011 エンリカのお見舞い(番外編)




このお話はハルキの意識がまだ戻っていなかったころの病院での出来事です。






ツン、プ二ッ



ツンツン、プニプニッ



ツンツンツン、プニプニプニッ



「ほわわ、あたしの人差し指が第一関節まで埋まっちゃうなんて、なんとゆう恐ろしいほどの弾力なの。これは俄然に興味がわいてきたわ」



ペチンペチン、ペチペチ。



「ふーん、多少強く叩いてもおきないんだ。(耳元へ近づいて)ねぇちょっと聞こえてる? 起きないとお姉さんがこれからもっとひどいことをしちゃうけどいい? って了解も取ったことだし始めますー」



ムニムニー、ムニョーン、ニョニョニョーン。



「プッ、や、やだこの子ってば、ププ、ブサ顔をつくると意外に可笑しくて。だってホッペがこんなに伸び、、、プププッププププッ」






「リサ~ おまたせをさせてごめんなさい、、、っあああ~! なにしてるの手を離して~!! 大丈夫? 痛くはなかったの~?」




お手洗いから戻ったシエルが見たものは、銀髪ちゃんのほっぺたを両手でつねって引き伸ばしていたエンリカの姿だった。シエルは慌てて銀髪ちゃんをエンリカから引き離すと、銀髪ちゃんの顔に異常はないかを調べ始めていた。




「この子に何を話しかけたって無駄なことなのはわかってるでしょ。あたしがこれをするのもいわば人助けなんだから」



「そうだからといって~ イタズラをしていいことと悪いことがあるのはわかるわよね、リカ。でもその気持ちになってしまうのも少しはわかりますけど~ かれこれもう10日以上は眠ったままなのですからね~」



「のんびり屋のシエルもさすがに気にはしてるのね。でもこの子って顔色はいつもツヤツヤとしてるしただ眠っているようにしか思えないし。これで意識が戻らないなんてありえないと思ったり、、、エイッ」



ツン。



「リ~カァ~ 銀髪ちゃんで遊ぶことはこれ以上許さないのです~ さすがにオコになっちゃいますよ~ プンプンなのです~」



「シエルぅかわいっ! あもう、そんなに本気で怒らないでよ。わかったわよ、もうしないって約束をするから。ああーん許してー」




シエルが本気で機嫌を損ねたのを見ると、エンリカは両手を合わせて慌ててゴメンゴメンと平謝りをしだした。







「あ、この子ってば、まつ毛がとても長いのっていままで知ってた? シエル、ひょっとしたらこの子乾燥地帯に住んでいる遊牧民じゃないのかしら? ええとたしか、砂嵐が目に入らないように環境が人を変えるってなにかの本でみたことがあるのよ」



「銀髪ちゃんはここに運ばれたときから国籍も種族も民族も謎だらけですからね~。まあ~ まつ毛はそうとしても肌色については北の民族ぽくもありますよ~ 遊牧民は強い紫外線の影響で肌が黒くなるということですし~」



「本人が目覚めてから聞くより他はないってことね、、、あ、そうだわ! つい忘れてた! ねぇねぇハルキ様のことでその後になにか変わった噂話ってなにか聞いてなかった?」




シエルはハルキの話をことあるごとに何辺も聞かされていたのでウンザリとした顔をした。エンリカは勇者ハルキの大ファンなので、ここへとくる目的も半分はシエルのお見舞いよりもハルキの噂話が聞けると思っているからだ。




「またその話ですか~ リカはここへ来るたびに私の回復状態よりも先にその話を聞くのですから失礼だと思うのですよ~。いっそ私たちのパーティーを抜けて勇者ハルキさんの専属レポーターとして転職するのをリカにオススメしたくなるのです~」



「もう、シエルはイジワルをいうんだから。シエルは以前にあたしとハルキ様との間にあった事情をよく知っているでしょ。ねぇ~だから協力して。お願いするから知ってることをぜんぶあたしに教えて~」




エンリカはシエルにすり寄っていくと拝み倒してそう言った。シエルはそれを見てしかたなく、




「はあ、わかったのですよ~ でも最近は魔王城からここへ運ばれてくる人たちもいなくなって勇者ハルキさんの噂話もとんと聞かなくて~ リカのほうが噂話を集めやすいと思いますよ~」



「チッチッ、病院内の特別な噂話があるのかもって聞いているだけだからその辺はべつにいいのよ。あそうだわ、これお昼のかわら版よ。ここにハルキ様に関わる最新情報が載っていたんだから。ほらほら読んでみてよ」



「お昼のかわら版をわざわざありがとうなのですよ~ 、、、おや、ふむ、なるほどなのです~ わたしたち牢獄に入っていた組に国の補償金が下りることが決まったと書いてあるのです~ これは朗報となりますね~」



「もーもーちがうってば! あたしの言っているハルキ様の記事はべつのところにあるの。あたしが言ってるのはここの見出し、いい? 指を指してるここの記事のことよ!」



「上から順に読んでいたのにリカはせっかちさんなのですよ~ 、、、ええと『救出された牢屋の隣部屋から発見されたナゾの液体、すべての瓶が空で発見』ですか~。そういえばそんな物があったのを見た覚えがありますね~」



「シエルはそこにいたの?! もうなぜそのことを教えてくれなかったのよ! あのね、空になった瓶はどうやら間近に氷嚢庫から開けられた形跡があったんですって。これを開けて飲んでいたのはもしかするとハルキ様なのではないかって。ねえ他には何もなかったのか思い出して」



「うんんー、、、そう言われても、他にはとくになにも、、、あ言われてみたら、銀髪ちゃんがその近くで寝ていましたね~」



「この子のことなんてどうでもいいのよ!! はあ、、、いったいどこへ行っちゃったのよ、ハルキ様は」



エンリカはしょんぼりとそう言ってガックリと俯いてしまった。シエルはこれを見てやれやれとしていると、病室の入口からセンセイと看護師が巡回健診のためにやってくる姿を発見した。




「おお、なんだ、エンリカさんじゃないか。お昼のかわら版はさっそくにチェックをしたのかい?」



「センセイ! えぇ、もちろんです! センセイはハルキ様の最新情報をもうお読みになっていますか?」



「もちろんさ。相変わらず情報の仕入れがとても早いんだね」




二人はゴシップニュースの情報通なので、情報仲間として今やすっかりと打ち解け合っていた。



「コホン。今は健診のお時間ですよ」



「え、、、ああそうだった。済まないね、また話は今度で」



センセイは看護師にそう言われて渋々と業務をこなし、最後にハルキが眠るベッドを健診していた。




「うーん残念だ。顔の血色はとてもいいのに、意識が戻らないなんてね」



「銀髪ちゃんはこのまま目が覚めないままなのでしょうか~?」




恐る恐るにシエルが聞くとセンセイは首を縦にコクンと頷いた。




「人が昏倒をして覚醒ができるのは長くても5日から10日の間と言われているんだ。それを超えてしまったらもうめったには起きなくなる。だからこれはもうお手上げといったところさ」



「へえーこの子すぐにでも目覚めそうなのに。センセイでもわからないことってあるの?」



「ああ、今の医学ではまだまだわからないことだらけだ。彼女の意識が戻ることはもう無理なんじゃねって思うほどにはね」



センセイはそれから静かに立って次の病室へと去っていった。シエルとエンリカもまた今ではお互いの近況の話題などをしてすっかりとハルキへの興味を失くしてしまった。




(ゥ、、、ゥ、、、)




このときに人が聞き取れないようなうめき声が起こっていたことは誰も知られずにいたようだった。

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