第5話 1-2 その出会い、奇跡
「ふぁ~あ…」
「これで十回目かな?一体、いつまで出るのかな。君のあくびは?」
「って、数えんなっての。しょうがないだろ、出るもんは出るんだし」
「今日は“フェル”に一体何されたのかい?」
「される前に起きたよ。ったく、あいつの起こし方なんて…」
家を出て以降、尚もあくびを出すカージナルは、“フェル”ことフェルメールの毎朝の起こし方にブツブツと文句を言いながら、セージと共に“平原の村”の近くにある河原に向かっていた。
そもそもカージナルは“平原の村”出身ではなく、レイン・カラーズの南部にある“活気ある港町”の出身で、五年前にたまたま旅先で訪れた“平原の村”で賊の襲撃に居合わせては、村の自警団であるセージと共に撃退した事で、実力をセージに目を付けられて彼と住み始めてからというもの、本人曰く昔は早起きだったらしい一年中暑い気候にある“活気ある港町”と比べて、この地域は暑くもなく寒くもない気候に、今も体が慣れないからだろう。
「もう五年も経つのに、剣の腕は認めているが、日常の腕は相変わらずだね。“カージー”は」
「うるせー…ほら、着いたぞ」
自ら頬を叩いて気合いを入れ直した“カージー”ことカージナルと同時に、二人は昨日の夜に土嚢を積んだ河原に到着した。村中総出で積んだかいがあってか、土嚢は昨日の大雨を無事に持ち堪えたようで、村への決壊は阻止できたようだ。
「昨日の土嚢、何とか持ち堪えたようだね」
「ああ、何とかな。さーて、用は済んだし、家に戻って“フェル”が作った旨い飯でも…」
「“カージー”おにいちゃ~ん!セージおにいちゃ~ん!」
土嚢の無事と村への被害は皆無を確認した所で、今頃家で朝飯を作っているだろうフェルメールの所に引き返そうとしたカージナルに、子供達の声が二人を呼び止めたのはその時だった。
「おおー、朝から元気なガキンチョ。これでも眠いお兄ちゃんに一体何の用だ?」
「なんかね~、“ひかっているおおきなもの”が、このさきにあってね~」
「は?“光っている大きな物”だ?」
「アレの事かい?」
子供達からの摩訶不思議な内容に、セージが“光っている大きな物”を見付けてカージナルもその方向に目を向くと、先に川が右へと曲がっている河原に何かが光っていた。
「何だアレ?」
「分からないけど…いや、その先は止めよう。最悪大パニックになりかねない…」
「おにいちゃん、どうしたの?」
「よーし、お前らお手柄だぞ。後はこのお兄ちゃんがちゃちゃっと処理するから、お礼に今度一緒に遊んであげるからな。でも、今は気を付けて家に帰れよ」
「わぁ~たのしみ~」
「やくそくだよ。おにいちゃん」
「ばいば~い」
“光っている大きな物”から考えたくはない最悪の事態を想定しながらのヒソヒソ話の二人に子供達は段々不安がっていたが、カージナルの咄嗟の話題逸らしで子供達の不安を取り除き、一先ず“光っている大きな物”から子供達を引き離す事には成功した。
「“カージー”。こんな約束して大丈夫かい?」
「今はこうするしかないだろ。さて、面倒になる前に、宣言通りちゃちゃっと済ませようぜ」
「そうだね」
いつ“光っている大きな物”に動きが起こるかは分からない中、村中にパニックが起きる前にケリを付けようと、カージナルとセージの二人は急ぎ“光っている大きな物”へと急行した。
“光っている大きな物”がある河原に着いた二人が見たものは、まるで繭みたいに包まれている謎の光の物体だった。
「近くで見ると幻想的にも見えるけど」
「まさかとは思いたくはないが」
万が一の事態に備え、方や双剣を構えるカージナルと、方や槍を構えるセージの二人は戦闘態勢を維持しつつも、その“光っている大きな物”である繭に近づいていく中、突如繭から白一色の光を発したのはその時だった。
「うわっ!」
「しまっ!」
突然の光に二人は思わず条件反射的に目を背けようとするも、恐れていた最悪の事態は、繭が光り始めてからどのくらいの時間が経っても何も起こらなかったまま、やがて白一色の光が収まり、元の河原に戻った二人が見た光景は、倒れていた一人の少女だった。昨日の大雨の影響なのか、長い金髪は濡れて乱れており、来ていた白い服もビショビショである。
「に、人間?それも、女の子!?」
「ったく、驚かせやがって…お~い、大丈夫か~?」
“光っている大きな物”の正体を知り、構えていた武器を収めた二人は倒れていた少女に近付いて行き、カージナルがまず声をかけるも少女は反応せず、セージは妙に体が熱い少女の容体を調べつつおでこに手を触れた途端、顔が豹変した。
「マズいぞ。昨日の雨の影響か、この子凄い高熱だ」
「何!?こうしちゃいられん。セージ。急いでこの少女を医者に連れてくぞ!」
少女の危機的状態に、カージナルは少女をお姫さま抱っこの体勢で“平原の村”の医者の元へ急ぎ、セージは少女の容態を見つつ彼に続いた。
「さて、朝食の準備は出来たし、そろそろ二人が帰って来るはず…きゃっ!」
一方その頃、フェルメールは朝食の準備を終え、あとは二人が帰って来るのを待つだけだったが、突然窓から謎の光が発し、瞬く間に部屋中を白一色に塗りつぶされ、やがて光が収まるまでこの間数秒の出来事だったが、まるで長い時間が経ったかのような感覚に陥っていた。
「何?今の…」
謎の光に一体何が起こったのかさっぱりのフェルメールだったが、外から村の住人達の騒ぎ声が聞こえ始め、彼女も家の玄関のドアを開けようとしたが、それは叶わなかった。
(――――――――)
「え?アレ?おかしいな…目が…」
突如彼女に襲いかかる謎の幻聴と眩暈に体が耐え切れず、玄関の所で彼女の意識は黒一色に塗り潰されてしまった。
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