第2話お兄ちゃん、お願い!

「あぁ…ただいまPart2〜」


僕はもぞもぞとベッドから起きた。


「なんか今日は確率高いなぁ…2度目って」


「そりゃ拙者の願いが通じたからかもね♪」


零が笑いながら言った。


「そっか〜お願いって何なん?」


ベッドの布団を片付けながら聞いてみた。

少しもじもじして言いにくい様子だ。


また何か見てきて欲しいってのは何となく解っていた。

僕は零のお願いは出来るだけ聞いてあげたいと思ってる。


零が何かをお願いするのは僕しかいない。


…いや……零が『話せる』のは…僕・し・か・い・な・い!



それを解ってるから。



誰にも言っていない秘密。



僕は…


僕が眠りについた時だけ…



『夢の中』で

  僕のいもうと

    『零』に会えるのだ。



父さんと母さんにも話していない僕の…いや、僕と零の秘密。


てか言った所で誰も信じないだろう。


中学にもなって「僕は夢の中で死に別れた零に会えます」…と言って誰が信じるやら。


ましてや産まれる前から命を落としたいもうとの話など、きっと誰も信じないに決まってる。


かくいう僕も最初は信じられなかった。


ある日夢の中にいきなり現れた零…


可愛らしい笑顔で

「お兄ちゃん、はじめまして!」

とペコリと頭を下げてきた。


あぁこれは夢だな…即そう思った。


いもうとを一目でも見たかった…と強く思っていた僕が夢を見てるんだ…と。


きっと生まれてきてたら、これぐらいの大きさだろうな…という姿だった。


その日は夢と割り切って零との話を楽しんだ。

終わる時には零が「お兄ちゃん、またね!」と手を振ってきたので僕も手を振って夢から覚めた。


だが暫くしたある日また零が夢に出てきた。


変な疑いもせずに色々話したけど、その時の零が僕の現実で身の回りで起こっている事を次々に喋り始めて驚いた。


僕はその時の

「何で知ってるの!?」

「お兄ちゃんが見た物や聞いた事はナゼかわたし解るもん!全部じゃないけどね」

と話したのを今でも覚えている。


まさかと思いながら、零は最後に「お兄ちゃん、またね!」と言った。


朝になり僕の頭の中で零の最後の言葉が強く鳴り響いているのを実感した。


その後暫くわざとブラついて色んな物を見たら、殆どが零にも伝わっていた…


僕の中で疑いは徐々に無くなっていった。


文字通り「零は僕の中に生きている」と思った。


僕は、僕であり…いもうとになった。


「ね…お兄ちゃん、ちょっとちょっと」


零が両手でおいでおいでをして僕を呼んだ。


「どーせここには2人しかいないんだから、呼んでも一緒だろ」


「いいからっ!」


夢の中では住み慣れた僕の家のには零と僕の2人だけ。

父さんも母さんもいない。

それはやっぱり零があくまで僕の中に居るからという事だと思う。


そんな事を考えながら僕は零の前に座った。


「で、何?」


「あのねぇ…えっと…」


「また見てきて欲しい物が有るんだろ?いいよ言いなよ」


気のせいか零の顔が少〜し紅い。


照れてるって言葉がピッタリの紅さ加減だ。


…ん?照れてる?

何に?


今までの零には無い雰囲気に戸惑った。

何やらイヤな予感がする…


すると零が重い口を開いてきた。


「あのねぇ…仲井君て…仲イイ?」


「は??」


「だから。。。お兄ちゃんと同じクラスの、仲井君…て言うか仲井先輩…かな」


零は顔を紅らめたままだ。


は?え?何?


何言ってんだコイツ…それが僕の最初の感想。


仲井 信一…勿論知ってる。僕のクラスメートでサッカー部に所属するバリバリのスポーツマン。


いわゆる文武両道で成績も悪くない。

サッカー部では次期キャプテン候補とも呼ばれ上からも下からも信頼が厚い。


かと言って偉そうにしたりせず、誰にでも分け隔てなく接してくるし、体育会系特有の強引な感じもなく話も解る男。


当然女子にはモテモテ。


まぁ早い話が僕とは正反対…に近いタイプ。


正直いって接点は殆ど無い!

てか零も普段の会話や僕が見た視界から解ると思うんだが…


とりあえず何て言ったらいいか悩みながら僕は答える。


「う〜ん、あんまり話した事が無いからなぁ…てか仲井がどうしたの?」


「あっ、いや…えっと…ホラ、わたしサッカー好きだから!仲井先輩サッカー上手いし、お兄ちゃんが仲良かったら試合とか見に行ってくれるかなぁ〜とか」


焦った感じが見え見え。

けどコッチだって焦ってる。


「お兄ちゃん今日も授業中にサッカー見てくれてたじゃない!ホラ、それと一緒で」


更に焦りが見え見え。


「じゃあさ、今度サッカー部の試合見たらいいわけ?」


「試合も見て欲しい♪」


オイオイいきなりテンション高いよ…


「解った、じゃあ今度見てくるよ」


「ありがと!あっ、でも…試合だけじゃなくてもいいんだけど…」


「じゃあ、いつ?」


「その…授業中とか!」


……はぁ!?


「例えば、授業中に仲井先輩の方チラチラ見るとか…ホラお兄ちゃんの右斜め2つ目の席じゃない」


コイツよくチェックしてる…


「だからお兄ちゃんが見てたってバレないよね?だってわざわざお兄ちゃんの方見ないだろうし…」


何となく傷ついた。

お構いなしに零は更にテンションUP…


「まぁ見るぐらい、いいけどね」


「あと仲井先輩と目の前で話す機会ない?」


それは流石にないっ!


「あのなぁ、零…普段クラスであまり喋ってないの知ってるだろ?」


「そこを何とか!だってそうしなきゃ近くで見れないし…」


もういつの間にか零が自分から色々喋ってる。


何となく理解出来てるのを承知で僕は聞く。


「なんで仲井と話して欲しいの?」


零が少しゴニョゴニョとした声で言ってきた。


「だって…仲井先輩カッコいいし…」


ガーン!!

やはりか!


…聞いてしまった。。。

世間で妹の恋愛に敏感になる兄の心境がついに僕にも理解出来た。


今まで僕が見てきたスポーツの中でどうやら零はサッカーが一番気に入ったらしい。


それを解ってから僕はテレビでも体育でも、なるべくサッカーを見てきたのだが…


「ね、お兄ちゃん!お願い!」


零が手を合わせて真剣に頼んできた。

元々零のお願いを断る事はなるべくしないつもりだけど…


今回は少し気持ち的に色々絡んで妙な感じ。


「お願い!今度ゲーム負けてあげるから?」


…そんな安っぽい人間じゃないつもりですが…


「ね…お兄ちゃん」


「解ったよ、何とかやってみる」


「やったぁー!」


テンションMAX


「とはいえ、いきなり話すのは難しいなぁ…急に仲良くなるわけじゃなし、普段休み時間でも別の集まりって感じだし」


「サッカー部入るってどう?」


「入れるかいっ!ついていける訳がない」


「じゃあどうやったら話せるか、わたしも一緒に考えてあげる♪」


目の色が違う…明らかに自分の為に協力しますって目だぞ…


「作戦その1、勉強聞きにいくとか?」


「ムリムリ女子が先に囲ってる」


「そんなの押しのけてよ!近づけないもん」


その後も零は色々提案して来たのだが、途中から眠気がやってきた。


「零、目が覚めそう」


「え〜じゃあ今日はここまでかぁ」


「じゃあ零、またな」


「うん、期待してるナリ」


零はお決まりの言葉を最後に言った。


「お兄ちゃん、おはよう!」


僕の意識はそのまま消えていった。

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