第8話 巡の日常 中編

「今日はチョココロネとメロンパンなんだ」


食堂のいつもの席で待っていると静が隣に座った。「そんな静はいつも通りのお弁当ね」と返事をする。今日も可愛らしい布に包まれた手作り弁当を持っており、女子力が溢れ出ている。


「正臣とカズは今日の学食何選ぶかなー。正臣はわかめうどん、カズはガッツリいくだろうからからあげ丼あたりかなー」


「まぁ、無難なところね」と律義にお弁当を食べずに2人を待っている静をよそに、私はチョココロネにかぶりついている。ちなみに最後にチョコをたっぷり味わいたいため、尻尾(細い)方から食べる。


「二人ともお待たせ、と言っても食べるのを待っているのはいつも静だけだが」


そんな他愛のない話を静と5分ほどしていたら、正臣が肉うどんを机に置きながら席に座った。カズは「まぁ食わずに待ってたら世界滅ぶわな」と、唐揚げ定食をもって目の前の席に座った。


「失礼な奴ねー。私だって待とうと思えば待て・・・待てるかな・・・?」


静に向かって聞くと「無意識で食べてそうだし無理だと思う」と無慈悲な返答された。痛いところを突かれ、ぐうの音も出なかったが、静の返答に私含め全員楽しそうに笑っているので良しとした。


「まぁ私の事は置いといて、皆って何か苦手なものとか無いの?」


「なんだ藪から棒に」とカズが唐揚げを食べながらこちらを見てきた。静は昨日の帰りに道に話し合ったカズの弱点絡みである事に気づいたらしく、特に怪しむ素振りもなくプチトマトを食べている。正臣はまた変な事を始めた、と言わんばかりの顔をしながらうどんをすすっている。


「いやぁ、皆の好きなことは所属してる部活や休み時間とかの話で知ってるけど、苦手なものは知らないなって思ったから聞いてみただけ」


勿論、皆が理由を聞いてくるだろう事は予想していたので、家で30分考えた完璧な返しをする。


「パン」「無いかなー」「経済学かな?」と正臣、カズ、静の順で言う。まぁやはりというか、正臣が私への宣戦布告なのか定かではない発言以外は予想できた。カズは自分の事はほとんど話さないし、静は点数が一番低い(と言っても平均点以上だが)経済学か虫とかだろうとは思っていた。


「無いってことは無いでしょー。考えてみたらすぐわかるって」


そう言って私はカズの弱点を握るべく問い詰める。正臣も気になるらしく「そういえばカズが嫌う素振りを見せる事見たことねぇな」と食いついている。これなら勝てる。そう思いカズに詰め寄ると


「無いって事は【無い】なら【無いって事は無い】という事も無いだろ」


などと言う理解不能な返事をした。しかし理解してないのは私だけの様で「ま、確かにな」「そこまでいくと言葉遊びかトンチね」と正臣、静の順で答えた。私が理解してないのが顔か態度で丸わかりなのか、静が説明してくれるが意味不明であった。


結局理解出ぬまま予鈴が鳴り、教室に戻った。そして席に座った瞬間、見事に話題をそらされた事に気づき天井を仰ぎ見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園重奏 cocokazu @cocokazu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る