第6話 1-3 その出会い、奇跡

フェルメールは、またあの場にいた。

もう数えきれないぐらいに見慣れている真っ白な空間にいた。

だが、今回はいつもと違っていた。

何故なら対面にいる黒い人影が、自分より身長が低い影だからだ。

いつもとは違う光景にフェルメールが疑問する暇もなく、そこで彼女の意識が黒一色に塗り潰された。



「はっ!」


いつも見る夢から目覚めたフェルメールが最初に見た光景は、いつもと違う見知らぬ天井だった。ベッドから起き上がるも、自分の部屋には知らない物がいくつか見受けられ、今いる場所が自分の部屋ではないと把握するのに幾分時間がかかったフェルメールに、隣から聞き慣れた声が聞こえたのはその時だった。


「おっ、一名様お目覚めか」

「“カージー”。セージ…確か謎の光から外に出ようとしたら、その後…」


隣で彼女を看病していたカージナルとセージよりも、フェルメールは必死に謎の光からの記憶を思い出そうとするが、まるで下書きの絵を描いても納得いかずに消しゴムで消しては描いての繰り返しの如く、その先の言葉が出てこないフェルメールに、カージナルが見かねて話を切り出した。


「しかし、吃驚したぜ。河原で寝ていた変な少女を見つけてここに連れて来たはいいが、その後セージが家に戻ったら、まさか玄関でお前まで倒れていたとはな」

「昨日の大雨で土嚢積みを手伝った疲れかもしれないけど、今の所は大丈夫かな。でも、暫く安静が必要だね」

「そう…って、え?「河原で寝ていた変な少女」?」

「ああ。お前の隣のベッドで寝ている人の事だが…」


カージナルとセージが説明した事で全て把握して落ち着いたフェルメールだったが、ふと彼女にとって思い当たらない一文に気付くや、思い当たらない一文を知るカージナルが指差した方向に目をやると、フェルメールの隣のベッドに見慣れない金髪の少女が寝ていた。


「ねぇ、この子どうしたの?」

「わかんねぇよ。最初光の繭みたいな状態だったし」

「まあまあ、二人共。ここは病室だから、あまり騒いでは…あ、起きちゃった」


「河原で寝ていた変な少女」から、病室という事を忘れて言い争うフェルメールとカージナルの声で睡眠を妨げられたのか、金髪の少女が目覚めてベッドから起き上がり、キョロキョロと辺りを見回しては、隣にいる見知らぬ色族の三人に気付くと、か細い声で喋り始めた。


「ここは…?」

「おっ、もう一名様もお目覚めか。ここは、“平原の村”という小さな村の小さな病院だ」

「大丈夫?君、色族かな?河原で気を失っていたんだけど、覚えてない?」

「う、うん。え、えっと…」


尚もか細い声で金髪で水色目の色族の少女は返答したが、続けて何かを言いたげそうな表情に、セージがまず反応する。


「ん?僕達の名前かい?僕はセージ=フォレスト。セージでいいよ」

「私はフェルメール=スカイ。フェルメールって長いから“フェル”って呼んでね」

「そして俺が」

「カージナル=ブラウン。河原で気絶していた君をここに運んでくれたのは彼だ」

「先に言うなよ、セージ。えーと、“カージー”でいいからな」

「とまあこんな感じかな。で、君の名前は?」

「わたしは…レイン。レイン=ボウ」


自分達の名前と読んだセージから自己紹介した事で、金髪に水色目の色族の少女が「レイン」。対してレインの方は、目の前の色族の三人が「セージ」「フェルメール」「カージナル」とお互いの名前を知った所で、フェルメールが別の話題を切り出す。


「しかし、昨日は大雨で川は増水してたはずだけど、よく助かったわね」

「恐らく、あの光の繭がレイン君を守ってくれたのかな?ここだけの話、あの赤目のお兄さんは、最初光の繭を魔物の卵と思っていたようでね」

「最低~」

「おまっ!あんなん見たら、誰だって思うだろ!」


自分がここに連れて来られた経緯だろう三人の話題に、蚊帳の外なレインは呆気に取られるも、三人の会話を見ていつしか口元から笑みがこぼれ始めていた。


「アレ?今笑った?」

「とりあえず、どんな事情なのかは知らないけど、迷子みたいだし、暫くここでゆっくりしてもいいよ」

「そういうことで、よろしくね。レイン」

「うん。よろし…!?」


レインの方針が決まり、フェルメールがレインに握手を求めようと手を伸ばした矢先、当然レインの表情が固まり、白い毛布で隠れるように縮こまっては、急に体中が震えだしたのだ。


「どうしたの。レイン?」


フェルメールが話しかけるも、手を伸ばした行為にトラウマでもあったのか、レインの体は未だ震えが止まらないまま、一言も答えない。


「怖くないわよ。何があったのかは知らないけど、私はあなたの味方よ。約束する」


レインを安心させようとするフェルメールに、レインは恐る恐るフェルメールに握手しようとしたその時だった。突如フェルメールの視界が白一色にホワイトアウトした後、彼女にとって見知らぬ記憶がノイズ交じりで流れ込む感覚が襲いかかって来たのだ。


(私は――――=―――――だ)

(俺は―――――=――――)

(私は―――=――――――よ)

(わたしは…)


「っ!」

「どうした、“フェル”。大丈夫か?」

「何でもない。でも、何?今の…」


「見知らぬ人と自己紹介する三人」という身に覚えのない謎の記憶にフェルメールは考え込むも、そんな暇も与えられない程の静寂を突き破り、病室のドアから村民が声を荒げてやって来たのはその時だった。


「大変だ!セージさん。カージナルさん。変な一団がこの村にやって来た」

「分かった。“カージー”行こう」

「ああ。“フェル”は、その少女を見ててくれ」

「え?あっ、“カージー”!?」


突然の事態にカージナルとセージは慌しく病室から出て行き、残ったフェルメールはレインと共に一人病室に残った。


「大丈夫。あの二人は強いから、大丈夫よ」

「う、うん…」


それでもレインの体は尚も震えたままだった。



「しかし、“変な一団”が気になるね」

「新手の賊じゃね?って、見るからにヤバそうな人達のお出ましだな」


病室から出た二人は、外に出た所でその“変な一団”と思われる口元しか見えないフードを被った黒いコート姿の二人の殺気に、カージナルはただの賊ではないと察した。


「どこの馬鹿か知らんが、一体何の目的でこの村に来たんだ?」


カージナルからの問いに答える事なく、黒いコートの二人は、武器を構えてカージナルとセージに襲いかかった。

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