捨てる神あれば拾う神あり

「大丈夫、君は生きていますよ。」


どこからか聞こえてくる声。

その声には優しさがにじみ出ている。


「体調はどうですか?熱の方は...」


そう言って、

僕の目を覆っていたもの___手ぬぐいを

のけてくれた手は僕の額に触れる。

少しつめたい手のひらは心地よい。


「あぁ、だいぶ下がったみたいですね。」


いきなり目を開けたせいか、

目がチカチカとする。

だんだん慣れてくると

声の主の姿が視界に入った。

声と同様に優しそうな人である。


「あなた、が...」


話そうとしてもうまく声が出ない。

のどが潰れてしまったのか、

かすれた声しかでないのだ。


「あなたはこの三日間、

薬とおもゆしか口にしていないのです。

聞きたいことは色々とありますが、

まずは何か食べなければ行けませんね。」


「その後でもいいでしょう」

と言って立ち上がり、

襖にむかって囁くように何か言うと

また元のように戻ってきて座った。


二、三分も経たないうちに

僕の前には

美味しそうなお粥が運ばれてきた。


出来立てなのだろう。

熱々の湯気を立てているお粥には

見ているだけでツバがあふれてくるほど

酸っぱそうな梅がついてきた。


一口、また一口...

口の中にはじわりとお粥の味が広がる。

カツオやら昆布やらの優しいダシ汁が

すっと体に染み込んでいくような気がする。


「お味はいかがでしょうか?」


「...美味しいです。

とても、本当にとても美味しくて...」


僕の言葉それ以上続かなかった。

否、続けることができなかった。


僕の中で何か熱いものがこみ上げてきて、

堪えきれなかった雫が僕の頬を濡らしたからだ。


「僕は...僕はっ...」


何か口にしないと。

早く何か話さないと。

そう思えば思うほど、

逆に焦って何も出てこない。


「大丈夫です。大丈夫ですから。」


何が大丈夫なのかわからないが、

その言葉は僕をものすごく安心させた。


この人が誰なのか。

今僕はどこにいるのか。

なんで僕は生きているのか。


僕は何もわからない。

わからないから怖いのだ。

無知からは恐怖しか生まれない。

だからこそ、僕は今恐れている。

何もわからないという形がないものに

僕は恐怖を抱いていているのだ。




「捨てる神あれば拾う神あり」

…人生には色々とあるので、困ったことがあってもくよくよしてはいけないということ。

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