ゴリラのずんだ原
「君が倒れていたのはここ、ミラムバルドの最下層だ」
「ミラムバルド?」
「夢、とか幻想とか言った意味だ。他の名で呼ぶものもいるが、私はそう呼んでいる」
「夢……やっぱり夢なのか」
「精神世界、その戯画化されたものかな。君が現実のボディに帰るには、最上層まで上がり、自分を見つける必要がある。道案内しよう」
「はるかな川はスキルもあるし強いのに、なんで最下層なんかに居たんだ?」
「……最近、小説でちょっとした賞を受賞してね。嬉しかったし有頂天だったんだが、だからこそ、自分の原点を確認しておこうと思ったんだ」
「原点?」
「書きもしないで、他人の作品をけなしていた自分さ。あの場所で、あのワナビたちに限りなく近かった自分を忘れない為に」
「そういうもんなのか」
「人によるだろうな」
田舎道のようだった景色は、いつの間にか一戸建ての家が立ち並ぶ住宅街になっていた。
空は紺色。だが周囲が見えない訳ではなく、LEDの街灯は煌々と照っている。家々の窓にも灯が点っているが、生活の気配がない。いや、根本的に人の気配が全くない。優一は広大な無人の撮影セットの中を歩いているような気がして、その不気味さに一人で鳥肌を立て、その想像を頭から追いやった。
「なんで僕が、こんな目に……大体、手錠ってなんでだよ……」
優一のぼやきを聞いたはるかな川は四歩あるいてから言った。
「この世界は、精神の世界だ」
「それはもう聞いたよ」
「そこに現れた君の姿や状態は、象徴だと言える」
「この姿が象徴? なんのだよ?」
「つまり……」
はるかな川が優一の疑問に答えようとした時、
目の前の二階建ての家が爆発した。
閃光も、炎も、爆風もない。
だが、轟音と共に確かに粉々に砕けた家は破片を飛散させて崩壊し、瓦礫の山となって折り重なった。
「まずい」
はるかな川が緊張し、優一を庇うように身構えながら刀の柄に手をやった。
「ゴリラのずんだ原だ」
その視線の先には、スウェットの上下を着た小柄な女が立っていた。
伸びた髪を後ろで括り、縁なしの眼鏡をギラリと光らせて。
次の瞬間、その女の右腕が巨大な野獣の右腕へと変貌した。
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