第20話
彼女たちの想いに押され、ショッピングに同行させてもらっているわけなのだが、依然として僕への周囲の眼差しに身が引き裂かれる思いをしている。しかし、僕の為に似合う服を選んでくれている玲ちゃん、咲さんたちの楽しそうな笑顔を見ていると、次第にそんな思いもどっかに飛んでいってしまうのだった。
「桂、ちょっとこれ着てくれる?」
「はい————え、これですか?僕にはちょっと似合わないようなぁ……」
「いいから」
「はい……」
どうやら当人の僕には拒否権はないようだ。分かってたけどね。
店内奥の試着室に入ると、僕は何を思ったのかそこに三角座りをした。これは引きこもりの本能というべきなのか?
しかしなんだ、この安心感は!このフィット感は!?この丁度いい広さと、この密閉感。
試着室には荷物が置けるように壁に備え付き棚がある。もし、漫画やゲーム機、お菓子、飲み物といった必需品をこの棚に置けば移動しなくても手が届き、ずっとここに居てもなんの不自由のない最高の引きこもり生活が謳歌できるのでは!?
この試着室こそが引きこもりの最適解にして到達点!
「僕、今日からここに住みます。そして、引きこもります」
「なに言ってんの?桂兄ぃ」
「(あっ、ちょっとその気持ちわかるかも。言わないけど)」
「桂っ! ふざけてないで早く着替えてよ。他にも着てもらう服はあるんだから!」
「あ、はい。すいません………」
ああ、できればこの試着室から出たくない。引きこもりたい……なんて思ってても仕方がないことは分かっているつもりだ。
急いで着替えを終えてカーテンを開ける。
「どうですか—————?」
「「「「 おぉ〜っ!!! 」」」」
「うん。良いじゃん!」
「桂先輩、素敵ですっ!」
「悪くないんじゃないっ!?」
「カッコいいじゃん」
「あ、ありがとう………っ」
今までの人生に置いて、誰かにカッコイイなんて言われたことなんてなかった。でもまさか、こんな4人からカッコイイだなんて褒められる日が来るなんて思いもしなかった。
服を着替えるだけで人の印象はこうも、カッコよくなったり可愛くなったりすることができるものなんだなと、身にしみて実感した瞬間だった。
それからは、お店を5軒ほどブランド店を巡り、その度に僕は着せ替え人形のようにいろんな服を着替えさせられた。その間、咲さんと玲ちゃんが僕に似合うファッションは何かと、言い合っていた。
「桂兄ぃはこっちの方が可愛いです」
「玲ちゃんには悪いけど、桂にはこっちの方が絶対似合うって!」
その中に混じるように理乃さんや明日美さんも僕に似合うファッションプランを提示してくる。ちなみに僕の意見は一切通らなかった。理由は「ダサい」「おっさん臭い」「おたくっぽい」だった。それからは無視された………ぐすん。
その後、立ち寄ったカフェ店で休憩しながら今後の予定をどうするか相談していた。
「このあとどうしよっか?」
「もう3時ですしねぇ」
「桂君にデートに着てもらう服は買えたし、あとは私たちの服とかかしらね?」
「そういえばまだ見てなかったよね。……じゃあさ、今度は桂に私たちに似合う服を決めてもらわない?」
「それいいですね!」
「いいわね!」
「え? ちょっと待って下さい皆さん?僕にそんな重要なこと決められるわけがないじゃないですか!ご存知の通り僕にファッションセンスが皆無です。似合っているかどうかなんてそんな無責任なこと言えませんよ!それに、別に僕が決めなくてもどういう服が似合うか可愛いかなんて皆さんのほうがよくわかるでしょう?」
「この前桂の家に遊びに行った時に、私と理乃ちゃんの服、褒めてくれたじゃんっ!」
「ええ。まあ、そうですけど……」
「私まだ、桂君に服をキレイって褒めらたことないんだけど〜?それに私との次のデートに着ていく服も買わないと行けないし?」
「わ、私も、桂先輩と次のアキバ探索に着ていく服を買わないといけなかったんでしたっ!」
「……桂兄ぃ」
「なんだい玲ちゃん?」
そっぽを向いたまま僕の服の裾を掴む玲ちゃん。
「ワタシも……言われてない。それに、今日は桂兄ぃに可愛いって言ってもらえる服を買ってもらう為に来たのに、ワタシまだ買ってもらってない!」
「え? 僕いつも玲ちゃんに可愛いって言ってない?」
「言ってない—————!」
少し頬を赤くし拗ねた様子で怒っているドライな玲ちゃんも、またそれはそれで可愛い。
「あ、そういえばそうだったな。ごめんね玲ちゃん……」
「……………うん」
すっかり忘れていた。
元々は、玲ちゃんと二人で互いの服を買う為に此処に来たのに、咲さんたちと
「それじゃあ、早速行きますか!」
咲さんの号令を合図に、僕らはショッピングを再開した。
「桂の評価もいいけど、やっぱりここはファッションの専門家である玲ちゃんに御教授願いたいわよね」
「そーですよ! 私たちには
「そうね。私も参考にしたいわね」
「頼りにされてるじゃないか。玲ちゃん」
「ッッッッッッッッ!」
照れてる照れてるっ。
ここまでの玲ちゃんを見てきて思ったことは、玲ちゃんはドライではあるけど、表情がコロコロ変わって、感情豊かな可愛らしい女の子だということだ。
「桂、この服とかどう?」
「う〜ん。ちょっと派手なような感じがしますねぇ」
「咲さんはスタイルが良いから、多少の派手な服でも十分似合うと思います。けど、上下ともに派手だとメリハリがないので、落ち着いた色の服で強弱を付けると、まとまって体のラインが引き締まります」
「さすがファッションモデルね……」
「だ、だからやめてくださいってばッッッッ!」
「(うん。うちの妹、めっちゃ可愛いな)」
「桂先輩、これとか私に似合い、ますか?」
「うん! 似合っていると思いますよっ」
「そ、そうですか?————ッッッッ!!!!」
「理乃さんは足が細くてキレイだから、ショートパンツやミニスカとか履いて、足を露出しても可愛いと思います」
「あ、あ、足を!? で。でも……」
「大丈夫ですよ理乃さん。理乃さんならきっと似合います。あの加藤恵だってミニスカで可愛かったんですから!」
「———————ッッッッッッッ!」
「桂、その“かとうめぐみ”って誰? アイドル?」
「アニメのメインヒロインです!」
「あ、そう。了解了解………。ていうか、やっぱりアニメのキャラで褒められても嬉しいは嬉しいんだけどいまいち、ねぇ。理乃ちゃんはどう思っ—————」
「メインヒロイン……メイン、ヒロイン…………私が、メインヒロイン。うふ、ウフフフフフフッ……」
「あ、満更でもなさそうね………(理乃ちゃんは桂と同じくオタクだからアニメのキャラで褒められるのは本望っていう感じか。なるほどね。—————メインヒロイン、かあ………)」
「咲さん?どうしました?」
咲さんが思い詰めた様子でいたので僕は気になり声を掛けた。
「えっ? あ、ううん。なんでもない。ちょっとこの服が気になっただけっ」
「そう、ですか……? なら、いいんですけど」
「うん。大丈夫大丈夫。………あのさ桂、ちょっと私、この服試着するから後で似合ってるか見てくれる?」
「いいですよ」
「ちょっと、試着してくるぅー!」
「りょーかい!」
「わかりました!」
咲さんは皆にそう言って試着室へと入っていった。
「桂君、この服なんか私にどう?」
「どれです……かぁ……」
当然の如く、明日美さんは際どい肩と足とそれと胸が露出したかなり攻めた服装を持って体をゆらゆらと揺らしている。もはやそれは下着ではないのか?キャミソール的な何かの。
「それで外を歩き回るつもりですか?」
「違うわよ。私がこれを着るのは、桂君の前だぁ〜け♡」
「そ、そうですか………」
「明日美さん! あまり桂に……兄に誘惑するのやめてもらっていいですか!? 」
「あら〜玲ちゃん。なんでそんなに怒っているの?なにか困ることでもあるのかしら〜?」
「………………っ」
ニヤニヤする明日美さん。そして、何かを警戒するように明日美さんを見つめる玲ちゃん。
どうやら明日美さんは気付いたようだ。玲ちゃんはこんな風貌だけど、実はかなりのブラコンだということを。そして、この僕もかなりのシスコンだということも、明日美さんには見抜かれてしまったようだ。まあ、普通に妹のことをちゃん付けしている時点でシスコンだしな。
「大丈夫だよ玲ちゃん。僕はこれしきの事で惑わされたりしないから」
「そうよ玲ちゃん。残念だけど、桂君にこの手は通じないことは既に証明されているの」
「桂兄ぃ、それってどういう意味———————?」
あれ?玲ちゃん? なんか顔が怖いよ?
「いや、えーと、それは………」
「桂君、言いづらかったら私が代わりに話してあげましょうか?」
「絶対ダメです! 何故かはわからないですけど!」
「なんなの? 教えてよ、桂兄ぃ」
「………………」
明日美さんの口からあの夜ことを聞かされたら、きっと僕は玲ちゃんに殺されるような気がする。かといって僕の口から話しても結局殺されそうな気がする。
「明日美さんが少々肌が露出した格好で僕に逆ナンしたんだよ……」
「…………」じー
「まあ、間違ってはいないわね」
「ほらね?」
「…………そう。でも、そうだとしても兄は女性には慣れていないですから、あんまりからかわないでくださいッ」
「本当に慣れていないのかしらね……」
明日美さんは僕に妙な視線を送る。
「(なに?なんでそんな目で見るの!?)」
明日美さんの視線に戸惑っていると
「桂、着替え終わったからちょっと見てくれる?」
「あ、はい。わかりました。すぐ行きます」
咲さんがいる試着室に向かう。
「どう、かな……?」
「————————っ」
咲さんのその姿に僕は声が出なかった。
「なんか、言ってよ……」
照れている咲さんはこちらに視線を合わせようとしない。だが、チラチラとこちらを見ている。
「えっ? あ、え、えと……」
正直、すごく可愛いというかキレイだ。だが、普通に「可愛いです」とか「キレイです」とかそんな簡単な言葉で言い表していいのかと
「い、良いと思います………っ!」
僕のバカ野郎!何が「良いと思います」だ。もう少し他に言い様があっただろう。ああ、自分の語彙力の無さを恨むよ……。
「ウフッ! なにそれッ。この前みたいにもう少しまともな褒め言葉とかないわけっ?」
「すいません………」
ですよね。
「………誰に見える?」
「え?」
「私も、何かのアニメのヒロインみたいに、か、可愛い—————?」
………。
「————す、すみません。今ぱっと思い付くキャラが浮かばなくて……」
「そ、そう……」
「見た瞬間に素直にイイなって思ったので………」
「————————っ!」
10年もアニオタをやっているというのに、瞬時にアニメキャラに例えて褒められないとは!アニオタ失格だなこれは……。
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