003 異世界との別れ




「みんな、とてもお世話になったな」



魔王討伐式典があった翌日。勇者ハルキは勇者送還の儀の前に、この異世界でお世話になった人々を集めて別れを告げていた。




「大将、そっちの世界に帰っても元気でよろしくいろよ。そして今度は彼女でもつくったりしてのんびりと過ごすんだな」



「お前がもう行ってしまうのはやはり寂しくもあるな。銭湯の誘い話を今後は聞かされないと思うとせいせいとはするが」



「この世界でお主は十分に働いた。あちらに着いたらお主に聞いていた扇風機と牛乳とやらを訪ねてそれを堪能してこい」



「うっうっう、、、これまで本当にありがとうございました。やはりお気は変わらないんですよね、、、さようならです」



「、、、おつかれだ。吾友ハルキ、、、」



「お前らさみしくなるじゃんか。打ち合わせをしたときには楽しく俺を送り出すはずだったのにこんなにしんみりとしやがって、、、くそ」




俺はかつての仲間たちにお別れをした。それからこの異世界に俺を召喚した、代表たちが持つそれぞれの5つの指輪をワープゲートの大門の前にあった台座にはめ込むと、ワープゲートは大きな振動を伴って次第に鳴りはじめた。




「勇者ハルキ殿、魔王からこの世界を救ったことを代表して感謝する。がしかし、この地で名誉ある臣民として残る選択もまたできたのだぞ。どうだ、いまならまだ送還の儀も取りやめにすることもできるが、、、やはり帰ってしまうのか?」



ジュリオ王は最後になる確認を問い正していた。これまでにあった勇者ハルキとの思い出を通じて目の端を少しうるませていたようだった。




「よしてくださいよ。この世界で俺の用はすでになくなったんだ。これ以上ここにいても未練など少しもないのですから。これからはあちらの世界に戻ってのんびりと暮らしますって」



「やはりそう答えるか、、、フン。はてハルキよそうだったかな? ステファン公爵家の娘であるネルフィ姫とは浅からぬ縁があったそうではないか。公爵家からは娘が熱心にというので婚約の取り持ちを仲介してほしいと、余に直々に頼まれているのだが?」




ワープゲートの完全な起動がまだしばらくの時間がかかるのかジュリオ王は戯けたふうにして皮肉を言ってきたので、こちらもこれと同様のノリで言い返すことに決めた。




「よしてくださいよ。まあたしかにクエスト依頼で公爵領地を通過中に、魔王の手下に襲われていた姫を救い出したことがありましたが、あれはいつものことで他意などはなかったのですから。それにネルフィ姫の年齢はまだ10歳でしょ? 俺は19歳になるのにいくらなんでも9歳の歳の差の開きがあるのではいくらなんでも犯罪になりますって。独身中のオッサ、いやジュリオ王がもらったらどうです?」



「ワッハッハッハ。将来を渇望されている優秀な人物には、歳の差よりもどこの誰よりもいち早くツバをつけておきたいと考えるのが、この世の親心というものだよ。うちにも条件に見合っていた子供がもしいたとしたら、こうしてハルキを還すことなどはしていなかったんだがな」



「国の政務やら外交にかまけてジュリアン王子しか子供を設けなかったあなたに言われたくはありませんよ。向こうの日本に落ち着いたら彼女を1ダースほどは作って4ダースの子供たちを時が来たら再びこちらへ送り返してみせますよ」



「なにをいうのだこいつめ。こちらではろくに彼女を作ろうともしなかったというのに、勝手に言わせておけばどの口がほざきよるか、、、フン。まだまだ言い足りぬこともあるがそろそろのようだ、、、ではなハルキ殿。むこうでも達者で暮らせよ」




「ああ、、、そちらもな。はやく新しい後妻さんを娶って心配性な執事さんを安心させてやれよ」



「なにを、青二才の分際で」



「アッハッハッハ」




俺とジュリオ王は笑い合い堅い握手を交わしながらしばらくそうしていた。







「ハル兄ぃ、、、グスン、、、やはりヤダよ。どこへも行かないでよ、、、」




声の出処に視線を移すと、ジュリオ王の後ろ側に控えていたはずの息子のジュリアン王子が、いつの間にか前に出てきて俺に話しかけていたようだ。




ジュリオ王の息子になる王子のジュリアンは当年で15歳。




俺がこの異世界にやってきたときには11歳のワンパクだった時期で、最初は揉め事を次から次へ起こすトラブルメーカーとして困らせられたこともあったものの、いつしか気がつくと実の兄弟のような間柄になってしまっていた弟分だ。




「我が子ジュリアンよ。ハルキ殿をそうそう困らせるものではないぞ。お別れが出来なくなってしまうではないか」



ジュリオ王はそう言ってジュリアンに教え諭すのだが、ジュリアンは最初こそ駄々をこねていたがやがてはこれに黙って俯いてしまった。



俺は寂しがりやいっぱいのこの王子の頭の上をポンと手で優しく叩いた。




「それじゃあな、ジュリアンもう行くよ。お前の前途には幸があれ!」









ハッ、として目が覚めた。






ーーーあれれ? 



俺はいままで、まさか夢を見ていたのか。




目覚めは普段からわりと良いほうで、起き抜けから思考が働くタイプの俺だったが、このときばかりは頭の淀みが異常なほどに重く、この澱みがいつまでたっても消え去らずに残り、これまでの目覚めの中で最悪の結果になっていた。




くっそ。あー、、、えっと?




最後の意識の前、、、なにか引っかかっているよな。



ウーン、、、、、、とんと思い出せん。



なんか寝るとこではない場所で寝てしまったことは、ボンヤリとは覚えているんだが、、、




だめだ、、、よく思い出せないや。




・・・・・・



。。。




とりあえずは、思い出せるところから思い出していこうか。






そうそうたしか俺は、魔王城の謁見の広間で長丁場の末にようやく魔王を倒して、、、



それからあとは王座の後ろ側にある通路を発見したのちに、魔王宮へと進んで、、、




それからは?




うううーん?



その後はいったい、どうしたんだっけ?




、、、ああっ! そうだそうだ! すっかりと思い出したぞ!



大浴場を発見すると仲間たちが制止するのを振り切って、大浴場に大はしゃぎをして一人飛び込んで、、、




いまになって冷静に振り返ると、その行動はなんだかとても恥ずかしいぞ。




それでえっと、体がなにやら熱くなってきて、ふらふらと魔王宮の中を歩いていたら、牢屋の中にいた人たちをパーティーの仲間たちが救出していたのを見つけて。



それからお邪魔にならないようにと、隣の部屋に移動をしたんだっけ、、、






あ、ああッーーー!



あーーーそうだった!!



その部屋にあった不気味な解体台の上で、俺は不覚にも眠ってしまった、、、と。




すると、ここはまだ魔王城の中で、魔王宮の解体台の部屋の中といったわけか?

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