第16話
「え?」
「だから私達、付き合っちゃおかって」
「唐突すぎない?久しぶりの再会にしても出会ったばかりだぞ?」
「そう? こういうもんでしょ。男女が付き合うって……」
「そう、なのか?」
「それでどうする? 付き合う?」
おふざけや冗談で言ってる雰囲気ではなかった。
だが、本気で言ってるようにも思えなかった。
高校時代の風宮菫という女子高生は、真面目で明るい性格の部活内では女子グループのまとめ役というかリーダー的存在だった。彼女が描くスケッチ画はプロ並で、美術部顧問の先生や部長の先輩にも一目置かれるほどの存在だった。次期部長と称されるほどに。
そして案の定、三年生の部長が卒業した途端、彼女が部長を務める事になった。部員達もそれに大いに同意していた。僕は正直、部長が誰であろうとどうでもよかった。絵さえ描ければ問題ななかったから。
だが、僕は知らなかった。彼女があの美術部の中で感じていたことを————。
「僕と付き合ってもいいことはないぞ」
「そう?私は割と彼崎君はいいと思うけど?」
「どこが?」
「私を一人の部の一員として観てくれてたところ、かな?」
「なんだそれ、どういう意味だ?」
「私ね。高2の時、美術部の男子達に恋愛対象として観られたの知ってた?」
「何を言っている?あの男達は僕と同じ二次元に心から愛してやまないオタク共だぞ?」
「それは、彼崎君だけだったってこと。彼崎君以外の男子達は全員、まともに三次元の女子に恋愛感情を持ってたの。————とくに私に対してね」
「あの裏切り者達めぇ〜!」
あずにゃんは俺の嫁だ!と言っていたアイツらの言っていたアレは嘘だったということか!?
尊姫二次元の嫁に想いを馳せるオタクたる者が三次元に恋するなど言語道断!実にけしからん!!!
「でも彼崎君は違ったよね」
「当然だ! そいつらとは違って僕は二次元をこよなく愛する者だからな!」
「ウフフフッ、そうじゃなくてね。彼崎君だけは私の事を唯一、一人の美術部員として接してくれていた」
「それは普通のことじゃないか?」
「私にとってはそれが嬉しかったの。彼崎君以外の男子部員達は私に会いに来るために部室に来てたようなものだったから」
「そんなことはないだろう? 確かにあそこは半分オタク達の溜まり場みたいにはなっていたが、それでも男子達は真面目に部活には取り組んでいたはずだ」
「そうかもね。でも私が一番嫌だったのは、男子達が私をそういう目で私を観ていた、ということ」
「気にしないようにはしてたんだろ?」
「してたけどね。でも、私もあの頃はお年頃だったしさ、いつまでも無視できるってわけにはいかなったし、多少はね……」
「だよ、な……」
「それがすごく鬱陶しかったし、絵を描くのに邪魔だった。ここは絵を描くために来るところ。色恋は外でやって!てね……」
「もしかして、男子の一人が退部したのは、それと関係してたりするのか?」
「ああ、あれね。そう。その男子に私は告白されたの」
「なるほど。そういうことか……」
「お察しの通り、私はその告白を断った……。振ったの。そしたら次の日になったらその男子は部を辞めた。当然だよね。振った相手と部活やるなんて気まずいもんね」
「………ふざけた話だ」
「ほんとそれね……。でも彼崎君は私のことを多少は、同じ部員のライバルとして観てたから」
「僕もあの頃は絵を描くのが大好きだったが、どうにもスケッチやデッサンだけは苦手で、下手くそで先生や先輩達によく手を焼かせてしまっていた。だから、スケッチ画で賞を獲る風宮さんを『ぐぬぬっ……!』と敵対意識を燃やして、なら僕は想像画で賞を撮って風宮さんに並んでやると意気込んでいたものだ」
「私は、それに気付いてたし、彼崎君が素描が苦手なことは知ってたし教えようかと思ってたけど、一生懸命逆さまスケッチをしてるのを見て、教えるのは野暮かなって思った。ウフフっ」
「……………ッッッッ」
「それを見てね。ああ、この人は部活中にオタク話はするけど時々イラストとか描くけど、真剣に絵を描きたいと思ってる人なんだなぁって。私のことも女子としての風宮菫じゃなく、美術部員の絵描きとしてライバルとしての風宮菫として観てくれいていた。それで私は彼崎君のことをいい奴だと思ったの」
僕を見て話し微笑む彼女を見て、僕はあの頃の記憶を思い出す。
僕が風宮さんに並び立とうと必死になった頃から、僕は風宮さんはよく話をしていた。内容は勿論、絵のことだった。話というよりかは言い合いというか絵のよさについての討論をしていたような気がする。全くもって楽しく会話していたことはなかった。だが、彼女にとってはそれが、一番楽しかったのだ。
「そういえば、よく絵の事で言い争っていたな」
「そうそう。自分がスケッチ画が描けないからって想像画の良さをひたすら熱弁してマウント取ろうとしてさっ」
「そうだったな………」
「楽しかったなぁ……」
風宮さんは頬杖をつきながら懐かしむように笑っていた。
「————で、それでどうして今になって僕と付き合うという事になるんだ?確かにあの頃、風宮さんが僕に対して好印象だったいうことが分かったとしても、それは過去のことであって、今こうして再会したとしても、お互い気持ちの変化とか、他にも出会いはあるだろ?出会ってすぐ付き合うというのはなんか、違うというか性急というか……。それに、お互いに好きかどうかも分からないのにさ……」
「付き合ってから好きになっていくこともあるでしょ?」
「付き合う前の気持ちも重要だと思うけど……」
「恋愛した事がないクセによく語りますな〜」
「悪かったな」
「でもさ、そんなに難しく考えなくていいんじゃない?恋愛なんてそんなもんだよ。学生時代の男子と久しぶりに出会って、その人があの頃のようにイイ人のままで、この人なら付き合ってもいいかなって思えれば、それはそれで十分付き合える対象になり得るし、好意が持てるってことじゃないかなぁ」
「…………」
「あ、それとも誰か気になる人でも居たりするの?」
「それは……」
気になる人—————。
「—————いないな。いるわけがない」
「いないの?」
「言っただろ?僕は三次元の異性に恋することはない!」
「じゃあ、私と付き合っても問題ないんじゃない?」
「だから何でそうなる?」
「私と付き合うの、イヤ?」
「その質問はちょっとズルいと思うなぁ………」
「ごめん。でも……、私の一方的な気持ちだけで付き合っても意味がないし、彼崎君の気持ちもちゃんと知った上で付き合った方がいいでしょ?」
「どうして急ぐ必要がある?僕らはまだまだ二十歳前半だ。これから出会いだって沢山ある。久しぶりに再会した片想いでもないただ仲が良かっただけの同級生とすぐに付き合うことはないんじゃないか?」
「………」
「僕は恋愛なんてした事がないけどこれだけは言える。好きなのかどうかも曖昧で中途半端な気持ちで付き合うのは相手に失礼だと思う!」
「!っ………」
「僕は、中途半端な感情で付き合って風宮さんを傷つけたり、悲しませるようなことはしたくない!」
風宮さんは驚いた後、頬を緩める。
「そんなこと言われちゃったら私、本当に彼崎君のこと………」
「うん?どうした?」
「ううん別に………クスッ。やっぱり私、彼崎君となら本気で付き合ってもいいかもねっ!」
「なッッッッ!? それ、どういう……?」
「ウフフフッ 今の驚いた顔、すっごく可笑しい!クフフフッ………!」
「ッッッッ……そんなに可笑しかったか?」
「うん、結構っ」
「全く………」
「久々に彼崎君と話が出来て良かった。出逢えて良かった」
「ああ、僕もだ」
「連絡先交換しない?たまにでいいからまたこうしてお茶しようよ」
「ま、まあそれくらいなら別にいいけど……」
「ありがとうっ」
彼女のその笑顔に思わずドキッとしてしまい、僕は思った。
本当に綺麗になったなぁ、と……。
こうして、僕と風宮さんは別れた。
彼女は別れる間際も終始笑っていた。
後になって思うのは、風宮さんはもしかして、誰かにそばに居てほしいかったのではないか?そして、偶然にも高校時代の良きライバルだった僕と再会し、より一層その想いが大きくなり僕にあのようなことを言ったのではないだろうか?まあ、また会う機会があったとしても、そんことについて聞く勇気は僕にはない。野暮かもしれないしな。
僕は、彼女の連絡先のグループ登録をお気に入りに設定した。
◇◇◇◇
数日後、妹の玲ちゃんが、家に泊まりに来る日がきた。
LINEで玲ちゃんがもうすぐ駅に着くということで、駅の改札手前で待つことにした。この日に備えて色々準備した。品物の調達や、掃除。寝室にある抱き枕の整理整頓と。
暫くして改札の向こうから手を振ってこちらに向かってくる妹の姿に僕は再会の喜びと同時に—————
「桂兄ィィィィィィッッッッ!!!!」
「あっ、玲ちゃん!…………あぁ」
玲ちゃんは、その抜群のスタイルとサラサラの金髪ロングの美少女であると同時に、6月の末ということもあり、背伸びすれば軽くおへそが見えてしまう丈が短い白のTシャツにデニムのショートパンツというさすがファッションモデルというべき、ラフだけどお洒落な夏ファッションを着こなしていることから、通り過ぎた人たちがほぼ全員が振り返っている。
その様を遠目で見ていた僕は、自分の妹がここまで天性の美少女なのだということを思い知らされる。
「ねぇ、あの女の子可愛いくない?」
「うわぁ、スタイル良い……」
「モデルの子?」
「あんな格好、自分のルックスに自信がないと出来ないわぁ」
周囲の視線が玲ちゃんと僕に集中している。
見ないで〜!
僕らは兄弟なんですぅ!!!
こんな可愛い妹なのに兄がこんなに冴えなくて地味でごめんなさぁーい!
「お待たせー桂兄ぃ!」
「あ、あぁ……」
「どうしたの桂兄ぃ?」
「ううん。なんでもないよ。それじゃあ行こうか」
「うん!」
こうして玲ちゃんと並んで歩いていても、すれ違う人は皆、玲ちゃんの外見に魅了され振り返る。
「玲ちゃん、こっちでの仕事はいつまでなの?」
「う〜ん。スタジオでの撮影だから大体一週間ぐらいかな……」
「大学の方は大丈夫なのか?」
「うん。なんとかっ」
「そうか。元気そうで良かった」
「桂兄ぃも元気そうで良かった!ところで、桂兄ぃの新しい家でどれなの?」
「ここ」
「……………………え?(何これ、このタワーマンションが桂兄ぃの家?)」
マンションに到着しフロントにある自動販売機でカフェオレのペッドボトルと玲ちゃんの好きでいつも飲んでいるコーラーを買う。
「………………………え?(フロントがめっちゃ広い。まるでホテルのロビーじゃん)」
エレベーターに乗り39階のボタンを押す。
「………………………え?(39階?桂兄ぃってそんな高い階に住んでの?)」
エレベーターを降りて3905号室のドアを開ける。
「………………………え?(部屋がめっちゃ広い)」
茫然と立ち尽くす玲ちゃんを横目に、冷蔵庫から麦茶を取り出し二人分のお茶を注ぐ。
「桂兄ぃ、どうしてこんなところに住んでるの? ここ、凄く家賃高いよね?」
「実はお兄ちゃん、宝くじが当たったんだよね……」
「いくら?」
「7億……。家賃を一括払いして家具とか色々買ったから、今は6億くらいかな」
「どうして—————」
「ん?」
「どうしてもっと早く教えてくれなかったのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
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