022 予約事はサミーにおまかせ




あああああぁぁぁ 、、、 、、、



いまにして思えば、なぜオレは銭湯をこの異世界に広めてしまったんだろう、、、



銭湯の存在がなければオレが今これほどに苦しむ理由はそもそもがなかったはずなんだ。




そりゃあ初めてこの異世界にオレが召喚されたころというのは熱いお風呂に入る習慣のないこの世界にがっかりとしたものさ。それでマイホームにお風呂なるものをつくって最初はオレ一人でこれを楽しんでいたよ。



勇者の出張で遠くへ出かけたりした帰り道に温泉を発見すればマイ温泉と称してそれはもう楽しんだものさ。そうこうして各地で温泉やら銭湯の施設を次々と開設してしまったことは若さの至りと認めることにしよう。



だがこうしてオレ個人のささやかな楽しみだったものがいつの間にかこの世間で広く認知されてしまってからは、今のオレの首元を絞める原因をまさか作り出すなんてあのときのオレは思っても見なかったんだ。



眠っていて知らぬこととはいえ、銭湯でうかつにも勇者が女湯をくぐって入る禁忌を犯すことをしたなんて、、、



うおおおおおおおっっっ! オレは自分が許せそうにない! 非常にそしてとても情けないぞ!




ドッタンッ、バタンッ、ドッタンッ、バタンッ




昨日のあの一件を思い出して身悶えが起こる度にベッドの上で転がることを余儀なくされて幾度も幾度も繰り返し転がり続けていた。






「なによもう朝から騒がしいんだから、、、ふぁあぁ、、、あらハルカだったの、おはようさん」



「おはようです。朝から騒がしくしてごめんなさい、エンリカさん」



起きたばかりのエンリカがまだ眠たそうな目を擦って朝の挨拶をしてきた。それからエンリカはまだ就寝中であった三人目の同居人を見て意外そうな顔をしてさらに驚いた。



「クースピー、クースピー」



「えぇ? 朝に起きてみると必ずと言っていいほど長いお祈りを捧げている姿しかこれまでみたことのなかったあのシエルが、安らかな寝顔をしてあたしたちに見せるだなんてことはとても珍しいこともあるものね」



「昨日のシエルはとても大変だったからこうなるのもオレにはよくわかるよ。シエルの今日の予定がないならこのまま本人の気が済むまでゆっくりと寝かせてあげたほうがいいと思うな」



なんといっても昨日は病院の退院から始まって、子供専門洋服店でのファッションショー、オレが迷子になって夜の街中を探し歩くといった労働でその疲労の蓄積がまだあるのだろう。オレはというと朝に起きてみたら昨日の疲れもなく元気になっていた。やはりすごいな子供の体は。




「あー、なによコレは」



顔の向きをそちらへ向けるとオレの寝ていた布団がひどい惨状となっていたことにエンリカが思わずため息をついた。




「もうひどい有様じゃないの。ハルカは女の子の自覚が足りていなかったのね。年頃になる女の子はこうした男の子がしているようなことはしてはいけないのよ。いいわね、わかった?」



「いまなんて、、、ハルカは女の子、、自覚、、、」



「ハァもうあきれてものが言えないわね。いいわ、いまさらだけどもう一度だけ教えてあげるわ。あなたが、ハルカが、女の子だといった自覚を、しっかりとお持ちなさいな」



そう言われたオレはその言葉の衝撃に目からウロコがとれた気がした。




昨日は目が覚めるといきなり銭湯の女湯の脱衣場にオレはいた。



あのときはそんな自覚もなかった。自分が女の子であったことに。



自分が勇者だったのはもう捨てたとばかり思っていたはずなのに、心のどこかではまだ勇者だと自覚していたようだ。






「そうかなるほど。わかったよエンリカさん、気づかせてくれてどうもありがとう」



「別にお礼を言われることはしてないわ。それとあたし、仲間と認める人には敬語をつけてほしくはないの。だからあたしのことも呼び捨てでおねがい」



「わかったよ、エンリカ、これでいい?」



「もうそれも違うっんだってば。シエルやアルはあたしのことをなんて呼んでるの?」



「あ、、、リカ?」



「それでよろしい。これからはそちらでよろしくね。ところでこの後何も予定がなくて暇になるのなら、今日は冒険者ギルドへいって冒険者の登録をさっさとすませてきなさい。あれがないと冒険家業には今後なにかと不便にもなるし身分証明書に使えたりするから一石二鳥となるのよ」









というわけでさっそくにやってきました。



ここは冒険者ギルドの新規冒険者の申込み受付の前です。




「お名前はハルカさんでお間違いはないですね。現在のお歳は10歳で出身地はデイルード市。住民票の写しのこの情報になにかお間違いはございませんか?」




間違いはありませんと答えると受付のお姉さんはカードをこちらへ見せていた。




「それではこちらがあなたの冒険者カードとなります。どうぞお受け取りください。大事にして失くさないように気をつけてくださいね。この後はご自分のカード確認の後にご説明をしますのでよくお聞きになって下さい」



お姉さんは冒険者カードをこちらへ差し出した。受け取ったそのカードは銅色でさきほどに口頭で確認された情報が表に記載されていた。カードの左右下にはそれぞれ白い空欄のマスがあった。裏面はポイントカードになっていて印をスタンプしてもらえるようになっている。この印を一定数以上満たすとランクアップにふさわしいと判断されるシステムなのである。




「ご確認のほうはもうお済でしょうか? それではこのカードにあります証明機能についてご説明をさせていただきます。カードの表の左右の空欄にあるマス目を両手の親指を挟んでお持ちになってください」




言われたとおりにするとカードに備わる魔道回路が働いてハルカの姿見が平面の映像で浮き上がっていた。通行での確認はこのやり方で本人証明をするのが一般的になる。



受付員はそれを見て確認をすると手元にある書類に最終チェックを入れていた。その後は冒険者ギルドの規約とランクの話に移っていった。




「ーーーです。これで規約の説明は以上になります。ハルカさんの冒険者ランクは現在[F]となっています。ランク[F]の方は初めに教官が付き添った実地講習を二時間ほど受けていただきます。それからいくつかの座学の講習単位を取っていただきますとランク[E]に昇格が可能となります。ランク[F]では冒険者としてはまだ仮免許中の扱いとなりますので通常業務としての冒険者との活動はお出来にはなりません。予めにご注意してください。あちらに見えております掲示板で実地講習を受けたい日時を選んでからお名前を書き込みしてご予約をしてください」



説明は以上です、長々とお疲れ様でした、と受付員はオレの冒険者の手続きが全て完了したことを教えてくれた。




オレは掲示板へと移動をすると明日の午後にその実地講習があることを知って早速にそちらへ名前を書き込むことにした。



しかしその掲示板の高さは身長135cmの人間のことを考慮していない高さにあったので、オレはしかたがなくどこかで踏み台を調達しようと思案をし始めたときに後ろから声が掛けられた。




「ああキミ、キミだよ。ここに書き込みをしたいのならボクが代わりに書き込んであげようか。お名前はなんていうの?」



振り返ってみるとそこにはスレンダー体型をした女の子が立っていた。



金髪になるボブカットが印象的で目の色は明るい緋色。おへそ辺りの肌が見え隠れをする短めのタンクトップにショートパンツの裾部分からはすらりと伸びた脚線美を誇っていた。無駄な贅肉がない均一の取れたそのスポーティーなプロポーションは美しいと思ってしまった。




彼女は俺を見るとマジマジと見て震えた両手を自分の頬に当てたと思いきや、



「ええっ! ちょっとっ! この可愛いくて美しい生き物は何なの。イヤァーン」



と甲高い大声を出していた。それからハッとしたのか、




「おっと。いやボクとしたことが取り乱したりしてみっともない真似をしたね。ボクは美しいものを見るとつい興奮してしまうのさ。キミにはボクと同じように他人を引きつける魅力がどうやらあるようだ」




うんこれは決定。ナルシストさんだね。



できればこの場を逃げ出したいところなんだけど、呼び止めて用事を引き受けた手前もあるから、名前の記入だけ済ましたらさっさとお暇したほうがよさそうだ。




「ハルカ、です。そこにある記入用紙にそう書き込んでください」



「ここに、はいっと、うん書き入れたよ。あれ? たしかいまハルカってそういったの?」



「書き込んでいただいてありがとうございます、それじゃどうもさようなら!」



彼女にぺこりとお辞儀をすると長居はご無用とばかりに脱兎のごとくこの場を逃げ出した。



彼女はというと、この子のことなのか、と一人ごこちとなっていた。




「フッフッフッ、、、ああ、おーい、ボクはサミーっていうんだ。覚えておいてくれるとうれしいな」




笑みをまだ浮かべているサミーを背後にして俺はこの場を後にするのであった。

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