第16話 3-5 風の渓谷にて
「よく見とけ、黒族共!今から凄い物を見せてやるぞ!」
「エクア。色族がああ言ってるけど」
「面白い事を言う色族ね。なら、私達もそれに応えましょうか」
カージナルの挑発に乗ったとばかりに、エクアは再び紫色の魔法陣を展開から詠唱を始め、ラーニアは再び黒き風となってカージナルの元へ突撃するも、今度は二振りの双短刀を武器にするジーンが迎撃してラーニアとの剣劇に持ち込み、セージは緑色の魔法陣を展開から出の早い「風」の魔法で、ジーンの援護とエクアの詠唱を的確に阻止していった。
「メヴェウ隊長の仇!」
「こいつ!やはり、“絶望の奇跡”を守ったのはフェイクじゃないな」
「ジーン。援護は任せろ。今は“カージー”が、“アレ”を使う時間を稼ぐんだ!」
「くっ。先程の二人と違ってなかなかやるわね」
先程のカージナルとフェルメールとは違い、まるで息が合っているかのようなセージとジーンの連携にラーニアとエクアは予想外の苦戦を強いられ、黒族と互角に渡り合っている二人の善戦を見てカージナルは一安心しつつ、“アレ”の準備を始めた。
「出だしは悪くないな。んじゃ」
カージナルは左の逆手に握っていた剣を順手に持ち替え、右手に持つ剣と交差をし、精神を集中し始めた。二つの剣の鍔にある赤色のアイ“レッド・アイ”が赤く光り始め、刀身が赤みを帯び始めていく。
レイン・カラーズ住む色族と黒族には、生まれながらにして火・地・光・風・氷・水・雷の七つの属性を身に付けるが、全ての属性を均等に扱えるわけではなく、七つの属性の中から一つだけ突出した適正属性を「主力属性」と言う。「主力属性」は色族は目の全体の色と、瞳の色は黒色の黒族は瞳を囲う虹彩の色と一致しており、赤色の目のカージナルは「火」が「主力属性」である。
そしてカージナルは、 “アレ”の正体である“平原の村”でセージだけが知っている大技を持っているが、セージが「本気か?」と危惧していた理由は、発動に時間がかかる上に、使用後は疲労困憊になる程で何度も出来ず、確実に成功する保証もない為で、まさにぶっつけ本番だからだ。
「余計な事は考えるな。今は、この場を切り抜ける事だけ考えるんだ…」
“風の渓谷”の周囲に漂う「緑色」である「風」からも「火」の“レッド・アイ”の双剣に蓄えつつ、カージナルは着実に“アレ”の大技の準備を進め、その大技の時間稼ぎにセージとジーンがエクアとラーニアと戦うという、戦闘経験がある三人が黒族に奮闘している光景を、フェルメールは負傷のレインを抱えながら、ただ黙って見守る事しか出来なかった。
「“カージー”。セージ。ジーンさん…私、これじゃ…」
戦闘経験がないのを承知にレインとジーンの救助に参加したが、敵の攻撃に翻弄され、守るはずだったレインも結果的に守られてしまい、見事に無様な足手まといを曝け出してしまった自分の不甲斐なさを嘆くその頃、カージナルの足止めに尽力するセージとジーンの二人だったが、徐々にエクアとラーニアの攻撃に押されつつあった。
「くっ、やはり強い。このままじゃ…」
「“カージー”、まだか!」
「もう少し…よし!」
丁度光る双剣に蓄えられた赤色のオーラと共に、カージナルが戦闘中のセージとジーンの二人に向けて叫んだ。
「二人共、退け!」
「ジーン!」
「分かりました。先輩!」
ラーニアと競い合っていたジーンが、カージナルの合図とセージの指示と共に一瞬の隙を付いて素早く回避に成功した。これで遮るものはエクアとラーニアの黒族の二人のみ。準備は整った。
「喰らえ!黒族!」
カージナルの「主力属性」の「火」に、“風の渓谷”に漂う「風」の力を加えた双剣を交差状態から解き放った。そこから放ったまるで火の鳥の翼のような炎の真空波は徐々に大きくなりながら、このままいけば確実にエクアとラーニアの二人に直撃する…はずだった。
「!?しまった!」
それ程広くはない渓谷で大技を仕掛けた事がそもそもの無謀だった。炎の真空波の両端が渓谷の両側の崖に当たり、無数の岩々となって斬り裂きながら減速していき、無情にもエクアとラーニアの二人を直撃はおろか、その直前で消滅してしまったのだ。
「そんな…」
「“カージー”…」
「やべぇ…ミスった!」
「なーんだ。色族の凄い物ってこんな程度なの?」
「でも、ちょっと肝を抜かしたわ。さて、覚悟はいいかしら?」
そうエクアがお返しとばかりに再び紫色の魔法陣を展開から詠唱に入り、瞬く間にカージナルは数分かかって発動した大技と同じような大きな雷球が出来上がっていく様は、まさにカージナルらの苦労が水の泡になった光景を、大技を放った反動で疲労困憊のカージナルやセージとジーンの三人は、迫り来る「絶望」を覚悟した。
「マズい…皆、逃げろ!」
カージナルの檄でセージとジーンが咄嗟に近くの大岩に身を隠し、カージナルも疲労困憊の体に力を振り絞りながら、さっきから放心状態だったフェルメールらの元に駆け寄った直後―
エクアが放った雷球が、カージナルがいる所で大爆発を引き起こした。
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