始まる予感(前編)
ミーン、ミンミンミンミーーン……。
窓の向こうから、競い合う蝉の声が聞こえてくる。
「はぁ〜、休みって最高! このままダラダラしてたいな〜」
今日から夏休み。
ベッドの上で、優衣はのんびりと携帯を眺めている。
「さぁ、そろそろ行かなくちゃ」
携帯を閉じて起き上がり、いつものように支度を始める。
廊下でおじさんとすれ違った。
「あっ、おじさん。行ってくるね」
おじさんの行動範囲は広がり、2階全体を自由に使いこなしている。
『アレッ、夏のお休みなのに学校に行くのカイ!?』
制服姿を、不思議そうに見上げるおじさん。
「うん! 花に水をあげに行くの。それからバイト」
『お花さんはいいナァ……。ワタシもお水を浴びたいナァ』
「おじさんは自分でできるでしょ!」
『ヒドッ! ユイのユは、優しいッテ漢字ナノニ、ユイは優しくナイナァ』
「へぇ〜、漢字とかも知ってるんだぁ……。って、私が優しくないなんて初めて言われたし」
『ヘッ⁉︎』
「えっ?」
冷たい視線を交わし合い、冷たい麦茶を飲み干して、優衣はいつもより3時間ほど遅い冷房ガンガンのバスに乗る。
夏本番!
人気のない校庭を、灼熱の太陽がジリジリと照り付けている。
「暑ーっ!」
日陰を選びながら歩いていくと、花壇の前には、既に1年生の環境委員2人が揃っていた。
「お疲れさまーっ」
「あっ、早川先輩!」
長いホースを運びながら、2人は会釈をしている。優衣はすぐに水飲場に走り、蛇口を捻った。
数秒後に水が溢れ出し、辺りの気温は一気に下がっていく……。
カラッカラに乾いたひまわり達もご機嫌そうに潤いだした。
「キャーーッ!」
「冷たぁーいっ」
「気持ちいい」
勢いよく噴射する水が、ついでに自分達にも掛かる。
「おい! 公共の水を無駄に使ってんじゃねーよ」
誰も居ないはずの校舎から聞こえる怒鳴り声……。
その声のする方を見上げてみる。
「えっ……、大谷?」
2階の教室の窓から身を乗りだし、優衣達を見下ろしている。
「なんなのよ! そこで何してんの?」
「補習だけど……」
「うわっ、だっさ」
「うるせー」
苦笑いを残して、大谷は姿を消した。
「もう完璧だね」
湿った土の匂いに達成感を覚えながら、重いホースを片付ける。
半乾きの制服をパタパタと仰ぎながら、3人は正門を出た。
「じゃあね、お疲れさま」
「お疲れさまでした!」
後輩2人に手を振って、優衣は反対方向へと歩きだす。ポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
「わっ、急がなきゃ!」
走りだそうとしたその時、背後から誰かに肩を叩かれた。
「よっ! これからバイト?」
歩きながら振り返る優衣。
「あっ、うん。大谷も?」
Mバーガーまでの道を、2人で急ぐ……。
「休みだっつーのに、早川優衣は水撒き係かぁ」
「まぁ。とりあえず、今週は毎日だけど」
「へぇ〜、ご苦労な話だねー」
「ちょっと、バカにしてんの!」
「誉めてんじゃん。えらい、えらい」
そう言いながら大谷は、子供をあやすように優衣の頭をポンポンと優しく撫でた。
「えっ……」
自分でも、顔が赤くなっていくのが分かる。
(やだ、なんで、大谷になんか動揺してんの!)
不甲斐ない自分を責めながら、優衣は足を速める。
「あれーっ、今日はお揃いでご出勤?」
店頭でビラ配りをしていた店長が、2人を見てニヤニヤと笑っている。
「偶然会っただけですよ」
慌てて否定する大谷。
「そうなんです! 学校でたまたま一緒になって」
優衣も、思いっきり否定する。
「若いっていうのは、いいね〜」
1人で暴走する店長。
「は!」
「だから、違いますからーっ」
2人の反論を無視して、笑顔で通行人に紙片を手渡している。
「聞いてねーし!」とボヤきながら、店に入っていこうとする大谷。
優衣も続くように、店長の前を通り過ぎようとした。
「あっ、そうだ。ちょっと」
呼び止める店長の声に、2人の足が止まる。
「優衣ちゃん! 明後日、花火大会の日なんだけど、もう予定入っちゃってる? 誰かに誘われちゃってるかなぁ」
「うわっ、店長! 早川優衣にそんなこと聞いちゃう?」
「なんなのよ!」
バカにする大谷を睨み付ける優衣。
「あっ、やべーっ!」
大谷は思いだしたかのように、時間を気にしながら店の中へと駆け込んでいった。
「店長……、あの、明後日は特に予定ないですけど」
体裁悪そうに答える優衣。
「ほんと! それならラストまで入ってもらえないかなぁ」
「あっ、はい、わかりました」
あっさりと引き受けて、急いで店の中へと入っていく。
「えっ、1分! これって遅刻ーっ!?」
なんと、タイムカードの時計は午後1時01分を指している。
「まじか……」
肩を落としながら自分のカードをラックからサッと抜き出すと、そこには既に12:58の数字が記されていた。
「あれ?」
着替えが終わった大谷と目が合う。
「感謝しろよ」
大谷は、照れくさそうにロッカーを閉めて調理場に向かっていった。
「うん、ありがと」
(なんか……、嬉しいかも?)
優衣も、思わず笑顔になる。
*
「いらっしゃいませ。チーズバーガーとコーヒーですね」
カウンターに立つ優衣。
「次のお客様どうぞ。……えっ!!」
目の前に、財布で顔を隠している女子高生が立っていた。隣には、静かに微笑む沙也香の姿も。
「どうしたの?」
「もう馴れてきた頃かなぁって思って」
ヘヘッと笑いながら、瑞希が顔を出す。
2人はハンバーガーとコーラを注文してから、空いているテーブルに向かっていった……。
「お友達でしょ? 今、落ち着いてるし……、休憩してきてもいいわよ」
隣りで接客していたチーフが、目でOKサインを出している。
「あっ、ちょっと待って」
優衣を一端止めて、ポテトのLサイズも用意してくれた。
「ありがとうございます!」
満面の笑みで優衣はユニフォームの帽子を外し、ポテトとジュースを抱え、2人のテーブルに近付いていく。
「もーっ、ビックリするじゃーん」
瑞希と沙也香を交互に見ながら、椅子に座った。
「ビックリさせたかったんだもーん」
満足げに、瑞希がハンバーガーを頬張る。
「これ、あちらの綺麗なお姉さんからの差し入れ」
小声で説明する優衣。
「まじっ」
「やった」
大きなリアクションで、2人はカウンターの中に居るチーフに会釈をした。
「なんか、いいなぁ〜。ここに、大谷も居るんだよね?」
そう言いながら、沙也香が店内をキョロキョロと見まわしている。
「えっ? 大谷は調理場担当だから、ほとんど奥に居るけど」
「そうなんだぁ」
「大谷がどうかした?」
「……なんで!?」
優衣と瑞希の声が重なる。
「えっ、別に、なんでもない。気にしないで!」
「……気になるよ、ね〜っ」
「なる、なるっ」
優衣と瑞希が、顔を見合わせる。
「うーん……、実は私……」
「うん、うん」
「なに、なにっ」
「あの……、大谷のこと……」
「好きなの!?」
ざっくりと聞く瑞希。沙也香は照れながら頷いた。
「あの大谷?」
「うん、B組の大谷!」
驚き過ぎた優衣からは、もう言葉が出てこない。
「いつから?」
瑞希は、冷静に分析を始めている。
「B組に行くようになってからかなぁ。なんていうか、優衣をからかう大谷を見てるうちに少しずつ……」
恥ずかしそうに告白する沙也香。
「そっかぁ、ビックリしたよ!」
正気を取り戻した優衣は、オレンジジュースを一気に飲み干した。
「ところで、優衣は大谷のことどう思ってるの?」
沙也香の唐突な質問に、再び動揺する優衣。瑞希も興味津々で見つめている。
「どうって……、別になんとも思ってないけど」
「それなら優衣は、私を応援してくれるわよね?」
「するけど……、でも、本当に大谷でいいの?」
「うん。大谷がいいの」
瑞希は黙って、ポテトを食べ続けている。
「それでね、実は、優衣にお願いしたいことがあるんだけど……」
瞳をキラキラと輝かせながら、沙也香が両手を合わせている。
「なーに?」
「あのね……、大谷の連絡先を聞いて欲しいの」
「連絡先?」
「だから、携帯とか〜」
「えっ、無理、無理、無理っ! 私が聞くのはおかしいでしょ。沙也香が自分で聞いた方がいいって」
「だって私、聞く機会がないんだもん。優衣、お願ーいっ」
沙也香には、日頃何かとお世話になっている。初めての頼み事を断る訳にはいかない。
「まじで?」
「うんうん、まじで」
仕方なくその頼み事を引き受けて、優衣は仕事に戻った。
それからバイトの終了時刻まで、聞き出すチャンスを狙っていたけれど……、タイミングを外しまくり、収穫のないまま店を出る。
「はぁ〜っ。やっぱ、聞けないよー」
行き交う人々で賑わう駅。
オレンジ色に燃え盛る夕焼け空が、優衣の瞳に眩しく映る。
(明日、さり気なく聞くしかない!)
気持ちを切り替えてバスに乗る。
*
「ただいま……」
玄関を上がると、客間の方から母親の話をする声が聞こえてきた。
「あれ、お客さん?」
振り返って確認するが ……。そこにあるのは、母親のサンダルと自分の脱いだ靴の2足。それらしきものは見当たらない。
静かに客間の方へと進んでいき、襖を少し開けてみた。
「ん⁉︎」
そこには、床の間に向かって楽しそうに笑う母親の姿が……。
不自然に思い、よーく見てみると、
「はっ!?」
なんと、母親の前に敷かれた座布団の上には、正座をしてかしこまっているおじさんが乗っている。
「わあっ!!」
「あら、優衣帰ってたの?」
遠のいていく意識の中、無言のまま優衣は何度も頷く。
「おっ、お母さん! なんで⁉︎」
「まぁ、そんなに驚かなくたっていいじゃない」
「だってぇ」
「優衣がお連れしたんですってね。サンルームに居らっしゃったから、今、客間にお通ししたところよ」
「お通しって、ちょっとお母さん!」
母親の腕を引っ張って、キッチンに連れていく。
「お母さん、この状況分かってる!?」
「状況って、妖精さんのこと?」
「妖精だなんて、ありえないでしょ!」
「だって、実際あそこに居らっしゃるじゃない」
「それはそうなんだけど……。でも、おかしいでしょ!」
「まぁね。あっ、お待たせしたら失礼よ」
母親は嬉しそうに優衣の手を取り、急いで客間に戻った。
「なんだか騒々しくてすみません」
おじさんに軽く頭を下げて、元の位置に座る。母親の行動を理解できない優衣、そしておじさん。
そんな異様な空気の中、その話は始まった。
「お母さんのお友達にも、妖精さんと一緒に暮らしてるっていう子が居たのよ」
「えっ!!」
『ヘッ!?』
おじさんと顔を見合わせながら、優衣も母親の隣りに座り込む。
「その子、毎日楽しそうに妖精さんの話をしてくれて、お母さんにも会わせてくれるって約束してたんだけど……」
「お母さんも会ったの?」
「それがね……。ある日を境に、その子は妖精さんの話を一切しなくなってしまったの」
「えっ、どうして!?」
「お母さんも不思議に思って色々と聞いてみたんだけど、何も覚えてないみたいだった」
「どういうこと?」
「逆に、どうかしちゃったんじゃないの! なんて笑われちゃったのよ」
「ひっどーい!」
「でも、優衣のところには来てくれたのね……」
母親が、嬉しそうにおじさんを見つめている。
『ソウでしたカァ』
照れながら、納得しているおじさん。
「あっ!」
何かを思いだした母親は、急に立ち上がった。
「ちょっと出掛けてきます」
そう言って玄関の方に走りだし、サンダルを引っ掛けて外に出ていってしまった。
『ユイとそっくりダナァ』
「やめてよ、あんな天然じゃないし」
緊張が緩んだ客間に、2人の笑い声が響き渡る……。
突然、優衣は我に返った。
「おじさーん! なんで見つかっちゃったのーっ」
『スマナイ、スマナイ……。ベランダから入る風が気持ち良くて、ツイツイ昼寝ヲ』
「もう、心臓が痛くなっちゃったよーっ」
『ワタシもダヨ』
「……取り合えず、着替えくるわ」
『ヘッ、置き去りカイ!?』
心細そうに、優衣を見つめるおじさん。
「お母さんなら大丈夫、おじさんを歓迎してるみたいだし」
『ソウなのカイ?』
「うん! だから心配しないで、ここに居て」
『……アイヨ。早く戻ってきてオクレ』
深く頷いて、2階に上がっていく。
急いで着替えを済ませ、再び客間に戻ろうとしているところに陽太が飛び込んできた。
「おじさーん!」
「何よ、いきなり! おじさんなら客間に居るけど」
「客間って、下の?」
「あっ、うん。実はおじさん、お母さんに見つかっちゃって……」
「バカヤローッ! それが、どういうことだかわかってんのかよっ」
涙混じりの声で、怒鳴り散らす陽太。
「だから……」
「あれほど気を付けろって言ってたのに、おまえは本当にバカヤローだな!
ほんと、クソヤローだ! ウワァ〜ッ」
顔をクシャクシャにして、泣き叫ぶ陽太。
「うわっ、相変わらず泣き虫だったんだ。男のくせに引いちゃうわー」
「うるせぇんだよ!」
「もー、とにかく来て」
暴れる陽太を、客間まで引っ張っていく。
「触んじゃねーよ!」
「ったく。どんだけガキなのよ。ほらっ、あそこ!」
2人の視線の先に居るおじさんは、座布団から下りて畳の匂いをクンクン嗅いでいた。
「おじさーーーんっ!」
久しぶりに再会した恋人を見るかのように、感激する陽太。
『オッ、ヨータ。お帰りー』
そして……、
「ただいまー」
母親も戻ってきた。
ひきつった顔で、優衣を睨む陽太。
再び座布団に上がり、正座をするおじさん。
母親はそのままキッチンに入っていき……、
カラッ、カラッ、カラッーーン*。.
何かが器に移される綺麗な音を響かせた。
3人は、ただその音に耳を傾ける……。
暫くすると、ウキウキと嬉しそうに母親が客間に戻ってきた。
「お待たせしました〜」
そう言いながら、おじさんに差し出したものは……。ガラスの器に入った、色とりどりにキラキラと輝く金平糖。
『ウォーッ!』
瞳を輝かせながら、感激しているおじさん。優衣と陽太は、もう何がなんだかよくわからない。
「お友達が言ってたことを思い出したんです。その妖精さんの好きな食べ物は、金平糖だって」
『驚きデス! イヤ〜ッ、久しぶりダナァ』
「私も、つい先日、駅に行く途中にあるケーキ屋さんで見つけたんです。もう懐かしくて……、どうぞ召し上がって下さい」
『デワ頂きマス』
おじさんはカリッカリッ音をたてて、とても美味しそうに食べ始めた。
「なんで! おじさんが好きなのは、角砂糖じゃなかったの?」
『勿論、カクのサトーサンも好きダケド……。コンペーサンは、モー神ダネッ』
優衣は、なんとなくショックだった。
「どっちも同じようなもんじゃねーの?」
陽太は、どうでもいいと呆れる。
「あら、陽太帰ってたの?」
母親は、ようやく陽太の存在に気付いた。
「えーっ、気付いてなかったのかよー」
陽太も、なんとなくショックだった。
「ところで、妖精さんはいつもどこに居らっしゃるの?」
母親は、いきなり本題に入った。
「私の部屋だけど……」
危機を察した陽太が、優衣の前に出る。
「母ちゃん! おじさんを追い出すなよっ」
「そんなことしないわよ」
「じゃあ、父ちゃんには絶対に言わないよなっ」
陽太は、応えに詰まる母親に更に迫る。
「父ちゃんが知ったら、おじさんを交番に連れてっちゃうだろー」
「連れて行かないわよ」
黙って聞いていた優衣も立ち上がる。
「でも、研究所とかに送ちゃうかもしれないじゃない!」
「……確かに。それは、あるかもしれないわね」
「えっ、あるのーっ!」
「あんのかよっ!」
2人の驚きの声は重なり、おじさんの動きは止まった。
そこからの流れは、まるで変わった。
「そうねっ、お父さんには内緒にしましょう。いい! 2人共わかった!?」
「う、うん」
「わかってるよ」
母親が先頭に立って、仕切りだしたのだ。
「ただ、優衣の部屋っていうのはどうかしらねぇ。一応、女の子だし」
「お母さん、一応って……」
「あっ、そうよ! 陽太の部屋を使って頂くっていうのはどうかしら?」
「やりーっ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私のおじさんなんだからねっ」
「そうよねぇ」
『アノー……』
3人の顔を代わる代わる見つめながら、何か言いだそうとしているおじさん。
「なーに?」
「なんだよ?」
「なんでしょう?」
一斉に、おじさんに注目する。
『ヒジョーに、図々しいお願いなのデスガ……』
「うん」
「うん、うん!」
「はい」
『ワタシを、アノ透明の部屋に置いては頂けないデショウカ?』
「透明の部屋?」
意味不明な発言に、考え込んでしまう3人。
やがて、その意味に気付いた陽太が大きな声で叫んだ。
「もしかして、サンルームのことじゃねーのっ」
「えっ、サンルーム!?」
『ソッ、ソレ! サンのルーム』
ベランダに沿って広がるサンルームは、全面、頑丈そうな硬質のガラスで覆われている。一年中、太陽がいっぱいに降り注ぐその場所は、真冬でも洗濯物が乾かせる雪国にとって強い味方。
「なるほどねーっ」
優衣は、おじさんのその発想に感動した。
「でも、あそこにはカーテンを取り付けてないので、ゆっくり眠れないんじゃないでしょうか?」
おじさんの睡眠を心配する母親。
『イエイエ、星空を仰ぎながらグッスリ眠れマス。タクサンの緑にも囲まれて、モー快適デス!』
「そうですかぁ。まぁ、あそこならお父さんが行くことはないし、2人はいつでも妖精さんに会えるわね」
「うん、賛成!」
「俺も!」
「それでは、サンルームでゆっくり過ごして頂きましょう。そうと決まったら、みんなで大掃除よ!」
「えっ、夕飯は!?」
「そんなのは、あと! まずは、妖精さんのお引っ越しよ」
「えっ……」
「まじかよ」
『オ、お構いナク……』
母親に誘導され、全員急いで2階に上がっていく。
「陽太は窓ガラスを拭いてちょうだい。優衣は床ね!」
「人使い荒いよなぁ」
「ほんと、お腹すいたぁ」
母親は張り切って、バタバタと掃除機をかけ始め……。どこからかクッションを持ってくると、それをおじさんのベッドに作り変えている。それは、とても楽しそうに……。
今までにない3人の結束で、見違えるほど綺麗になったサンルーム。
『オーッ、ピッカピカーッ! オカーサン、このフッカフカのベッド最高デス』
「お母さん、おじさんがすごーく喜んでるよ」
「良かったわぁ」
疲れきった母親は、その夜、食事を作ろうとはせず……。夕飯は、デリバリーのピザ。
「なんだか体が怠くて……」
父親に言い訳する母親。
「早く休みなさい」
母親には甘い父親。
そうして、何も言えずに黙ってピザを食べる優衣と陽太。
早川家の夜は、静かに更けていく……。
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