第3話 0-3 プロローグ

―そこに「絶望」も「希望」もない。

そこに「白」以外の色もない。

見えるのは、「白」だけの世界…。



ココハ…ドコ…?

ワタシハ…ダレ…?


上下左右、まるで絵を描く前の一枚の白い紙の中にいるかのような真っ白な空間で、“もう一人の少女”は歩いているのか、もしくは足だけ動いて宙に浮いているのか分からない感覚で、宛ても無く彷徨っていた。

もし歩いているのなら、どれだけ歩いたのか分からない少女の前方に、突然黒い人影が現れた。その姿はまるで少女を待っていたかのように見えた。


アナタハ…ダレ…?

―――――――――――――


少女はその黒い人影に向けて声をかけるも、人影への返ってくる声は聞き取ることが出来ず、そこで少女の意識は黒一色に途絶えた。



「はっ!」


悪夢から解放されたかのような声を出しながら、水色髪に青目の色族の少女は、自分の部屋のベッドから飛び起きた。目覚めた光景は、外では未だに降り続けている雨と、窓枠が風によってギシギシと揺れる音以外は静寂な黒の闇が包まれていた。


「また、あの夢…」


そう少女は呟いた。何時からだろうか?先程の夢を一度だけならず毎晩必ず見続けている上、いつも突然出現する黒い人影向けて声をかける所で目が覚めてしまい、その後は再び横になろうとするも、中々寝付けずにそのまま朝を迎えてしまう日々の繰り返しを、今回も例外なく再び横になっても眠れないまま、そうこうしている間に先程まで降り続いていた雨音や風による窓枠のギシギシ音も段々静かになっていき、暫くして窓から光が入り始めた。


「夜が明けていく…雨も止んできたかも。はぁ~今日も夢の所為で眠れなかったな…」


夜明けから寝るのを諦め、ため息をつきながらベッドから降りた少女は、徐々に明るくなってきた窓へと近付き、窓を開けた所で半円の光のアーチが少女を出迎えた。


「うわぁ~。綺麗な虹」


赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色が織り成す半円の光のアーチ、虹が少女の眼前に飛び込んできたのだ。雲の切れ間から登り始めた朝日もあってのあまりの美しい光景に、先程の夢なぞ綺麗さっぱり忘れた少女は暫く綺麗な虹に見惚れていたが、同時に虹から少女が知る昔の記憶も思い出しつつあった。


虹。私が住むこの大陸、レイン・カラーズに伝わる「奇跡」の象徴。

昔 「お父さん」からよく言われていたな…


(いいか、――――――。このレイン・カラーズには「晴れている時でも見られる虹」が存在する。その虹はこの大陸の「奇跡」の象徴で、雨上がりで見られる普通の虹とは比較にならない程、それは大陸全体を覆い尽くす大きな虹でな…)

(え~お父さん、ホントなの~それ~)

(ハハハ。まだ子供のお前には分からないか。でも、いつかは分かるさ。何せお前は…)


「お父さん」。生まれた記憶が何故かないらしい私を男手一つで育ててくれたが、四年前の雨の日に、この“平原の村”で別れたのを最後に消息不明らしい。

今、何処にいるのだろう。会いたい…


「…いけない。こんな清々しい朝なのに、私ったら」


「お父さん」と過ごした昔の日々を思い出しては、ふと少女の目から涙が溢れそうになっている事に気付くと、泣きそうになっていた顔から我に返って目を拭った後、気分転換に虹に向かって一言叫んだ。


「よーし、今日も一日頑張るぞ。おーっ!」


そう叫んだ後、長い水色髪を左に結んで左束ねのサイドポニーテール姿となった青目の色族の少女―フェルメール=スカイの一日がこうして始まった。

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