第9話 しょくば

「うわぁ…」

オレンジ、みどり、ピンク、紫。

ドン引きするくらい派手な壁紙。

「デザイン会社ってみんなこうなのかな…」

「なに言ってんの?アンタ」

リカちゃんに白い目を向けられる。

なんかリカちゃんの毒に拍車がかかってるような…

わたしは将来のことなんて考えたこともなかった。強いて言えば、保育園が楽しかったから先生になろうかな、なんてふわっとしたことだけを考えていたのだ。ピアノも弾けないのに。


「おはようございます」

メガネにストライプのシャツ、タイトスカートというキリッとした感じの女性に声をかけられた。

「お、おはようございます…」

「おはーっす」

今度声をかけてきた人はピンクのアロハシャツに短パン。無造作すぎる天パ。自由な服装だ。さすがデザイン会社…

「おはよ…ございます」

「元気ねーなーどうしたん?彼氏となんかあった?」

うわ!本当にいるんだ。すぐ彼氏を絡めてくる大人。

「いや別に…」

今朝のことを思い出す。

「…っ」

顔が、熱い。最悪だ。

「あ。むしろ毎晩おたのしみってかんじ?」

「違います!まだしてません!」

思わずムキになって大きな声を出してしまった。

「そーなんだ、なんかごめん…」

天パがしおらしく気まずそうに顔を背ける。

…また最悪だ。


「はぁ〜」

って、わたしの席どこ?!


「えーっと…」

あ!あそこのデスク、小花柄のボールペンがある。

わたしが昔から使っているやつだ。

きっとあそこに違いない…

「よいしょ」


目の前にあるのは、パソコン、筆記用具、謎のメモ…大量の紙。


「じゃあ今日はそこの確認からね。終わったら教えて」

「え…はい」

目の前のデスクの上司っぽい人に声をかけられた。

「って…パソコンわかんない」

「え?」

わたしの小声を聞き逃さず、上司が眉をあげた。

「それはエクセル使えばすぐできるでしょ?なんで今更」

「えく…せる」

聞いたことあるような、ないような…

「そういうボケいいからやって」

「あ、はい!」

なんか冷たい人だなぁ…

とりあえずパソコンをつける。

「ん」

手が、勝手に動く!

マウスをクリックして、紙を広げて、頭の中は真っ白なはずなのに、手が動く…

これが習慣ってやつなのかわからないけど、わたしはものすごいスピードで確認を終えた。なにをやってるかはわからないまま…

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