ある魔術学校の校外学習で起きた出来事1
校外学習などと称して、私たちにかけられたのはただの罰でしかなかった。
数日前、無精ひげ適当先生(私はそう呼んでいる)に言われて、学校の時計塔(魔術学校の予備校)の時計の針を一時間早くしろと言われて、失敗。
針をぽっきり折っちゃった私こと、水梨芳香は日曜日の朝、仕方なく早起きをする。
高校の学生寮住まいの私にとって、アンニュイな時間である。
普通はこんな時間に起きることなんてあるわけがないし、正直、しんどくてたまらない。
日曜日の朝だけど、寮母さんはいる。ただ
寮母さんなんて立場だから私のやった情報は入っているからちょっと冷たい目で見られているような気がする。
まあ、今日はそういうことはしなくてもいいかなと思う。
女子寮の2階の2段ベットの下から這い出して、制服を着る。
ただし、この少子化と子供たちにもプライバシーをなんてことで、上には誰もいない。
何となく引き締まったような気分になりながら、顔を洗う。
だって、今日は朝5時起きでやらなきゃいけないことは多い。
「起きて~、もう5時だよ~」
なんてことを隣の部屋の子に言うが、答えは「うーん、あと5分」というもの。
「ほんと、リリーちゃんは朝が弱いもんね」
とりあえず、時間が時間だから、寮母さんを起こすわけにはいかない。
適当に用意されている食パンをトーストにつっこんで、食堂の冷蔵庫の卵を手早く料理して、目玉焼きを焼く。
二人分を手早く作ると皿に盛り付ける。
本当は朝はご飯党の私なんだけど、時間はあまりないので仕方ない。
「はよう」
と不意に2階から寝ぼけ眼の金髪の女の子が降りてきた。
制服は来ているようだけれども、すごく不機嫌で眠たげな顔は猫を思わせてしまうのは私の気のせいではないと思う。
ま、リリーちゃんがちゃんと起きられただけマシだとは思う。いつもだったら、ドアをどんどん叩かないと起きてこないくらい。
今日は長い髪はぼさぼさだけど、制服は着ているし、起きてきただけ本当にマシだと思いたい。
「はいはい。髪の毛の間から角が見えてる。髪飾りでちゃんと隠そうね。あとはご飯食べようね。髪は梳かしてあげるから」
「いい。自分でやる」
「時間ないんだからね。あと、パンはよく噛んでね。そうしないとどこも育たないよ。本当に子供みたいな体形を気にするなら、そこも気にしないと、本当に子供のままだから。このままだと合法ロリとか言われちゃっているの知ってる?」
「うう」
時間がないという言葉に負けてしまったらしい。
とにかく、早くしないと。
外でクラクションの音が聞こえる。
「おーい、早くしろよ。じゃねえと、今日の門限に間に合わないぞ」
というオッサンの声がしてしまうわけである。
***
寮の前にやってきたミニバンに載せられ、私たちは学校の近くを走る県道をひた走る。
車両の後部に乗り、シートベルトを着用する。
「で、無精ひげ。どこにいく? やる気がないのに、ここまで連れてきたんだ。ちゃんと説明しろよ」
「ちょっと、事実を言っても仕方ないから。先生って言ってあげなよ」
「お前ら、俺を何だと思っているんだ」
『「無精ひげ」』
「一応先生だぞ。予備校だけどさ。魔術師だぞ」
というこのミニバンの運転手が少しだけ長い髪を後ろを束ねた何か微妙な白衣を着たおじさんが答えてくる。
「水梨。何となくわかるんだが、俺の年はまだ32だ。お前らの倍は生きているが、まだまだ若い。そんなことはわかっているだろ」
「何ですか? この無精ひげを剃らない不良教師。きちんと仕事をしなかったからこんなことになっているんだから。ちゃんと運転してよベー」
舌を出しながら、私はその無精ひげに文句を言う。
無精ひげは適当に頭をかきながら、運転をする。
「責任ってな。お前らが勝手に時計塔の針を折っちまったからだろ。これでも努力はしたんだぞ。予備校の授業に参加できるように、停学は無しにしてくださいって掛け合った」
「その結果がうちの田舎の置かれている廃バスに出る幽霊の調査なんですっけ」
「そうだよ。水梨。それはきちんとしているわけだな」
「そりゃあ、山北の廃バスとかよく遊んだわけで。そこに幽霊が出るとか許さないわけだけど」
私の田舎は割と学校から近かった。むしろ実家の方が遠いくらいで田舎に寄生するときは家からではなく、学校から行って親と合流するくらいの場所。
だからこそ、今でもよく行くことがあるわけで愛着はある。
「ふむ。それでそこに行って調査と。この日曜日と土曜日の連休を使って、調べて来いと」
リリーちゃんが私の顔を見やる。
心配そうな顔が何故か浮かんでいた。
「やる気がないな。ホント」
「ごめん」
力の制御がうまくできなかったのは本当に申し訳なく、こういう言葉しか私は言えない。
「いや、すまない――で、危険性とかは? こんな生徒にやらせるんだ。そんなに危なくはないだろう」
「ああ。あまり危険性はないということらしいがな。だから俺とお前たちだけで言って、実地の調査兼校外学習としている。無茶するなよ。特に水梨」
「ほへ? 私?」
「当たり前だ。お前の田舎だって聞いた。すでに爺さんばあさんは実家に引っ越しているらしいから、何にもないだろうが魔術はばらすなよ。あそこは学校じゃない」
「そんなことはわかっていますよ。何をいまさら」
「お前、割と空回りするからな。それと、何か顔が引き締まってて、何か気合入っている感じがする。それがどういう意味か大体わかるか?」
無精ひげが何だか、真面目に先生らしく言ってくるのに何だか変な感じがするが、私は言い返す。
「当たり前じゃないですか。私の田舎ですよ。そんなの気合が入るわけ」
「そういうところを無精ひげは心配している。あと危なっかしい」
「リリーちゃんまで。大丈夫ですよ。私、気合十分だけど、気を付けますから」
と私は返すが、リリーちゃんの顔は冴えない。余計に心配そうな顔を浮かべる。
「ま、もう少しでつく。廃バスまでそんなに遠くないんだな」
「そうですね。田舎の集落に入ったらすぐにある廃バスで、観光名所にしようとしているくらいなので手入れもされているはずです」
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