亀の甲より年の功

いつの日か、じいちゃんが言っていた。

僕には武士の血が流れているのだと。


「のぉ、蒼依。

お前のお母さんの旧姓はなんというかわかるか?」


母親の旧姓。

そんなもの聞いたことが無かった。

聞く必要がなかったのだ。

僕の今の姓は佐江川であって、

もちろん父親の姓である。

母の旧姓を聞こうとも思わなかった。


驚いたような戸惑ったような僕の表情から

問いの答えを読み取ったのか、

じいちゃんは苦笑した。


「わからぬか...そうか、わからぬか....」


そう言いながら、

目を閉じながら何度も頷くじいちゃん。

その言葉には

僕を責めるような声色ではなかったが、

がっかりしたような響きを含んでいたのは感じとれた。


「...大谷というのだ。

お前のお母さんの旧姓は大谷なのだ。」


オオタニ。

あの頃の僕はまだ幼すぎて

よくわからなかった。

オオタニという姓が大谷であることも、

母とじいちゃんが同じ姓であったことも。

まだよく理解できていなかった、

七歳の夏だった。




「亀の甲より年の功」

…年長者の知恵や経験などは尊ぶべきであるということ。

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