第4話 静の日常 前編
いつも通りの、変わらぬ日常。同じ速度で、同じ向き。縮まりもせず、離れもしない。そんな状態がこれからも、いつまでも続くと願う。この距離がきっと、誰も悲しまない、唯一の距離。
「今日のおかずは何にしようかな」
朝6時過ぎ。私はいつも通りお弁当を作っていた。
大体朝6時に起きて、簡単に身だしなみを整えてキッチンに立つ。寝坊したり、日直の日以外は基本的にお弁当を作っている。
お弁当を作る理由は母が料理が得意で昔から一緒に作っており、ある程度の料理は作れるし、料理自体も好きだから。
中学の頃は学食はあったが、母が毎日お弁当を作っていた。高校も最初は作ってくれていたが、早起きして作ってもらうのも申し訳なく思ったし、何より私が料理する事をいつも嬉しそうに見てくれていたので、1年の2学期からは自分で作ることにした。
母は「大丈夫?早起きつらくない?」と最初は心配していたが、今では私が家に帰ると「今日のおかずの出来はどうだった?」と嬉しそうに話しかけてくる。
「半分は昨日の残り物の野菜炒めとして、、、卵焼きとウィンナーでも入れようかな」
献立が決まれば後は作るだけ。
冷蔵庫から卵2つとウィンナーの入った袋から10本取り出す。
ウィンナーが多いのはお弁当のおかずを作る際、ついでに家族の分の朝ごはんのおかず分も作ってしまうからだ。父、母、姉、私の4人家族なので、朝食分を作る際は4人分+お弁当分となる。
卵焼きを同時並行で作る。出来上がった卵焼きは、半分に切ってお弁当に入れる。残り半分は少し小さくなってしまうが4等分にしてウィンナーと同じく朝ごはんのおかずにする。
10本の内2本はお弁当の卵焼きの横に置き、残りはお皿にまとめておいておく。
「あとはケチャップを少しかけて、、、できあがりっと。」
時計は6時半を示していた。
できたお弁当は、熱を逃がすために開けたまま置いておき、出かける直前に蓋をして鞄に入れるようにしている。
いつものようにキッチンテーブルの端に置きに行こうとしたとき、階段を降りる音が聞こえた。
父はこの時間には起きてこないし、階段を降りる音が軽快なので母だろう。お弁当をいつもの位置に置くと予想通り母がキッチンにやってきた。
「おはよう、静。お弁当作り終わったの?」
「おはよ、もう作り終わったよ。おかず多めに作っといたから朝ごはんの足しにして。」
「いつもありがとね」という母の声を聞きながら私は登校する準備をするために母に「着替えてくる」と伝えて2階の自分の部屋へ向かった。
私の部屋はよくある女の子の部屋の様に可愛いぬいぐるみやピンクなどの家具はない。
木の机にシンクブルーの丸テーブル、スカイブルー色のベッドに壁にクローゼットがあるだけのわりと落ち着いた、男の子の部屋といっても違和感がない感じの部屋だ。
あまり欲しいものなどもないため、部屋には家具や小物と言ったものはあまりない。
ピンクなどの色もあまり好きではなく、落ち着いた感じの、例えば青や緑と言った色がすきなのでこのような部屋になっている。
クローゼットを開いて制服を取り出し、ベッドに置いた。
エプロンを脱いでクローゼットに掛けたらパジャマを脱いで制服に着替える。
少し乱れた肩まで伸びた髪を整えたら、パジャマをもって1階へ降りる。
洗濯カゴの中にパジャマを入れたらキッチンに行って母の手伝いをする。大体料理は終わっているため、お皿を出して、盛り付けやリビングまで運ぶ事がメイン。
運び終わるころに父が起きてくる。
姉は大学3年のため、講義が1コマ目からない限り、基本10時ごろまで寝ている。今日は全休のため、姉の分は冷ました後、母がラップをして冷蔵庫に入れるはずだ。
今日の献立はご飯に私が作った卵焼きとウィンナー2本、味噌汁、ベーコン。
私が2品も作ったためなかなかのボリュームになっていた。いつもは1品しか私は作らないので、もうちょっと軽めだ。
父と母が並んで座り、母の向かいに私が座る。
3人で手を合わせてから朝食を食べ始める。この時間はいつも父や母が学校について聞いてくるので、それに答えながら朝食をとる。
最近は学年が上がったこともあって、新しいクラスはどうか、授業にはついて行けそうかなどの話題が多い。
そんな朝食の会話を終えると7時半になっており、私は自分の部屋から鞄を持ってきて、蓋をしたお弁当を入れた。
いつも通り7時50分に家を出る。
この時間に出るのは正臣が大体8時頃に家を出るため、一緒に登校すべくこの時間に出る。
正臣の家は私より少し先、歩いて5分のところにあり、カズの家はそこから2分程度先にある。
二人とも幼稚園からの付き合い。最近はカズが朝練ため一緒には登校しないが、中学校までは3人、今では2人で登校するこの習慣も、小中共に私が一番遠かったため、かれこれ今年で11年目。
きっと高校卒業までは続くであろう平凡な日常。もしかしたら大学も就職も皆同じ所になって、ずっとこの習慣が続くかもしれない。
そんな夢みたいな事を考えていたら、正臣の家の前についていた。
玄関前の塀に背を預けて待っていると、寝ぐせで頭の右上の髪が若干跳ねる眠たそうな正臣がほぼ目を閉じたまま「おはよう、、、」と寝言のように言ってきた。
「目を閉じて私がいるかどうかもわからないのに挨拶するんだね。」
そんな事を言いながら正臣のおでこに軽くチョップを入れる。正臣は「んー、、、」とまだ眠たそうにしていたが、二人並んで学校へ歩き出した。
「ていうか珍しいね、正臣が寝坊するなんて。いつもは寝ぐせつけないで割ときちんとして出てくるのに。夜更かしでもしたの?」
「カズが告白の件について報告してきたんだ。しか予定通りに行かずに、いろいろと面倒くさいことになったっぽいんだよな、、、その相談やら何やら聞いてたら4時になっててな、、、」
「起きたのがいつも通り7時半なら大体3時間しか寝てないね、、、にしてもカズが失敗するなんて珍しいね。大抵のことはそつなくこなして、毎回うまくやり過ごすカズなのに。」
カズは何事にもうまく対応するし、自分だけじゃ無理そうなら周りの力も借りるため、さっきも言った通り大抵のことはうまくやる。
ミスをしたとしても共許容範囲内の事で、今回のように4時まで云々するほどではなかったはずだ。
「一体何をしでしかしたの?」
「予定では友達からのはずが、何を思ったのかその場で拒否したそうだ。しかも何のひねりもなく無理だ、と言って、泣かせたんだと。でも向こうは引き下がらないで、次の大会でカズよりも良い成績を残したら連絡先を教えてほしいと言われ、カズは無理と踏んだのか条件を飲んだ。だけど後になってやっぱ断ればよかっただの、もしかしたら本当にベスト4まで行くんじゃないかだの、相談っていうよりも不安に近い愚痴を聞いてた気がする、、、」
「本当に珍しいね。あんまり愚痴とかも言わないのに。一体何があったんだろ。」
「ま、詳しいことは昼休みにでも聞くさ。」
大きく欠伸をしてそんなことを言う正臣の隣で「今日は二人とも授業中は睡眠かな?」なんて茶化しながら二人で登校した。
教室に入ると「おはよー静。」「静おはよ、宿題見せて!」などの挨拶に「おはよ、しょうがないなぁ」などと答えながら席に着く。
ちらっとカズの席を見たが、机に突っ伏して寝ていた。
正臣も頬杖ついてウトウトしていた。今日の分のノート、二人に見せなきゃいけないな、と心の中で思いながら、友達に宿題を渡した、
私の予想通り二人とも午前中の授業はほぼほぼ寝ていた。昼休みになっても寝ていたため、二人を起こして食堂へ向かった。
巡は既にパンの入った袋をテーブルの上に置いて待っていた。
正臣とカズの二人は食堂のカウンターへ注文をしに行き、私は巡の隣にお弁当を置いて座った。
「2人ともボケーっとしてるけど、どうしたの?」
「昨日2人ともほとんど寝てないらしくて、午前中の授業のほとんどを寝てたからじゃないかな。」
巡の質問にお弁当を広げながら答えた。2人ともいまだに欠伸をして眠たそうな顔をしている。
「2人して何やってるんだが、、、ところで昨日のカズの告白の件、うまくいったの?」
「上手くいく予定だったんだけどねー。まぁこれから詳しい事情を話してもらうから待ってて。」
「詳しい事情ねえ、、、」
何とも面倒くさそうにいいながら、それでもちゃんと帰らずに話を聞こうとする当たり、やっぱり巡は優しい。いつも嫌々いう割に付き合ってくれるし、何かと言って世話を焼いてくる。
「おまたせー。」
眠たそうな顔しながら正臣とカズがそれぞれの昼食をもって席に座った。
正臣は蕎麦、カズはから揚げ定食を頼んでいた。
全員席に着いたのを確認してから私はお弁当の蓋を開けて、食べ始めた。
「昨日の件で改めて皆に相談したいことがあるんだが、、、」
そう箸を持ったままカズが口を開いた。
それに対して正臣は蕎麦をすすり、私は卵焼きを箸でつまみ、それを見て巡は「静は毎日弁当ってやっぱ女子力高いなー」と言っており、各々スルーしていた。
「頼むからもう1回だけ、、、もう1回助けてくれぇ、、、」
それぞれの顔を見てカズが頼んできた。
3人はカズの必死な姿に溜め息をついてカズの方へ向いた。誰一人としてそのまま話を聞かないつもりはなかっただろうが、建前というか茶番というやつだ。
「で、一体何があったの。正臣からは面倒な事になった、としか聞いてないんだけど。」
「私もさっき静からちょこっと聞いただけなんだけど。」
私、巡がカズと正臣に詳しい事を話すように促した。するとカズが箸を置いて話始めたので、私たちは食事をしながら聞いた。
要約すると「お友達から」というはずが、告白の内容を聞いたら友達としても難しいと確信したらしく、無理だとはっきり言ったが、相手が引き下がらず、次の大会でベスト4に入れば連絡先を交換、実質友達なってほしいと言われ、断ればいいものの承諾したらしい。
私の聞く限りでは別に連絡先を教えたとしても友達になるとは限らないし、そもそもそれぐらい別に良いのではないかと思ったが、カズにも思うところがあるらしい。
「話を聞く限り、私たちがどうにかするのは無理じゃない?それこそ、その子に対して直接的に邪魔しない限りは。」
パンを食べ終わって緑茶を飲んでいた巡がそういうと、「そうだよなー」「やっぱりか」と正臣、カズが似たような反応を示した。
こればっかりは相手の努力や才能によるため、もし私たちが干渉するとしたら、本当に物理的な事になるので不可能。そうなると結論は簡単。
「大会が終わるまで放置するしかないね。まぁそれまでカズは気にせずにポジティブにいることね。」
私がカズにそう言うと「そんなに気楽に生きていけねぇよ、俺は。」などと何かを悟ったような口ぶりで返事をしてきた。
いつものらりくらりとうまく生きているイメージが強いためか、その発言に違和感を覚えた。
なんでそんなに弱気なのか聞こうとした瞬間予鈴がなり、終了となった。
教室に戻る最中はカズがずっと溜息やら不安(愚痴)をこぼしており、それに対して適当に相槌をうっていた。そんな2人の姿を見ながら巡と一緒に話していた。
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