あの声で蜥蜴食らうか時鳥

襖の前で

うじうじとしているわけにもいかない。

僕は勇気をだして声をだした。


「失礼いたします。」


すると、入れ、という言葉とともに

さっと襖が開いた。


...なるほど、

湯浅さんが開けてくれたようだ。


襖が開いたのはよかったが、

そこからどうしろというのだ。


呆然と立っている僕に

少し低めの声が

...これがハイトーンボイスというものか...

僕をかした。


「どうした、早く中に入らぬか。」


ハッとした僕はあわてて部屋の中へと進む。


真ん中ほどまでくると、

湯浅さんに座るように促された。


目の前にいるこの屋敷の主を

僕は改めて見た。


ふむ...

湯浅さんは

なかなか整っている顔をしていると

思っていたが、上には上がいるようだ。


といっても、

吉継さんは

頭から頭巾ずきんのような物を被っているので

見えているのは目元のみ。


それでも、

格好良さがにじみ出ているのはなぜだろうか。


「名は?」


「大谷蒼依と申します。」


「大谷だと...?」


吉継さんは少し目を細め、

僕をじっと見つめてくる。


しばらくすると、

天井の方に目を向けてまた僕を見た。


「そうか...それがそなたの真の名か?」


「はい。」


僕がそう答えると少しの間があり、


「そなたはどこから来たのだ?」

と聞いていた。


どこからって言っても...

この時代は越前やら近江やら

よくわからない国名だからなんとも言えない。


「そのことについて、

吉継様にご報告しなければならないことがあります。」


沈黙してしまった僕に

助け船を出そうとしたのか、

湯浅さんが言葉を発した。


「申してみよ。」


「はっ...どうやらアオイ殿は自らのことを

あまり覚えていないようなのです。」


湯浅さんの言葉を聞いた吉継さんの目が

キラリとひかったのがわかった。


「ほう...次の者はそうきたか。」


吉継さんはボソリと何かを言ったかと思うと

立ち上がった。


「それならば、

思い出すまでこちらにいればよい。

自らのことがわからなければ

困ることもあるだろう。」


最後に、失礼する、と言い

部屋を出ていってしまった。




「あの声で蜥蜴とかげ食らうか時鳥ほとときず

…人や物事は見かけによらないのだということ。

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