第7話 2-1 初めて目撃する奇跡
「危ねっ!」
「くっ!」
方や身の丈以上の大剣、方や鉤爪が武器のフードを被った黒いコートの二人による先制攻撃を、カージナルは双剣、セージは槍で迎撃し鍔迫り合いに持ち込むが、カージナルと交戦している鉤爪のフードを被った黒いコートの方がある質問をした。
「ほぉ。小さな村でこんな手練れの色族がいたとはなぁ。オレを楽しませてくれそーだが、その前にオレ達黒族はこの村に流れ着いたと思われる“少女”を探してるんだが、返答次第では分かってるよなぁ?」
「“少女”?」
カージナルは交戦しているフードを被った黒いコートの二人が黒族と分かった事よりも“少女”という単語に反応したが、大剣の黒族と交戦しているセージに向けて目で合図をした後、鉤爪の黒族の質問に対し返答する。
「そんな“少女”なんて知らねぇなぁ。尋ねる村間違えたんじゃね?」
「おいおい。嘘はいけねーなぁ!」
「ぐぅっ。流石に誤魔化せんか…このっ!」
「“カージー”!」
鉤爪の力を徐々に強めて双剣を押していく黒族に押されるカージナルのピンチに、セージは早く大剣の黒族との鍔迫り合いから打開しようとするも、彼と交戦している黒族が、セージの顔を見て思い出したかのような口調でセージに囁いた。
「おや?こんな所で再び会うとは。“婚約者を守れなかった人”が、この村で何を守れるんですがね?」
「何?…まさか!?」
大剣の黒族からの“婚約者を守れなかった人”に、セージの顔つきが変わり、同時に彼の脳裏にある記憶が呼び覚まされた。赤く血まみれの遺体、赤く燃え盛る一室、命からがら逃げ出した赤く炎上する一軒の豪邸…忘れる事はない昔の記憶を知る人物との再会に、セージの武器である槍に備え付けられている風の力を持つ緑色のアイ、“グリーン・アイ”の力を発動させ、吹き荒ぶ突風がカージナルの方まで及び、危険を感じた大剣と鉤爪の黒族が剣劇を解除した事で、結果的には窮地を脱する事に成功した。
「助かったぜ、セージ。だが、場所が場所だ。あまり村への被害は…って、セージ?」
窮地を脱したカージナルがセージにお礼を言うも、既にセージにはカージナルからのお礼すら聞こえず、先程の突風によってフードが脱げて露わになった目の瞳の色が黒―黒族に向け、突如声を荒げた。
「六年前、僕の全てを奪った黒族…フロスト=クルセイド、ソル=クロード!」
「ちょっ、セージ一体どうした!?お前らしくないぞ!」
フードが脱げた二人の黒族―フロストとソルに向けてセージは槍を構えて突撃し、いつもとは違う彼の言動に、事態を把握していないカージナルは暴走気味のセージに続いた。
その頃、フェルメールは病院の廊下の窓から二人の戦闘を見ていた。病室にいるレインを守るという目的があるとはいえ、二人が気になって廊下の窓から見守るも、ふと病室のドアの方に目を戻すや、フェルメールの言葉が止まった。
「何かセージの様子がおかしいけど…って、アレ?ドアが、開いてる!?」
彼女が驚くのも無理はなく、閉めていたはずの病室のドアがいつの間にか開いている事に慌てて病室に戻ると、先程まで毛布を被って震えていたはずのレインがいるはずのベッドがもぬけの殻で、どうやら窓の外から二人の戦いに見入って気付かない間に外へ出て行ってしまったのだろう。
「まさか…」
悪い予感を抑えつつ、フェルメールも慌ててレインが出たと思われる外を目指した。
「ハア…ハア…」
そのレインは既に外にいた。体の震えは止まらないものの、まるで何かに駆り立てるようにフロストとソルと交戦しているカージナルとセージの元へと向っていく姿を、カージナルが最初に気付いた。
「あれは、レイン!?くそっ、“フェル”は何やって…」
「余所見している余裕はねーぜ!」
「うわぁあ!」
「やはり、ここにいましたか。“絶望の奇跡”。今度こそ、覚悟!」
「セージ!レイン。逃げろ!」
フロストとソルの名前を叫んで以降、我を忘れて交戦のセージと彼に続くカージナルだったが、レインの存在からフロストとソルに一瞬の隙を突かれてしまい、ソルの攻撃を受けたセージは転倒し、カージナルは怯んだ所から間髪入れず、フロストが跳躍してレインの元へと許してしまった。
「レイン!」
「僕は、また守れないのか…」
フロストがレインに迫る光景に二人は最悪の状況を覚悟したが、フロストの武器である大剣の風切り音がいつまで経っても聞こえる事はなかった。何故なら、レインの体が突然光り出したのだ。
「また、あの光か…!?」
「フロストリーダー!」
あの夜と同じ光を知るフロストがまたも光に目を背けるが、今度は何処からともなくと来た謎の吹雪がフロストの体ごと吹き飛ばし、カージナル達が居た所まで戻されてしまったのだ。
「何だ、今の?」
「そんな事より、セージ。今の内にレインを!」
最悪の状況が、謎の光によって回避出来た事にカージナルとセージは呆気に取られるも、この隙にレイン保護に動くカージナルの指示によって、フロストが起き上がった時は、既にレインはカージナル達によって立ちはだかり、態勢を整え直されていた。
「また、“奇跡”に邪魔されるとはな」
「形勢逆転だな」
「お前には聞きたい事がある。フロスト=クルセイド、ソル=クロード!」
レインを守るように立ちはだかりながら、セージがフロストとソルに近付くのと、村の外から光の玉が数発打ち上がったのはほぼ同時だった。
「信号弾…フロストリーダー、時間切れだ」
「何!?もう少しという時に」
「何か慌しくなってきてるが、そう簡単に逃がすとは思わないで欲しいけど」
「そうですね。ただ足元に注意して欲しかったのですが…」
撤退すら難しい状況だと思い込んでいたカージナルが、先行していたセージの足元に注目した時はもう遅かった。いつの間にか仕掛けられていた黒い球による煙幕弾が時間差で炸裂し、瞬く間に周囲が黒一色に覆われたのだ。
「くそっ、煙幕弾か!」
「“カージー”!?待て!フロスト=クルセイド、ソル=クロード!」
「“絶望の奇跡”は逃してやる。だが、セージ=フォレスト。お前は何も守れない…」
「フロスト!ソル!」
「セージ…」
セージの雄叫びも虚しく、煙幕に隠れるかのようにフロストとソルはこの場からの離脱に成功し、黒一色の周囲が晴れた時にはもう黒族の二人の姿は無かったものの、レインはカージナルの後ろで無事と、とりあえずレインは守り切れた一方で、黒族の二人を逃がし悔しがるセージにカージナルが呟いた所で、ようやくフェルメールが二人の元へ来たのはその時だった。
「あっ、いたいた。“カージー”、セージ、大丈夫?」
「ああ…」
「大丈夫だ」
「レインは?って、レイン!?」
フェルメールが三人の合流を果たした所でレインがいつの間にか倒れていた事に気付き、最初は戦闘を至近距離で見た恐怖で気を失ったのかと思ったが、真っ先にフェルメールがレインを抱き抱えた途端、体の熱さから咄嗟に彼女の熱を確かめて驚愕する。
「!?凄い熱」
「くそっ、世話が焼ける。“フェル”、お守り対象見逃した罰でお前が救護しろ!」
「え?私一応病人なのに…もう、分かったわよ!」
カージナルの命令から、フェルメールが渋々レインを担ぎ、黒族との戦闘の疲れによる二人はレインの容態を見つつ、病院へと戻って行った。
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