027 淑女をみせて差し上げますわ
いよいよに魔王討伐の成功祝賀記念式典が祝われることになったその当日。
デイルード市城ではそのお祭りが盛大に行われて朝のうちから爆竹に大道芸にパレードに見世物などあらゆるものが路上などで無礼講で行われて街中の民たちがその喜びに浸っていた。そして午後にはこの街に急造された真新しい大会会場に各国の首脳の要人たちや最高位貴族に連なる人々が集められていた。ここ百年の間は実現することがなかった国家種族民族の大同が集まったのである。
その大会会場内にある基壇上には一際目立つように描かれた一枚の巨大な絵画が飾られていた。その題材には勇者ハルキとその一行らが魔王にトドメをさしたその瞬間が描かれているものだった。だがしかし主役であるはずの勇者ハルキの姿は会場のどこを探しても見つからなかった。特別に用意をされていた椅子の上には大きな花輪で飾られた彼の肖像画だけがそこには置かれていた。
開会式は時間の予定通りに滞りなく進められて、長きにわたって話されていた勇者の誇らしい数々の偉業を讃えて語ったジュリオ王はその話の総括として壇上で次のような話を持ち出していた。
「ーーー5年にも渡る魔王軍との戦いでその魔王を倒した勇者ハルキを今日のように失ってしまったことは誠に世界の損失となる出来事であった。彼の双肩により守られたこの世界を今後は我々が引継ぎその平和を大切にしていくこそが彼に報いることと信じている、、、最後にここにお集まりいただいている皆さんに、私からのささやかなる良いお知らせをプレゼントさせていただきたい。我が息子となるジュリアン王子よ、こちらへきなさい」
ダラッダ、ラララッ、ダララララララララーーーーーーーーーー
鼓笛隊の演奏に伴ってジュリアン王子は呼ばれると、壇上にいるジュリオ王の横へと進んでこれと並んだ。そして会場にいる人たちへ向けてジュリアン王子は丁寧なお辞儀を返していた。
「私はこの良い日良き時の記念としてこの場をお借りして我が息子となるジュリアンとハルカ嬢の婚約をここで発表するものとする。それではお相手となるハルカ嬢も、こちらのほうへ参られよ」
ダラッダ、ラララッ、ダララララララララーーーーーーーーーー
ダラッダ、ラララッ、ダララララララララーーーーーーーーーー
ダラッダ、ラララッ、ダララララララララーーーーーーーーーー
鼓笛がしばらくの間は鳴ってはいたが、オレがなかなか出てこないために早く登場しろという催促のラッパが次々とやかましく響きだした。
パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ
パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ
パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ
パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ、パッパラララララララ
パッパラララ、、、
いやっかましぃいッーーーー!!
「あのハルカ様そろそろ出みてはどうでしょうか。国王殿下と王子殿下が壇上でだいぶお待ちとなっているご様子にございますぞ」
オレが幕下からなかなか踏み出さないのを足が竦んで動かないと見かねたのか、オレの側についていた執事のロイスがそう言った。
だが断じて言っておくが、会場に大勢で集まっている人たちに怖気づくことも竦んでいるわけでも怯えているわけでもなんでもない。
オレが勇者ハルキであった頃にはこうした行事への参加は魔王軍団から大きな街を解放するたびに組まれていて、ときと場合によってはスピーチさえも堂々と軽くこなしていたくらいだ。世界のVIPクラスが集まる人々が放っている威圧感にも今更に動じることもない。
であるのならなぜ今更になって躊躇って会場に出ていかないのかというと俺がいま着せられている服装に主な要因があった。この式典用のためにそれは急遽に用意されたものとなるのだろう、オレはその直前までこうしたドレスを用意されるのを知らなかったのだ。それはいかにもな児童少女向けに仕立てられていた、見るからにファンシー感が溢れんばかりの可愛らしいドレスに身を包みこむオレの姿がそこにあったからだ。
ここ三ヶ月の間を病院の中で過ごしてきたので少女の生態についてはある程度に板がついてきたとはいえども、病院から与えられる質素な衣類での生活を過ごしていた我が身の上ではこうした仰々しい派手となる服装に免疫はまったくなかったのだ。
もう正直に言ってしまおうッ!!
この姿はめっちゃ恥ずかしいっ!!
外見の見た目は10歳くらいの少女の姿であるからしてこの格好の服装にも一定の理解はしているつもりだが、真なる俺の気持ちの上ではこれは女装であり羞恥プレイを強要させられているようなものに近く、したがって俺のアイデンティティはいまや崩壊寸前といったわけなのだ!
しかもその上、世界のVIPが集い合うこの会場内の場には勇者ハルキの頃に知り合っている人たちがゴマンとたくさんいるのだ。あちらではオレを別人と見なしているので違和感を感じることもないだろうが、こちらとしては彼らを記憶している分その視線に羞恥心を覚えてこれと対峙しなくてはならないのだ。
ウウウ、、、本来ならここにいるべきオレはあの基壇上の一番目立つ椅子に腰を掛けて、魔王の討伐を成功に導いた立役者として称えられるべきはずのオレが、、、オレが、、、
わかってる。わかってはいるんだ。
俺はもうかつての勇者ハルキではない。
今はどこにでもいるような少女に過ぎないのだ。
そして今このときにジュリアンの婚約者としてこの壇上で紹介されようとしているのだ。失点王子と揶揄されるジュリアンの名誉回復に花を持たせたいとオッサン(ジュリオ王)のこの話にオレものってみたのだけど、よく考えてみたら少女の正装でお披露目するなんて想定外のことだった。
婚約者を引き受けたことは頭に理解させたつもりでだったのだが、、、
ク、、 クク、、 ハ、ハハ。ハハハハ! アハハハハ!
やっぱり、いやだ~! ほんとは出たくなーいぃ!
オレの顔は首から上がすでに真っ赤となって火が吹き出そうになっているんだけどっ!
あーオッサン(ジュリオ王)がこちらをチラリと振り返ってオレをみている。おそらくはこれがもうタイムリミットといったところだろうか。
ジュリアンもこちらを向いたけど、こちらのほうはお前は竦んでしまって動けないんだろって生意気な勘違いの顔をしながら、こちらを向くその陰でいまほくそえんだのが見えたぞ。たっく、いったい誰のためにここまでしてやってると思っているんだ。
婚約をするだけならこんなところでわざわざ発表なんかしなくてもいいのに、オッサン(ジュリオ王)が「どうせするなら魔王討伐記念祝賀式典でこれを発表しよう。世界中のVIPから祝福されるなんてこんな機会はそうそうないぞ。さすれば君が平民だからといった障害もなくなるし同時にジュリアンの株も上がるわけだ。どうだ、良いアイデアだろ?」と言ったのでおまえのためにこれを叶えたんだ。
ええい、しかたがない。ここはひとつ割り切ってみるんだ。
ビジネスとして考えればいいことだろ?
あのあとオッサン(ジュリオ王)と交わした婚約の約束の期間はジュリアンがこのデイルード市城の都市長の任期を全うする間まで。つまりそれは三年の任期が実績として必要でジュリアンが都市長を降りた時点でこの婚約も解消される約束となっている。
だから、これからの三年間はジュリアンの婚約者になりきれッ!
開き直るんだ! 演じきれッ!
フッハッハッハッハッ♫(謎の自嘲中)
いよぉしっっ!(パーーン!)
軽く自分の頬を平手の両手で叩くと俺は大きく深呼吸をしてからビロード幕の裾から体を現す。
まずはこの大舞台でオレは淑女を演じきってみせるぞ。
そう難しいこともないはずだ。10歳の子供の所作だとすれば及第点になるどころかむしろ合格点以上が与えられるはず。
さあ淑女をやってやろうじゃないか。
おっとと、さっそくに間違えてしまった。
淑女を見せてさしあげますわ。
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