第10話 2-4 初めて目撃する奇跡
夜、レインは病室のベッドから起き上がるも、辺りは窓のカーテンの隙間から照らす月明かり以外は暗く、黒の静寂の闇に包まれていた。
「わたし…またあの力を…」
フェルメールとの握手以降、記憶が所々飛び飛びで思い出せない上、昨夜黒族に追い詰められた時に起こった謎の光を、“平原の村”でも発動した以降は完全に意識が飛んだ所から夜中に目覚めた事で目が冴えてしまい、仕方なくベッドから下りようとした矢先、隣のベッドの異変に気付いた。
「誰!?」
隣のベッドの異変に身構えるレインの声に反応したのか、異変の元である“盛り上がっていた何か”が激しく反応し始め、もぞもぞと白い毛布が動いた後、そこから露わになったのは、レインにとっては見覚えある女性だった。
「アレ?レイン、起きてたの?」
「なんだ。フェルメールさんでしたか…」
レインからの声に反応して起き上がった隣のベッドの異変元であるフェルメールに対し、身構えていたレインは、“盛り上がっていた何か”の正体が自分にとっては知っている顔もあって警戒を解いた。
「“フェル”でいいよ。ところで、熱はもう大丈夫?」
「うん…」
「まさか、眠れない?」
「う、うん…」
「気にしないで。こっちも眠れなかったから」
「そう…なんだ」
「でも、ちょうどいいわ。眠れないなら、ちょっと一緒に付き合っていい?」
「え?フェルメールさん。あっ、ちょっと…」
カーテンの隙間から漏れる月明かり以外は黒の静寂に包まれた病室で二人の他愛もない会話が続いた後、フェルメールは唐突にレインの手を掴み、病室から退出した。
「綺麗…」
「でしょ。この“平原の村”だからこそ見られる満天の星空よ」
病院の屋上に場所を移したフェルメールとレインの二人は、“平原の村”の夜空に広がる満天の綺麗な星空を眺めていた。
「わたし、こんな綺麗な星を見るの初めて」
「え?そうなの」
「うん。わたし、生まれつき体が弱くて、ほとんど家の中だったから」
「そうなんだ。でも、今は元気そうだし、この様子なら私と共に明日には退院できそうね…はぁ~」
「フェルメールさん?」
黒族のフロストとソルとの戦闘後の謎の高熱から元気そうなレインの姿に、フェルメールは安心からの溜め息の後、カージナル達の話から聞いたある単語をレインに問い質した。
「ねぇ、レイン。実は“カージー”とセージと騎士団様の話から、レインが“絶望の奇跡”と聞いたけど…」
「!?」
“絶望の奇跡”。その単語に反応したレインは一瞬驚いた後に暫く口籠るも、そんな自分をこうも仲良く接してくれるフェルメールに、勇気を出して自分がここまでに至った経緯に重い口を開いた。
「うん。わたし、このレイン・カラーズに伝わる“奇跡”を起こせるらしいの。黒い瞳をした人達から“絶望の奇跡”として捕らわれてどこかに連れて行かれたけど、昨夜わたしを助けてくれた人達から逃げ出して…」
「も、もういいよ、レイン。黒族に捕えられて怖かったんだね。でも、大丈夫。今この村に来ている騎士団様がレインをここより安全な“色族首都”に送り届けるらしいし、それに…」
昨夜の出来事を思い出し、段々涙目になりつつあるレインを宥めるフェルメールだったが、「それに…」から詰まり始めるその後の言葉はなんて言えばいいのか迷い始めた。レインの様子からして、夜が明ければ確実にレインとはお別れになるし、無事に“色族首都”に保護されたとしても、次にレインといつ会えるのかは分からない。ここは素直にお別れを言うべきかと色々考えた末に出た言葉は…
「私達…もう友達でしょ。だからほら、“フェルメールさん”じゃなくて“フェル”って言ってみて。さあ!」
「え?えっと…ふぇ…“フェル”」
「よろしい」
半ば強引な所もあったが、レインは恥ずかしながらもフェルメールを“フェル”と初めて呼び、フェルメールはレインが自分の愛称を呼んでくれた事に満足した後、レインにある約束を交わした。
「約束よ、レイン。今回の一件が終わって平和になったら、ここで一緒に暮らしましょ。さ、誓いの握手」
「う、うん。“フェル”。友達…」
「友達」。レインにとっては初めての経験から、いつしか表情がにこやかになっていき、初めてフェルメールらと出会った際には怖がっていた握手も、今度は怖がることなく握手した。
「“フェル”にどう伝えようかと思ってたけど、こりゃ、俺の出番はないな」
その様子をカージナルが見届けては、二人に気付かれないようゆっくりと離れて行った。
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