第5話 竜の道2、闘技場
ゴールドムーンは、闘技場奥で
「さあ、お客さんが来たよ。キンラマン。その先にあるブロックの間の狭い部分に入ってくる敵を倒してね。まあ、しばらく暇かもしれないけど。温存よろしく。」
「了解。」
キンラマンは盾を装備して、グラディウスを抜いて持ち場に向かう。
「Wow!いま気がついたけど、キンラマンは後ろにすごいレジェンド・ウエポン持っているね。敵じゃなくてよかった〜。」とゴールドムーンは見送りながら、背中の霊剣ノートゥングを見て言った。
NPC達も指示を受けて動き出した。まず、弓を持った天使が飛んで行き、レーザーのような光の矢を放つ。NPCならば空を飛べる設定か。プレイヤーは飛行を禁じられているのでかなり有利だ。
矢の斉射を受けて、入ってきたばかりのパーティー最前列の戦士風の男は、
そうして二パーティーほど、抵抗する間も無く、NPCや爆炎で片付けられていた。だが、三つ目は違っていた。先頭の男は、さきほど酒場にいた輩だ。
(ビーストが来たね。)とゴールドムーンのテレパシーボイスが頭に響く。
爆炎だけではひるまずに、その男は突撃してきて、バルキリーを跳ね飛ばした。
(さすがに、ビーストはヒットポイント高いね。)とゴールドムーンのテレパシーを聞く。
バルキリーは、遠くのほうで、ほかの戦士と応戦している。その後ろには、天使の弓の斉射を二本の剣で受け流す白熊の面をかぶったようなプレイヤーがいた。
(ゴールドムーン、聞いてほしい。なんだか凄腕の白熊顔がいる。)とキンラマンはテレパシーを送る。
(ビーストの盟主シロクマね。有名なプレーヤーよ。力もさることながら、相当な重課金していて装備がすごいから注意して。)
その時、酒場の例の男が大きな斧を振りかざして、キンラマンのいるブロックの隙間に走ってきた。
「そこにいたか、ぶっ潰してやるよ。」と吠えている。
攻撃は力任せの直線的に動きだ、読みやすい。キンラマンは盾で斧を受け流すと自然な流れでグラディウスを操り、心臓を貫いた。例の男は、その一太刀が致命傷になり、そのまま何も言わずに倒れた。キンラマンは、思い切り蹴飛ばして、生存確認をしたが反応はなかった。しばらくすると戦場から消滅して、ホームに強制送還されていく、ヒットポイント0になった証拠だ。それにしても、姿と口だけの大したことない奴だったなとキンラマンは思った。
気がつくとあたりには急に濃い霧が立ち込め始めている。3m先ぐらいまでしか見えない状況になった。
(まずい、
(敵の技?)
(そう。視力だけでなく、私の千里眼も効かない。きっと
ブロックの向こうで爆烈音と雷鳴が聞こえる。別種の魔法の打ち合いだ。おそらくビーストとAOWが戦闘をしているのだろう。
(バルキリーと天使が倒されたわ。近くに敵がいるはず、注意ね。)
確かに、右手に表示されているゴールドムーンのパーティー一覧を見ると、バルキリーと天使のヒットポイントゲージが0になっている。残るは忍者のみか。
キンラマンが顔を上げると、霧の先に黒い影が見えた。よく見るとシロクマだ。気が付くと同時に、剣が振り下ろされてきた。キンラマンはかろうじて盾で受ける。同時にシロクマの左手の剣が、キンラマンの胴体を狙ってくる。こちらは、グラディウスで受け流す。キンラマンは、盾でシロクマを押し返して、間合いを開けた。
シロクマの剣は、両手用武器にもなるバスタードソードの二刀流だ。間合いのレンジが広い。また、ふり抜き速度が早いため、キンラマンはなかなか、接近ができなかった。隙を見つけて、背中のノートゥングを抜かなくては。しかし、押される一方だ。剣と剣で火花を散らしながら、キンラマンの防戦が続く。じりじりと、位置を後退して、本陣前に開けてある広い領域まで押し込まれた。
シロクマとつばぜり合いを行っているとき、ゴールドムーンのテレパシーが届く。(
気が付くと隕石の直撃を受けて、前のシロクマが飛ばされて倒れた。キンラマンの周りにも高速の弾丸のような石が落ちてくる。キンラマンは盾を上にあげて、何発かはしのいだ。しかし、隕石群が終わった時には、ヒットポイントが半分に減っていた。
倒れたシロクマに目をやると、剣を地面について何とか立ち上がろうとしている。さすがに硬い相手だな、とキンラマンは思いながら、グラディウスを鞘に素早く収めて背中にある霊剣ノートゥングの柄に手をかける。この隙に倒さねばと思い、そのまま体勢を戻しつつあるシロクマに盾で体当たりをかけた。シロクマはキンラマンの重量を直接受けて、再度姿勢を崩す。そこを狙って、キンラマンのノートゥングが青白い光を放ち、抜刀一閃シロクマを袈裟斬りにした。シロクマはその場で絶命。幸運な一瞬だったが、それは不幸でもあった。
キンラマンのヒットポイント減少を見て、ゴールドムーンがテレパシーを送る(キンラマン、本陣まで戻って回復して。急がないと第二波の隕石がくるよ。)しかし、その言葉が終わるか終わらないか、キンラマンが本陣の方向に振り向いたとき、激しい石と石畳のぶつかる音がした。隕石の第二波だ。無差別にあちこちで石ははじけ飛び、キンラマンは、爆風ではね飛ばされた。
意識がもうろうとする中、洗濯機の中に入ったように地面を転げまわり、キンラマンはうめく。
(本陣の位置がわからなくなった。)
(とにかく、早くポーションで回復して。そのあと壁に当たるまで適当に歩いてみて。)
(わかった。)キンラマンのヒットポイントはぎりぎり残り、方向感のないまま、ポーションで回復をしつつ、本陣を探した。ゴールドムーンは冷静だなと思った。
その時、霧が突然晴れた。
(忍者が、術者に接近し、暗殺に成功したみたい。敵にとっても魔霧はリスクを伴うからね。けど、さっそくサイボーグのどちらかに忍者は倒されてしまったみたい。)
キンラマンは本陣の位置を視認すると急いで戻った。ゴールドムーンの姿も見える。
「キンラマン、何も考えずに伏せて。敵が隙間から入ってきたわ。」ゴールドムーンの言葉に、キンラマンはとにかく地面に伏せた。キンラマンの上を白い閃光が横切る。白きパルサーを存分に伸ばして、数10m先の遠距離攻撃をゴールドムーンは仕掛けた。相手にとっても想定外の攻撃であり、ダメージを受けて隙間の向こうに逃げていった。
「この白きパルサーは、距離があるとダメージも弱くなる。なので、けん制にしかならない。でも、回復時間が稼げる。」ゴールドムーンはこの状況でもまだ冷静さを保っていた。キンラマンは、現実世界の仕事では見ることができなかった凄みに驚いていた。
「千里眼で見ると相手はユーパインとザッキーのサイボーグ2名のみね。時間的にも後続のパーティーは入ってこないので、2対2の戦いになったってこと。」
「そのまま、戦えば五分五分かな。」数で考えればそうだがと、キンラマンは思っていた。
「ユーパインは、この前の私を倒した戦いの時、魔法を使ってきたわ。今回も何か秘策を持っているはずなので要注意よ。ひとまず、有利な魔法防御力のある本陣で回復しつつ迎え撃ちましょうか。」ゴールドムーンは前回の敗戦を元に作戦を考えていた。
「そうだね。相手が魔法を使ったタイミングで、突撃をかけるとか。」
「2対1の状態をうまく作れるといいのだけど。」
「うーむ。」とキンラマンも策を考えていた。
「ちょっと待って、チャンスかもしれない。」千里眼をレーダーのように駆使しているゴールドムーンがつぶやいた。
前方の隙間を見ているキンラマン達二人の不意を突くつもりで、ブロック壁を越えて、ザッキーが背後から襲い掛かかろうとしていた。ゴールドムーンはひそひそ声で前方を見ながらそのことを話し、キンラマンにアイコンタクトをして、うなずいた。
振り向きざまに、ゴールドムーンの剣が閃光を放ち、飛び降りている途中のザッキーの脇腹をとらえた。
「くっ。やられたか。」と脇腹を抑えながら、ザッキーは両手持ちの長剣を構えて、突撃をしてくる。白きパルサーの遠距離攻撃では傷が浅い。時を合わせて、前方の隙間からユーパインが表れて、
キンラマンとゴールドムーンは、そのタイミングを生かして、背後のザッキーに二人がかりで攻撃を仕掛ける。キンラマンが、ザッキーの鋭い長剣の一撃を盾で受け止めた。ものすごい衝撃で、盾に穴をあき、キンラマンの左腕を深く傷つけた。それでもひるまずにノートゥングを繰り出す。慌てて、後ろに立ち退くザッキーの足を、ゴールドムーンは剣でなぎ払った。その一撃はザッキーは片足を奪うために十分だった。ザッキーは、そのまま、体勢を崩しノートゥングの餌食になった。
ユーパインは、ザッキーの状況を見て今度は呪文を詠唱する。キンラマンは反転してその様子を見たが、攻撃呪文の詠唱と思い、いったん本陣に踏みとどまっていた。
「キンラマン、あれはおそらく召喚呪文よ。数的不利を補うための。彼が二度も同じ過ちをするはずない。」とゴールドムーンは相手の思考をすばやく読みとり、妨害するために白きパルサーを鞭のように振るった。ユーパインはその遠距離剣を盾で冷静に受け流し、右手の魔法剣を操作して地面に紋章を切った。
地面が光り輝き、そこには一体のストーン・ゴーレムが表れた。ゴーレムは声を上げると、そのままキンラマンに向けてのっしのっし進んできた。硬そうな相手だ。
「これで、2対2の状態に戻ったね。」ユーパインはあくまで冷徹であり、ゴールドムーンめがけて火炎の魔法剣による突撃を仕掛けてきた。
キンラマンは、ゴーレムに力で制圧されつつある。ノートゥングでさえ、ゴーレムの石肌を簡単に傷つけることができないからだ。また、ゴーレムの数回のパンチで、キンラマンの盾の形が変わりつつあった。これ以上ダメージ受けると壊れるなと、キンラマンは思った。
一方、ユーパインは素早いゴールドムーンの身のこなしにかなり手を焼いていた。長さが決まっている剣では、なかなか間合いが詰められず、白きパルサーで少しずつ傷が累積している状況だった。
「剣持つと強いね。ゴールドムーンさん。」これでも余裕を見せるユーパインだった。
(ゴールドムーン、ユーパインをゴーレムから引き離せないかな。)とキンラマンはテレパシーで伝えた。(2対1の状況を作りたいんだ。)とキンラマンは続ける。
(Ok!ゴーレムは移動速度が遅いところを利用するってことかな。良いアイデアね。)
(賢いな、よくわかったねゴールドムーン。)
(ふふふ。)
ユーパインは、ヒット&アウェイを繰り返すゴールドムーンを壁際に向かわせるような攻撃行動をとり始めていた。ゴールドムーンは、その意図を逆利用して、ユーパインが追い込みに成功しているよう見せかけた。
「さあ、後がなくなったね。ゴールドムーンさん。」
「同じ言葉を返すわ。ユーパインさん。」とゴールドムーンはキンラマンにアイコンタクトした。
ユーパインが気配を感じて振り返ると、そこにはキンラマンのノートゥングがあった。ユーパインはかろうじて盾で防ぐ。状況は2対1になっていた。ゴーレムは足が遅く、まだ、ずっと向こうにのっしのっしと歩いていた。
「力だけでは、竜の道は越えられない。酒場でそんな話したっけ。」とゴールドムーンは言いながら、ユーパインの剣を握る手に強烈な斬撃を浴びせた。魔法剣は腕ごと、地面に落ちていった。
「くっ。これまでか。」
「おつかれさま。ユーパイン。」と穏やかに言いながら、キンラマンは容赦なくノートゥングを振り下ろした。そのままユーパインは絶命。主人を失ったゴーレムは後ろの方で消滅した。
キンラマンとゴールドムーンは、ハイタッチをした。
「やったね!」
「やったな!」
二人とも、呼吸が合ってきたことを実感していた。しかし、残り30分、時間をだいぶ使ってしまった。てきぱきと武器を手じまい、回復を行い、次の試練へと二人は向かった。
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