004 手も足もでない
完全に脳が覚醒するとそこには白い天井らしきものが只あるのみであった。俺はすぐに起き上がろうとして腕を動かそうとしたのだが、、、なぜだかその意志に反して腕がまったく動いてくれなかった。
あれえ? どうした?? おい動け。動いてくれってばっ。
腕に対して俺は何度も脳からの指令を送り続けるがそれは叶わないものであった。腕に伝わる脳の神経そのものがなぜだか遮断されているようで、要は1ミリさえも腕を持ち上げることができなかったのだ。
腕がダメというのなら足ならどうだと思ったが、足もまた腕と同様に1ミリさえも動いてはくれない。いやもうこれは手も足もでない状況である。
声はどうだろうか。が音そのものさえ出てこない。口を開くことはできたものの声帯が反応をしないのかそれはパクパクと動いているだけで、発声器官そのものはエラーを起こしてなにも役に立たなかったのだ。
((これは異常事態だ!!))
しかし俺は勇者だ。パニックはすぐに脇に追いやった。こうした不測の事態のときにこそ普段の訓練から体得していた冷静な判断力がなによりも求められる。
幸いにも俺の視覚と聴力は正常のようで自の置かれた状況を確認することが現状打破のためにまずはなによりも先決になった。
首を動かそうとすると最初のうちは小刻みに動いて思うように動かなかったが、慣れてくると上下左右の方向に自由に動いてくれるようになったのでホッとする。
(グググ。ググ。ハアハア。フゥー)
幾分慣れていない首をぐるりと動かしてもえらい運動量を伴う。さきほどから見えるのは天井だけだったが思い切り顎を引いて下へと向けるとベッドに寝かされていることをなんとか確認できた。
使われている布団は安物らしく薄いものだったが清潔そうには見えるし異臭なども感じられない。この待遇からみて俺が囚人の扱いとなっている可能性が低いことを知って安堵のために息を漏らした。
がこれも先ほどに見ていた夢の続きの一部で、また夢の中で目を覚ましたオチなのかもしれないと俺は思った。だが自分でつねってみせるといった痛覚判断はしたくてもできないので諦めることにした。
(ハァ。夢の中では体が自由に動かないとか色々なことが起きるけれど、たぶんこれは夢オチというものではないのだろう。なんにしろこれは弱ったな)
それで落ち込んでいるわけにもいかなかった。天井をつぶさに観察するうちにそれは人の手で造られた人工物であることがわかった。もしそうだとしたらもしかすると俺がうっかりと寝てしまっていたその間に宿屋にでも搬送されてしまったのだろうか。
(いやいや、それはないだろう)
俺の入る部屋だというのならば天井はこれほどに低く設計をされていないはずだ。そもそもホテルだと言うのならば、高い天井に極彩色で彩られた絵画やレリーフの模様で埋め尽くされたものが俺の泊まる部屋には必ずあるはずで、対してこの天井はそうした華美になるものは一切なかった。
このような造りは一般の天井、、、実用一辺倒の無機質で質素な造りをみると利用客にへつらったホテルなどに見られる華美な造りとは真逆であることが見て取れた。
クルクルクルクル
天井をあちへこちへと眺めているうちに首が動く可動範囲がある程度は拡がってきたので、今度はこの部屋の四辺を眺めてみると一角ごとに1台のベットが置かれた4人部屋であることを知ることができた。
(ここは宿屋なのか? いやそれにしてはなんだか少し違うような、、、)
ベットにはそれぞれの専有者かいる様子なので空きのない状態であることが見て取れた。一通りその間取りを観察し終えた俺は次に首を右横に動かして、視界に入った隣のベットの人物像をさらに観察することにした。
その人物というのはわりと俺と近い年齢に見えた女の子で、ベッドの上で正座をしている格好で現在は手に持った読み物に耽っているようだった。先ほどに俺が目覚めたことにはまだ気づいていない様子だったので、今度は自分の足が伸びていた直線の方向へ視線を飛ばしてみる。
そちらのベットでは全身が包帯で巻きつけられている人間(?)が横たわっていた。彼(それとも彼女?)は全くと言ってよいほど微塵の動きもしなかった。
死んで動かないのかと思ったが実はそうではないようで、俺から左側に見える窓の外の風景を見ていたのだということがわかってきた。
これ以上見ていても目新しい情報はとくに入ってこなかったので、いよいよ最後になる俺のベッドと対角線上の位置にいる人物へと視線を移した。
そこにはまた女性がいた。若い女性でどうやらこれから沐浴をするためにお湯を注いだタライとタオルの準備を始めているところだった。
そのベッドには予めに周りをカーテンで引かれていたが俺がいる対角の位置にはカーテンが引かれておらず、俺はその様子の一部始終を見ていることができた。
なるほど。カーテンに遮られた向こう側の壁にはこの部屋の唯一になる出入り口が見えていた。これは外側の廊下を通る男性用に配慮されたものなのだ。
いやまてよ?
よく見るとこの部屋の出入り口には扉がそもそも備わっていなかった。なぜ出入り口には扉が備わっていないのだろうか。
この不思議に思えるパズルがようやくに解けかかっていたその矢先。
、、、 、、、ん?
んん? んんんんんッ!
!!ーーー!!ーーーッ!!
まてまてッ!
ちょぉぉおっと、まってぇぇぇ!!!!
出入り口に扉がないことはこの際すてておいてもいいっ!!
いま緊急的且つ、じゅっ重大なことなのわっっっ!!
俺の、俺の前に、
女性が裸で現れていたことだ~~!!
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