029 晩餐会の夜は古い友たちと
魔王討伐の成功記念式典が恙無く無事に終わりを迎えると、会場に残る国賓の多くの人たちはデイルード市城にある迎賓館のキャッスルホテルへと迎えられてそこで催される晩餐会に出席をすることになった。
そして今回のスピーチで注目を集めたハルカを中心にして世界中のVIPからの猛烈になる挨拶攻めに遭い、ようやくに人の波が疎らとなったあたりでハルカはいよいよに元気を失って疲れがさらにひどくなっていた。
「フアァー、、、ムニャ、、、(ウトウト)」
「おや、ハルカ嬢はどうやらここまでが限界のようだな。婚約の挨拶も一通りは済ませたので区切りがちょうどよい頃だ。ここから先の挨拶は余に任せてジュリアンと共々に休んでくれ、ごくろうだった」
「父上、お言葉ですが僕はまだまだ平気です。だからどうか僕をおいてください」
「ハルカ嬢をエスコートするのもお前に任される大事な役目だぞ。それにこれから話し合われる事は国家案件も多くなく、うかつな一言が後々の戦場の引き金となることもよくあるからな。それがわかったのならもう下がって休め」
「これはまた失言をしました。ではそのお言葉に甘えるとします、僕とハルカはこれにて失礼をします」
「ああ、お前はハルカ嬢と共々に今日は大活躍を見せてくれた。さすがは我が息子なのだと誇りに思うぞ」
「その言葉がなによりも僕の宝です。それではお休みなさい、父上」
「うむ」
二人はジュリオ王に並んでお別れの挨拶をするとジュリアンがハルカをエスコートして晩餐会の会場から退場していった。この別れのあとにさっそくに夜の晩餐会にふさわしい人物たちがジュリオ王の元に集ってきていた。
「カカカカッ! 久しぶりだな、生涯の友なるジュリオよ! 俺様と別れてからずいぶん久しくなる年月が経つがお前はあまり変わらぬように見えてすぐにお前だと知ることができたぞ!」
「このようにまたあの頃の三人が一同に集えることはそうなかなかに無いことですぞ! ジェイソンはともかくハミエールは北の塔から出てこないので会えるチャンスなぞありませんからな!」
「もうユルハラスはいつも声が大きい。私はいつも心静かに落ち着ける北の塔が好きなだけよ。ここは騒がしくて頭が痛くなってもうウンザリ、、、いっそ私の氷結魔法でこの場所を沈黙させたい」
「ハハハ相変わらずの人嫌いだなハミエール。そしていつもお前は元気だなユルハラス。そして我が生涯を誓いあった友のジェイソン! お前たちがこれまで変わらずにいてくれて俺はとても嬉しいぞ。さあ我が友たちよ、今宵は我々のこの再会に祝杯を上げようぞ!」
この四人はかつての若いころは共に冒険者をしていたお仲間である。今はそれぞれに職や名誉称号を持ち暮らしていた。ダイマハール帝国で将軍職を務めるジェイソン、アモーン協商同盟で大臣をするユルハラス、レアン連合国で宮廷魔術士長をしているハミエール。年若い頃の思い出に花が咲いたのかいつからか楽しそうに会話を続けていた。ハミエールが懐から出したワンドはジュリオ王の手により取り上げられてしまった。
「ここはなかなかに面白い都市であるな、ジュリオ。このデイルードの街中を歩いてみたが、ここはまるで万国の人民が集まっているようではないか!」
「そうですぞ! それもわずか5年足らずの新興の都市が商業ギルドをしっかりと定着させて滞りなく機能させているとは。これは事前に入念な準備しておかなくてはできぬもの。なにやら策士の計略が臭ってきますぞ?」
「ここは中央大陸での東西南北の異文化が混じり合う民族たちの交差点。さらに平和的な手段で周辺国の人の融合を成し遂げている大都市は近年を見ても例がないもの、、、むううっ! ワンドをよこしなさいよ、ジュリオ」
小柄で軽い体重のハミエールは大柄なジュリオ王との身長差も相まってワンドを取り戻そうとピョンピョンと必死に跳ねていた。必然的にハミエールの大きな胸部もポヨンポヨンとしているが本人はそれに全く気がついていない様子であった。
「(グビビッ)その点には全くの同意見だ。何も特産物も産み出せない辺境の田舎町がいまやこのように様変わりを遂げたわけなのだからな。いやいやデイルードは戦時下の思わぬ副産物だったよ」
「フンッ! お前さんがこの田舎町がそうなるだろうと踏んで、わざわざ連合国にこのデイルードを提供したのだろう?(ガボボッ)」
「そうですぞ!(ヒック) 魔王軍が現れてからというもの周辺の城や街も多かれ少なかれ魔王軍の蹂躙で被害にあったというのに、ここだけが人も経済も豊かになるなんていったい誰が想像できたとお思いですか!」
「ジュリオはとーっても策士なの。今回の魔王討伐で最終的に利益を上げたのはこの国だけで、、、 、、、ぴょん、ぴょん」
「おいおいそれはどこの話なんだ? 魔王軍の最前線でその拠点造りをどこの国も危険になるからと匙を投げていたからシブシブと我が国が引き受けたのを忘れてはいないだろうな?」
トボケおってそれも計算のうちだろうと四人の間でさらに騒がしくなる。もうすっかりと昔日に戻って仲間との会話を楽しんでいるようだ。
宴も酣になって酒の酔もほどよく回っていた。この晩餐パーティもそろそろ終わりに近づいた頃にジェイソンはジュリオにこう話を切り出した。
「なあジュリオよ、お前の息子であるジュリアン王子の婚約のことだ。俺たち3人には何の事前の予告も無しに息子の運命を決めた形となったが、これで本当によかったのか?(ゴクゴクッ)」
「それについては本当にすまなかったと思っている。できるならば婚約発表の前にとくにお前には話を先に通しておかなければならなかったからな。なにせお前の娘を貰おうとしていたのだから」
「いやなに、それはべつにかまわんさ。あれも少々はねっ帰りで貰い手がなかったからちょうどよいと思ったまでのことだ。それにどうせお前の直感が今回も働いたのだろう? ともかくおめでとうをいわせてもらうぜ、なあ親友!(ゴクゴクッ)」
「ああ、ほんとうにありがとう」
ジュリオ王とジェイソン将軍が話終えると、他の客人と歓談していたユルハラス大臣は耳ざとく二人の会話に混じってきて陽気に笑いながら、
「ジュリアン王子の婚約の発表バンザイ! なのですぞ! ジュリオがそうと決めたことでしたらよい縁談の運びとなりましょうぞ!」
「ハアア。もうもういやー! この晩餐会は地上から消えてなくなれ。ジュリオはとても強運の持ち主だから今回も大丈夫よー」
壁際の椅子に座っていながらも常に大勢の客人に囲まれていたハミエールも、クタクタになっていつの間にか3人のそばに現れていた。
「ジェイソンがそういった通りで、実はこれに関しても直感があったことは確かなことだ。だが実はそれだけのことではないのだ。ハルカ嬢とジュリアンが共にいるのを見ていると俺は心が安らぐのだよ。それは今はいるはずもないハルキが側にいるようでな、、、俺はハルカ嬢を婚約者に迎え入れたいと素直にそう感じたのだよ」
「お前がそうと決めたのなら、もうそれでいいんじゃねえか! まあお前の直感が見事にハズレるというのも、たまには見てみたいものだがな!」
「ジェイソン殿も、少しお意地が悪いと思いますぞ。あのハルカ嬢でしたかな。あれは会場内においても評判がすこぶる高かったと申しておきますぞ」
「会場ではもう大絶賛だった。私に輪をかけて息子はとても無口で大人しいのが少々問題、、、私もハルカ嬢のような息子の嫁が是非にほしい」
それからの四人はそれぞれの身内話を楽しく始めることになったのだった。
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