平交渉が済んだとして、直ぐに“絶望の奇跡”の解放とは…」
「分かった。約束しよう」
「アザレア様?」
「よい。この者と“絶望の奇跡”との間に何があったかは知らぬが、民からの望みに可能な限り応えるのも女王の役目ぞ」
「…分かりました」
「ホント!女王様、騎士団長様、ありがとうございます!」
ジェードからの異論はアザレアの一言で片付けられてしまった事に、ジェードもこれ以上は何も言わず、フェルメールは、アザレアとジェードに駄目元の要求へのお礼を返した。
「さて、フェルメール達よ。お主らはこれからどうするのだ?」
「どうするって、特に予定とかは…」
「なら、暫くここに居るがよい。こんな形とはいえ、せっかく遠路遥々“色族首都”に来たのだ。観光せずに日帰りは勿体なかろう」
「まさか、女王様直々の観光薦めとは。ここは、有難く受けますか」
「じゃあ、レイン。一緒に行きましょ」
「え?ちょっと、“フェル”!」
「おいおい、“フェル”!いくらここは安全だからって、レインにもし何かあっても知らんぞ!ったく…」
レインに関する話や今後に関しての話が終わり、アザレアはフェルメール達に“色族首都”の観光を薦められ、フェルメールは我先にレインと共に城の外に出ては、カージナルは慌てて二人を追いかけた。城内にはアザレアとジェード、そしてセージとジーンが残ったが、ジェードは険しい顔つきで、先程までの会話にも加わらず黙り込んでいたセージに向けて重い口を開いた。
「セージ。六年前、地位を選び息子を助けれなかった我を恨んでいよう。息子の冤罪を実証しようと努力したのだが、我の予想を超えていた噂の広まりとは…」
「もういいよ、父さん。スティルレント家殺人事件の犯人を庇った事に、最悪騎士団長の地位までを剥奪されるわけにはいかないと思っての決断なら、僕は父さんの決断を尊重するよ」
「…部屋は六年前のままにしてある。“色族首都”の住民権は剥奪されたが、せっかく来たのなら、家にも顔を出せ。リーフも心配しておる」
「分かったよ。父さん」
「先輩…」
そう言い残し、セージも重い足取りで城の外へと出て行った。
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