腐っても鯛

じいちゃんが亡くなって何年か経ち、

七歳だった僕は今では十六歳。

高校二年生になった。


小学、中学と平凡な日々を送り、

高校生活とやらに憧れを持っていた。

しかし、

憧れなど一年も経たずに打ち砕かれてしまった。

中間テストが終わると英検があり、

英検が終わると外部模試があり、

外部模試が終わると期末テストがある。

それのエンドレスともなれば、

誰だって気がめいるものだ。

勉強、勉強、勉強...

気づけばいつのまにか高校二年。

友達と放課後遊ぶこともないし、

彼女さえもできない。


しかも在校生が中学の時よりも多いため

人間関係のトラブルが絶えない。

うまく表現はできないが、

どろっどろのだらっだらで、

傍観者であっても当事者であっても

辛い状況が長々と続く。

長々と続きすぎると、

それがいじめへと発展する。

なんとも生きにくい高校生活である。


けれど、多分、悪いことばかりではない。

...というか、そうであってほしい。


「蒼依、早く部活いこーぜ。」


そう言いながら、

僕の席に近づいてくる男子が一人。

こいつは小学生からの腐れ縁で、

いつも一緒にいる。

名前は佐野涼太。

僕と同じ弓道部員で、

その甘いマスクで数々の女の子たちを落としてきた...と言われている。

本当のところはよくわからない。

ずっと一緒にいてきたけど、

涼太の彼女なんて見たことがなかった。

まぁ、僕に遠慮でもして、

付き合っていることを隠していたのかもしれない。


「今日は委員会があるって言ってただろ。

先に行けよ、部活に遅れるぞ。」


「...待ってるから。

早めに委員会終わらしてきてよ。

なぁ、お願いだから。」


でた、"涼太のお願い"が。

整っている顔の眉を下げて首を少し傾け

いかにも困ってますよ風にお願いする。

どうにも僕はこの顔をされると弱る。

逆にこの顔でお願いされて断れる人が見てみたいものだよ。


「はぁ...わかったよ。

急いで終わらせるから。

先輩にはちゃんと自分で伝えろよ。」


「うん、もちろんだよ。

委員会頑張ってきてね。」


「おう!」


涼太の笑顔に後ろ髪を引かれる思いで

僕は廊下へ出た。

そして、

そのまま図書室まで一直線に走った。




「腐っても鯛」

…もともと素晴らしい価値を持っているものは、古くなったとしても本来の価値を失うことはないということ。

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