第5話お兄ちゃん、やったね!
予想通り学校に着いてからの僕はいつも以上にヤル気がなかった。
登校中は大友の妹の涼美ちゃんが色々と尋問してきた。どうやら昨日家で大友が余計な事をベラベラ喋ったらしい…やっぱりこいつは大バカ友と呼んでやりたい…
「神崎さん、好きな人いるんですか?誰ですか~兄貴には秘密にしますから教えて下さいよ」
てな感じで…活発だけどやっぱり年頃の女の子だし恋愛系の話に興味しんしんだった。
横で涼しい顔してた大友に殺意を感じた。
さてさてそして授業中、僕は相も変わらずの仲井ウオッチャーに変身。
…とは言っても昨日からあまり変化も進展もなし。このままじゃまたいもうとは納得しないだろうしな…何か考えないと。
そして昼休み、何もかんがえつかないまま昼飯を食べ終え大友に校庭に行こうと誘われた。気分転換にいいかなと席を立とうとした時だった。
「ゴメン神崎、いいかな?」
えっ?と振り替えると…
なんと仲井が話しかけてキター!
「えっ!な、なに!?」
「出ようとしてるとこ悪いな、実はちょっと頼みがあるんだけど…」
「た、頼み?い、いいよ?」
「オイオイ、まだ何も言ってないだろ。実はさ…お前確か現国得意だったよな?」
「うんまぁ…文科系なら」
「今度さ、マンツーマンで教えてくれないか?」
えェエぇ!?
「テスト近いだろ?けど俺文科系が苦手でさ…女子に聞いたら『神崎君が一番詳しい』って言ってたから」
女子に聞いたと言うのがいかにも仲井らしい…けど、このチャンスを逃したらいもうとに一生にらまれる!
「い、いいよ!全然オッケー!いつする?今日する?今する?」
「今いいのか?実は聞きたいとこがあったんだけど…」
「おい、神崎~何してんだよ」
大友が割り込んできた…
「あぁゴメンそうだよな、また今度でも…」
「いやいいよ、アレは気にしないで」
※大友と書いてアレと読む。
「でもお前ら教室出るとこじゃ…」
「出ません!アレはノイズです…じゃノイズ君、ちょっと用事が出来たんで…」
「神崎、まぁだ昨日の事怒ってるのか?解ったよ、今日は怒らないでおくわ」
と言いつつ機嫌が悪そう。当たり前か…すまん大友!伝わらないけど心の中で謝っておく。
「なんか悪いな、実はここなんだけど…」
そう言って仲井はノートを持って僕の机にきた。
手帳を拾って貰った時の比じゃない、至近距離最高レベル。
いもうとの歓喜の声が既にエコーしていた。
昼休みの短い時間を僕は仲井と勉強して過ごした。
仲井はやっぱり頭が良く飲み込みが早かった。
楽しい(?)時間はあっという間に過ぎてゆく。
「サンキュー、お陰で良く解ったよ。なんせ平均点より低かったら監督がレギュラー外すって言うからな…」
「そうなんだ、大変なんだね」
僕はありきたりの言葉をかけた。
「また聞いてもいいかな?」
「も、勿論!」
断ったらタダじゃすまない…席を立って行こうとする仲井を僕は思いきって呼び止めた。
「あのさ、実はこっちも頼みがあるんだけど…」
「何だ?いいよ何でも言ってくれよ」
うっ…何て男らしい態度なんだ。
「今度さ…サッカー部の試合観…いつあるかな?」
「とりあえず今週末あるけど…何で?」
「そうなんだ、あの…それって僕が観に行ってもいいのかな?」
仲井は可笑しそうに笑った。
「いいんじゃないか?観ちゃダメなんて誰も言ってないし。何だよ、試合が見たいのか?」
「うん、まぁ…じゃあ行ってOK ?」
「そんなの俺に断らなくても来たらいいよ、神崎サッカー好きなんか?」
「そうだね…じゃあ行くよ!どこでやってるの?」
「えっとな…あ、ちょっと待てよ、次の試合はダメだな」
「え?」
「今週末の練習試合は確か相手の学校に行ってやるんだよ。だから確か関係者しか入れなかったかな」
「そうか…それは仕方ないな」
「でもテスト明けにやる試合は大丈夫だと思うぜ?市内の競技場でやる筈だからな」
「マジ!?それはいつ?どこで?」
「え~どこだっけな?また試合が近くなったら解るから、そん時教えようか?」
「ぜっ、ぜひ!」
仲井はまたクスクスと笑っていた。
「解った、いいよ。けど神崎がサッカー好きとは知らなかったよ。サッカーすりゃいいのに」
「いや…部活にはついていけないよ。でも見るの結構好きなんで」
「そんなのやってりゃ、ついていけるもんなんだよ。じゃあまた俺の方も聞く事あると思うから宜しく頼むぜ」
そう言って仲井は自分の席に帰っていった。
仲井を目で追いながら僕は心の中でガッツポーズを繰り返していた。
よっし!まさかまさかの大収穫!!
仲井と急接近出来ただけでなく、サッカー部の試合情報もGET☆
しかも今後も何かと会話出来そうなオプション付き!
いもうとの信頼を一気に取り返した気分だった。
既に気持ちは“ドヤ顔”だ。
「神崎~…お前さ、もういい加減サッカー好きって認めたら?」
半ば呆れ顔気味で大友が近づいてきた。
僕はそんな言葉も気にならない満面の気分だ。
「ん?あ、そうだね。サッカー最高☆」
「何だよそりゃ、前から聞いてたのに…」
「いやゴメンゴメン、別に隠してた訳じゃないんだけど」
「全然隠れてないっつーの!…で?テスト終わったら試合観に行くんか?」
「行く行く!時に大友…」
「あ?何だよ」
「一緒に行かない?」
「は?俺が!?何でよ」
「いや流石に初めて観に行くし、居たら心強いなぁ〜て…是非いこう!」
「ヤだよ!興味ねーもん。テスト終わったらやりたい事もあるし…」
「そんな事言わずに…てか、やりたい事って?」
「…別にいーじゃん何でも!とにかく1人で行ってこいよ」
「冷たいなぁ〜それでも幼なじみ?」
「関係ないって!だったら涼美でも連れてったらどーよ?あいつスポーツ好きだし」
「あ〜それもいいかな?ついでにお前も来たら?」
「ハイハイ考えとくわ」
あまり行く気なさそうに大友が答えた。
まぁムリに誘う気もないが、いきなり1人はややツライのでまた誘おう。
昼休みも終わり午後の授業開始。
僕は既に“ドヤ顔”気分もあって仲井ウオッチャーを控えた。
まぁあまり見すぎても怪しまれるしね〜
と心の中で言い訳しながら。
午後の授業も終わり放課後になった。
仲井達運動部の連中は急いで部活に行く準備をしている。
どうやらテスト直前ギリギリまで練習はあるようだ。
それで平均点以上取れって言うのも若干矛盾に感じるケド…
等々考えつつ、今日は生徒手帳も落とさずにすむ清々しい気分に満ち溢れていた☆
教室を出ていく仲井達に“頑張れよ目線”をかける僕。
「あ〜何か肩の荷が下りた気分!大友〜帰る?」
「悪い!今日用事あるんだわ」
「そうなんだ?わ〜った、またな」
と言うわけで大友とは別に1人でゆっくり帰宅。
グラウンドを通った時に目に入る運動部の練習もなんだか微笑ましい。
非常に良い光景だ!
さて学校を出て僕はまっすぐ駅前の本屋に向かった。
ここは前回大友がバカ声だして騒いだからあまり来たくなかったんだけど…
まだ“TEEN POP”を全部見てなかったので続きを読まなきゃいけない。
しかし本屋といいブティックといい…我が町内ながらビミョーに来づらいポイントが増えてる気がする。
僕は前回“TEEN POP”が有った棚を探した。
あれ…ない…
えぇ?ウソだろ??
慌てて探す。
人気のある雑誌とは知ってたけど、まさかこんなに早く売り切れるなんて…
いや、きっとドコかに!
…ない。。。
一難去ってまた一難!
TEEN POPはいもうとがかなり楽しみにしてる雑誌だ。
見たあとでいつも楽しそうに話してくるし…
これは何としても探してみなければ!
しかし本屋には、ついに見つからなかった。
店の人に聞きたいけど、立ち読みの為に聞くってのもなんだし…
駅前にはコンビニもあるけど、そこには置いてないのを知っている。
「とりあえずこの辺には無さそうだな〜…移動するか」
その後何軒か本屋を訪ねるが玉砕。
仕方なく今日は帰る事に。
あの時大友が邪魔しなけりゃゆっくり見れたのに…まぁ、今日はそれ以上の収穫があったから良しとしてもらおう。
「只今〜」
「お帰り、遅かったわね?」
「ちょっとブラついてたからね〜父さん今日も遅いんだよね?」
「えぇ、だから今朝言ってた通り晩御飯は先に食べちゃいなさいね」
「りょ〜かい!しかし父さんも仕事とはいえ大変だよね〜イヤにならないのかな?」
「イヤに何かならないわよ」
「どうして解るの?」
「父さんは家族の為に喜んで頑張ってるわよ」
「だから何で解るの?そう言ってたの?」
「そうね、それにそういうものよ。礼司もお父さんになったら解るかもね」
「話飛びすぎ」
母さんはクスクスと笑っていた。
僕は和室に行き、仏壇に一礼して部屋に戻った。
さてさて今日も音楽番組はナシ!
お笑いを見る事に決定した。
テレビでは僕の好きなお笑いコンビが新ネタをやっていた。
相変わらず絶妙の間とセリフまわしで、あっと言う間に僕は釘付け状態。
「礼司ー聞こえる?アンタ寝てるの?」
一階から母さんが呼んでいる声に僕は急に気付いた。
どうやらテレビに夢中になりすぎていたらしい。
「なにー?ご飯?」
「大友君から電話よ」
大友から?何だろと思いながらトントンと階段を降りる。
「もしもし?」
『お〜神崎、寝てた?』
「寝てないよ。どした?」
『あのさぁ、お前がサッカー観にいくって言ったら涼美が連れてってくれって』
「なに?もう話したの?早いなぁ」
『いや〜たまたまその話題になってさ』
「そっか〜でもそんなの別にテスト終わってから言ってくれてもいいのに、まだ先なんだから」
『いや、涼美が今言えって…』
「涼美ちゃんが?」
『あぁ〜なんかテスト後にしたら俺が忘れそうだからって』
うん、ありうる。
『涼美のヤツ、よっぽど行きたいみたいだぜ〜まぁなんだな、俺のカンだけどきっと気になる先輩か誰かいて…(バキッ)』
?…なんだ、いまの(バキッ)て音は?
『もしもし、神崎さんこんばんは!涼美です』
「あ、涼美ちゃん。こんばんは」
『兄貴から聞きましたよ〜神崎さん、サッカー部の試合観に行くんですか?』
「うんテスト明けだけどね」
『やっぱり行くんですか?私も一緒に行っていいですか!』
「え、全然いいよ」
『やったー!ありがとうございます!』
「そう言えば大友は?」
『兄貴?なんか後ろで頭押さえてますよ』
なんか…って…
その時電話口から大友の叫び声が聞こえてきた。
『痛ってーな!涼美いきなり後ろから何すんだよ』
『兄貴、人の電話邪魔するなよ!』
『先に奪ったのお前だろ』
兄妹ゲンカは電話切ってからして欲しい…
『もしもし?てな訳で涼美も連れてってくれ』
どうやら大友が受話器争奪戦を勝利したらしい。
「あいよ〜、ちなみに今日用事って…何してたん?」
『え?あぁ、また今度言うわ、それじゃあな』
“ガシャーン ウリャッ バキ ギャアアアア”
ガチャッ!
プーップーッ…
切れた。
何か切れる直前最後にも2人の叫び声が聞こえたけど…気にしない。
「礼司、電話終わった?ご飯出来たわよ」
「はぁ〜い、すぐ行くよ」
キッチンでは母さんが晩御飯の準備を終えて待っていた。
「珍しいわね、大友君がこんな時間に電話なんて」
「大友と言うか、涼美ちゃんと言うか…」
「涼美ちゃんもでたの?あの2人仲いいもんね」
そうだね、と言いながら僕は黙々と御飯を食べた。
僕だって仲いいよ…と言いたかったがヤメた。
いつもの事だが、言っても伝わらないと思ったし。
とは言え、僕は大友達みたいなふざけた喧嘩での会話は中々出来ない。
少し羨ましく感じた…
いやいや、なんの!
僕もいもうととまだまだこれからいっぱい色んな話が出来るさ!
と言い聞かせた。
さてさて晩御飯を食べ終え風呂に入って就寝準備。
唯一本の事が気になるけど、まぁ何とかなるさ!と自信満々に寝床に着いた。
我ながら今日は気持ちよく寝床につけそう。
…目を閉じて、ゆっくりと意識をなくした僕はいもうとの超超ハイテンションな声に目が覚めた。
「お兄ちゃん!お☆か☆え☆り☆やったね!」
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