はるかな川
「た、助けてください! 死にたく……ないっ!!!」
無我夢中で優一は叫んだ。
「承知した」
少女が消えた。
いや、僅かに土煙が舞っている。
跳躍したのだ。
ずん、ぐしゃ。
聞き慣れない水気の多い音に振り向けば、優一のすぐ背後で、頭頂から顎までをギラつく刃で貫かれたゾンビが、ぐらりと傾きながら倒れようとしていた。その肩口に、片足を引っ掛けるようにして立つ髪をなびかせた少女。だが、その姿を優一が認めたのも一瞬だった。ゾンビが弾かれたように倒れる。何かの光を反射した刀身が残酷な輝きを放った。ぴっ、と頬に飛び散って来たものは、ゾンビの血か何かだろうか。
閃く輝きは鋭い直線と嫋やかな曲線を交互に描きながらスイカを割るような音を掻き鳴らす。それは優一の周囲をぐるりと一周しピタリ、と止まると、刀を鞘に収めた姿勢の少女の像を結んだ。
ばたばたと死体が死体に戻る音が辺りに響いた。
「……剣舞・受賞実績」
「すごい……!」
ゾンビたちが完全に活動を停止したことを確認すると、少女はすっくと姿勢を正した。
「大丈夫か」
不機嫌そうな彼女が近づいてくる。
「あ、ああ……お陰様で。ありがとう。君は一体……いや、それよりここは……?」
少女は少し目を丸くして優一を覗き込むように見た。その瞳に怯える自分が映るのを優一は見た。
改めて見ると、小学生……四年生か五年生といったところだろうか。着ているのも多分小学校の制服だ。制服にパーカーを重ね着して紺のタータンチェックのマフラーをしている。どこにでもいる少しお洒落な女子小学生と言った風情だった。手の日本刀がなければ、だが。
「なるほどな。そういうことか」
彼女は何かを納得した様子だったが、それが何かは優一には分からない。
「私は、はるかな川。君は?」
「僕は……優一。渡辺優一」
「優一か。お互い呼び捨てでいいな。まずは移動しよう。話はそれからだ。ここにいたら、また奴らが集まってくる」
「あのゾンビたちが? まだ他にいるのか?」
「いるさ。幾らでもな。それにアレはゾンビじゃない」
「……?」
はるかな川は踵を返すとさっさと歩き始めた。
「あれは作家生命を失った作家たち──ワナビだ」
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