ある魔術学校の校外学習で起きた出来事2

降ろされた場所は私の田舎の山北地区と呼ばれる場所だった。

近くには知り合いのお爺ちゃんの山林があって、その中の林の間にある山道に鎮座するバスで、丁度ト●ロを彷彿させるレトロなバスで割と村の遺産(観光名所)として残そうとしているらしいのだが、幽霊が出るという噂があるらしい。

そんなところに私たちのような人間と縁があった田舎の観光協会のおじさんが頼んだらしいとか。


「ふー」

で、無精ひげ不良予備校の先生はなんか、一人でタバコを吸っている。

ものすごくダルそうでむかっとしたので、タバコを取ろうとするが、何気ない所作でよけてしまう。


「甘い。というか、大人の一服くらいさせてくれよ。ここまでお前らの気を使って、タバコを吸ってないんだ。それくらいさせて貰わないと割に合わないぞ」

「不真面目。まずは引率の先生がやらなきゃいけないことは何?」

「お前らの引率。監督。手は出さない」

「う……」

割と正論っぽいことを言われたため、私は答えを返せない。物凄く悔しいので地面をだんだんと叩く。


「はいはい。不良教師が何を言っているんだか。それよりも、水梨手伝いなさい」

「え、あ。うん」


リリーちゃんは冷静にバスを眺めながら、一つの青い宝石がついたペンダントを取り出していた。

流石に本物の宝石ではないだろうが、そこには魔力を含めた探査の魔術式が組み込まれたペンダントだろう。

探っているのは魔力の違和感のようなもの。

私にはそういうものを触る許可は下りておらず、先生かリリーちゃんにしか触るなとしか言われている。ま、その辺は魔力制御の下手な私の信頼って奴だろう。

その代わりに私の魔力の高さというのは感知能力にたけているらしく、何の媒介もなしに違和感を探ることができていた。

昔は霊感があるなんて言っていたけど、今の高校で偶然それを見出されてリリーちゃんや予備校のみんなと出会った。

で、今回の私のお仕事はリリーちゃんの肩に触って、魔力の違和感スポットを探すお手伝いをすること。


「むむむっ」

「別にそんなに力まなくてもいいから」

「でも、私だって頑張らないと。ここで役に立たないって、そこの無精ひげに報告されたら、どうなるかわかんないもん」

無精ひげがため息をついているが、そんなことはどうでもいい。

リリーちゃんは口元を緩めて、優しく私に話しかける。


「焦るよりも正確さを求める。今はその仕事が必要。わかった。だから、まずは息を吸って、まずは目をつむる。意識を眉間と私の肩に集中する」

「あ、うん」

眉間に集中するのはそこに第三の目があると言われる、魔力眼があるとされているから。肩は私とリリーちゃんのパスをつなげて、少しでも違和感があれば、そこに何かがあるということ。

すぐに違和感があればそこでストップをして、あとは無精ひげに判断を仰ぐこと。

それが私たちのミッションである。


ぎゅっと目をつむり、眉間とリリーちゃんの肩に意識を集中させる。

世界のあり方が違うようになり、何か違うものに吸い込まれそうになるところをギリギリで食い止める。

いつもの感覚。魔術世界と現実世界は表裏一体でありながら、魔術世界は非常に不安定で一度呑み込まれれば帰ってこられなくなる。

誰かが言っていたのだけれども、溶岩の上の宝石を拾うような感覚で違和感を探る。非常に危険だけれども、それが一番の魔力探索の方法である、と。


チカッと木漏れ日のような光が暗闇の中に灯火のように見えて、林のようなものがじわじわと見えてくる。

しかし、それに触れてはいけない。木と魔術は非常に親和性が高く、呑み込まれたら終わりだ。まさに溶岩の上でサルベージを行うという例えが正しいかを思わせてくれる。


「大丈夫。だから、安心しなさい」


ふと、私の汗をハンカチで拭う優しい幼女の声。

リリーちゃんの声だ。

その声は非常に幼いが、優しく母のような声だった。


「バブみ~」

「黙れ。無精ひげ。集中力が途切れる」


雑音が入ったらしいが、現実に帰りそうになり、緑の芳香からは遠ざかる。

何とか逃げることには成功したらしい。

本当の目的地はバスの近く。バスの周りにある、何か。

変なものはないか。どこかにおかしいところはないか。

過去、私が見たバスと違う魔力の違いのような……。

そうだ。私はこの中でよく遊んでいた。一番後ろの後部座席で座って、誰かと遊んでいたような気がする。

彼女は一体。


『遊ぼ』


聞こえた声に私は吸い込まれる。

懐かしい、懐かしすぎる声に私は心を奪われる。


「水梨! 水梨芳花!」

リリーちゃん。ごめん。ちょっと眠い――

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