第8話リカちゃん

「ここが…わたしの仕事場…」

東堂に連れてきてもらい、ついに職場の玄関に着いた。


わたしはデザイン会社の連絡、発注業務等をしているらしい。

東堂はファッションデザイナーとして頑張っているそうだ。


「事務なんてできるのかなー…」

思わず溜息が漏れる。

「正直、出来ないと思うよ…」

「あ!そんなこと言わないでよ不安になるじゃん!」

「スピード作業は初心者にとって簡単ではないからね…」

15のわたしはパソコンすら持っていないのだ。

「どうすればいいのよ〜東堂〜」

「休むわけにもいかないし話しても意味ないし…」

「うう…」

「ちなみにこの会社、時給にしたらいくらだと思う?」

「?」

「1340円」

「え!!!!」

15のわたしからしてみると、高額に思える。

思わず大きな声が出てしまった。

「つまり、その分働かないといけないってこと」

「あっ…」

「まぁ、慣れるしかないね…一時的なものだったらいいんだけど」

「う、うん…」

ここでのわたしは24であって15ではない。

15歳だからといって放棄できないのだ。

「ああ〜頑張るしかないかっ!」


「おはようございまーす」

「わっ!えっ、リカちゃん!?」

「おはよっ」

「なんでここに?!」

「え、なんでって…職場だし」

「そーなの?!知らなかった…それにしてもやっぱリカちゃんおしゃれ!」

「そー?ってなにそれ!」

「じゃあ僕は行くから…」

「うん、わかった!」

この世界でも東堂はリカちゃんが苦手みたいだ。


「なんかあんた変じゃない?」

「あんたって…変だよ!だって今15なんだから」

「15ぉ?」

「今は24歳の格好してるけど、中身は15歳なの!」

「ぷっ、なにその発想!あたらし〜」

「発想とかじゃなくて…」

むだかもしれない。現実主義者のリカちゃんにそんなこと言っても。

「面白いアイデアなんじゃない?仕事ミスった時それ使えば?」

最悪だ…やっぱり冗談だと思われている。

「あーうん…」

もうやけくそだ。

「リカ、彼氏いる?」

未来を楽しもうじゃないか。

「彼氏〜?!今はもう旦那だから」

ハツラツとした笑顔。

「だ、だんなぁ?」

「結婚したから〜旦那♪なにそのボケは!歳ー?」

「いやぁ、ちょっとね!あはは…だ、だれと」

「言わせるの…?まったく…わざとだったのね」

少しむくれる。

「高一の時の担任のあいつ」

うそー!!!!

そんなことってあるんだ…

「もーいいからいこ!出勤しなきゃ」

「え、あ、うん」

手を取られ、強引に引っ張られる。

ヒールの似合うリカちゃん…

自分のやりたい事を追いかけてるような気がする。

わたしはどうしてこの会社に入ったのかな?

疑問が胸の奥に溜まった。

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