第4話 1-1 その出会い、奇跡
「う~んっ、良い天気。昨日からの雨も止んだ事だし、今日は絶好の洗濯日和ね」
レイン・カラーズの中部にある、文字通り平原の中にある小さな村。ここは、“平原の村”のとある一軒家。太陽が昇りきったばかりの庭先で、溜っていた洗濯物を物干し竿に干していたフェルメールの気分は、朝から上機嫌だった。
昨日は一日中雨で洗濯物は部屋干しし、夜には大雨となり増水した近くの川が決壊しないよう、“平原の村”の村中の男達総出による土嚢積みを女性ながら自ら進んで手伝ったりと色々疲れていたが、朝焼けに見た綺麗な虹や雨上がりの朝は、昨夜の疲れなぞ吹き飛ぶぐらい清々しい気持ちでいっぱいだからだ。
フェルメールが洗濯物を干し終えた所で家の玄関のドアが開き、中から黒髪で緑目の色族の青年が現れた。
「おはよう、“フェル”。相変わらず早起きだね」
「あっ、セージおはよう。だって「早起きはなんとやら」ってやつでしょ」
フェルメールを“フェル”の愛称で呼ぶセージと名乗る緑目の色族の青年―セージ=フォレストは、いつも自分より先に見かけるフェルメールの早起きに感心する一方、この場にいないもう一人の住人の存在との落差に、諺の訂正と共につい口が滑るかのように嘆いた。
「「早起きは三文の徳」の事かな?その台詞、“アイツ”にも教えてやりたいものだね」
「“アイツ”?はぁ~まだ寝てるの。セージ、アンタ“カージー”と同じ部屋じゃなかったの?」
「もちろん起こそうとしたけど、今日ぐらいは大目に見ては?君も知っているだろ?昨日の夜の大雨の時、近くの川が増水で決壊しないよう、僕や“カージー”も土嚢積みをしていたからさ」
「いーや、起こすわよ。せっかくの清々しい朝なんだから!」
「はいはい」
セージの口滑りから、フェルメールはこの清々しい朝に、“カージー”と名乗るもう一人の家の住人がまだ寝ているという事実に愕然とするも、すぐに切り替えて“カージー”を起こしに戻ろうとするフェルメールにセージは説得を試みるも、彼女の強い意志の前に、これ以上は何も言わず見送った。
「確かに、今日はいい天気だけどね」
そう呟きつつ、セージも一旦家の方へと戻って行った。
家は二階立てだが、階段を上がった先にある二つのドアのうち、向かって左がセージと“カージー”と名乗る人の部屋である。もう何回、いや数え切れないほどの日常茶飯事に彼女は部屋へのドアを開けると、案の定ベッドには、中に人がいると思われる毛布の盛り上がりがあった。
「やっぱり…ほら、“カージー”起きなさい」
いつもの通り、彼女は毛布の盛り上がりの中にいるだろう“カージー”と名乗る人を起こしに入るが、毛布の盛り上がりは動く気配はない。
「起きなさいって。みんなもう働き始めてるわよ」
「うぐっ、ぐ…ぐあっ、もうやめろって!」
今度は毛布の盛り上がりを足で踏んづけていくフェルメールに、五・六回踏んだ所で観念したのか、ようやく毛布の盛り上がりから“カージー”と名乗る人が現れた。
「ったく、“フェル”。お前も知ってんだろ? 昨日は雨の中、俺はセージや村中総出で土嚢とか積んでたんだからさぁ~。たまには大目に見てやってくれよぉ~」
“カージー”の愛称こと、こちらもフェルメールを“フェル”と呼ぶ茶髪で赤目の色族の青年―カージナル=ブラウンは、起き上がるや早々セージと同じ返答文で抗議しては再び寝ようとするが、フェルメールは動じることなく、カージナルに「一発で目覚めることが出来る魔法の呪文」を唱え始めた。
「あっ、そう。じゃあ、“今度はどういう起こし方”にしようかな~」
「!?わわっ、待て待て待て、起きます!起きますから!」
「よろしい。(まだ何も言ってないけど…まあいいわ。起きたし)」
フェルメールからの“口撃”に、完全に観念して起床したカージナルを確認し、フェルメールはようやく部屋から出て行ったが、カージナルは知っていた。彼女の“起こし方”なぞろくでもないことを…
最初は大声で「起きろー!」から、いつからか「今日のご飯は“カージー”の大好きな物だったなぁ~」や「起きないと、一日飯抜きよ!」と段々エスカレートし、この前は「一生寝てなさい!」と、部屋に飾ってあった摸造剣を取って振り上げる所で殺気で目が覚めたことがあった。あれは流石に「殺す気か!」とその後大喧嘩だったが…まあ、結局は俺の自業自得だけど。
ぶつぶつと嘆いても仕方ないとばかりに、眠い目を擦りながら、カージナルも部屋から退出した。
「やっと起きたか。この寝坊助」
「ああ、おはよう。セージ…ふぁ~あ」
腰に二振りの剣を据えた普段着姿で二階から降りてきたカージナルは、既に玄関にいたセージに向けてあくびを出しながら応えた。
「ほら、シャッキとする。男でしょ!」
「まるでお母さんな“フェル”に言われては形無しだな」
「悪かったなっと…ふぁ~あ」
「では、朝の見回り行ってくる。朝食、頼んだよ」
「は~い!二人とも行ってらっしゃ~い」
どこかの一家族みたいなやりとりで、カージナルとセージの二人は朝の見回りに出かけて行った。目的は昨日の大雨で近くの川に村中総出で積んだ土嚢の確認である。
「さてと。こちらも仕事に入りますか」
二人を見送り、この家の留守を任されたフェルメールも自分の仕事を始め、三人のいつもと変わらない一日がこうして始まろうとしていた。
“あの出会い”までは…
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