群青のアトリエ

「群青のアトリエ」作・如月芳美さん

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889687603


 ◇作者さま作品紹介文


 ──ADHDでボッチで不登校だけど、あたし、絵描きになる!


 注意欠陥・多動性障害(ADHD)に悩む瑠璃(るり)は、中学二年で不登校になってから約二年の間、近くの図書館で絵を描いて過ごしていた。

 そこで出会った一人の男性。

 今まで会った事の無いタイプの彼に彼女は強く惹かれ、彼の仕事場に出入りするようになるが、そこにはもう一人出入りする同い年の男の子がいた。

 素敵な大人の男性と、憎たらしいけど少し気になる男の子。

 ADHDの彼女をきちんと受け止めてくれた二人との関係は――。


『設定とプロットの一部を共有して、別々の話を書いてみませんか?』と持ち掛けられた企画に乗りました。共通設定は企画者の丸和華さんが作りました。

 丸和さんの作品はこちら。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054890467868


 ※作品内に出てくるコンテスト、美術館等は全て架空のものです。

 ※ADHDのキャラが出てきますが、ADHDの方が全てこういう特性というわけではありません。『ADHDの中の一つの型』をピックアップしています。


 ◇私のレビュー


 ──フレームの外側を想像しよう。それが心を育て、創作の糧となるから。


 創作することは、自分の外側にある多くのものの中から必要なものを選び取り、濃縮してフレームの中に映し込むこと。

 知識、経験。それらから受けた感情や感覚を、自己のフィルターを通して取り込み、咀嚼して形にすること。


 この物語の主人公は自分の見えている範囲が自分の全て。フレームの外側を想像できなかった。

 しかし、これまで見えていなかった枠の外に思考を広げることで、彼女の目指す「絵描き」に近づいていく。


 注意欠陥・多動性障害(ADHD)。

 それは彼女が生きていく上でのハンデかもしれない。だが、この世にハンデのない完璧超人など存在しないのだ。

 どんな人物でも何かしらの欠点を持ち、しかしそれと折り合いをつけながら生きて行く。欠点は個性になり得るのだ。


 主人公はADHDの診断を受けるのが遅れた。

 幼い頃に診断されていれば、彼女が学校をドロップアウトすることはなかったかもしれない。

 しかし、彼女には素晴らしいギフトが用意されていた。

 色の居場所を把握する能力。色のトーンを把握する能力。

 彼女はわずか三歳で、十二色のクレヨンを輪のように並べて色相環を作ってしまったのだ。


 秀でた能力も周りが気づいてサポートしなければ潰されてしまうだろう。

 しかし彼女はチャンスを掴む。

 絵を描くために通っていた図書館で、一人の画家と出会ったことで。


 全五十話のうち前半は、主人公の瑠璃が様々な画材にチャレンジすることに終始する。

 ただそこに重ねられるのは、移り気な瑠璃の性格。

 教室の先輩である湊人との衝突でも彼女の生きづらさが示される。


 後半は思春期である瑠璃の感情が重ねられる。

 不安定な心はフレームの外側を想像出来ずに、自分を悲劇の主人公にして自家中毒になっていく。

 ただ、コミカルな恋愛要素が入ることでドライに話は進む。

 噛み合わない青い恋模様に笑わされているうちに、瑠璃は次第に成長していくのだ。


 見事な構成。言動根拠の綿密さ。場面展開の鮮やかさ。

 なのに、それらの巧妙さを感じさせない爽やかさが行間に溢れている。


 ただただ楽しい読書時間だった。

 全力でお勧めする!


 ◇


 凄い完成度。文句なしの作品でした。

 五十話。毎日二話の連載。ってことは二十五日読んだってことかあ。

 爽やかだったな。キレ味が抜群だった。テンポが最高。

 少々ピリリとする部分も喉ごし良く飲ませてくれる。ジンジャーエールみたいに。

 読者を引っ張る牽引力。コミカルなやり取りでの息継ぎも忘れない。

 読み終わってから、構成力の見事さを目次で確認してみて下さい。唸りましたよお。


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