第14話
二人にその時の夜の事を説明した。
これは決して弁解ではなく、誤解を解くための説明である。
「――――――と、言うわけであって、僕はなにもやましい事はしていません!」
「なーんだそういう事ならもっと早く言ってよぉ―! ビックリするじゃんか……」
「そういう事だったんですね。もう、驚かせないで下さい………(この女の人も桂先輩のこと、桂君って………)」
二人の誤解は解けたようだ。
危なかった……。
もう少しで僕は死ぬところだった。――――――いろんな意味で。
「もぅ~、二人とも勘違いしすぎっ! ウフフッ」
「明日美さんが誤解を生むような事を言っちゃうからでしょ………」
と、呆れながら明日美さんの分のグラスを用意しジュースを注ぎ、明日美さんの側に置く。
「あ、ありがと桂君。―――別に間違ったことを言ったつもりはないけど?」
「ま、まあ、そうですけど……」
「まあ、明日美ならやりかねないとは思ってたけど……。まさか、桂の家に上がり込んでいたなんてね」
「でも桂君、私の誘惑に全く動じなかったのよねぇ……」
「なにしたの?」
咲さんが疑い深く明日美さんを睨む。
「桂君に抱きついて、私と今から楽しいこと、しない?って迫ったの」
「はぁっ!? 桂、それホントッ?」
「はい……。事実です」
「はぁ~。まったくもう……。桂もホントよく明日美の色仕掛けに乗らなかったよね………」
「それは、明日美さんの認められた者としてのケジメというか……。あとは、咲さんですかね」
「え、私?」
「なんか、咲さんの怒って泣いているところを想像して………」
「………! あっそッッッッッ」
と、照れ顔を隠すようにグラスに口を付ける咲さん。
「ね? 桂君のこういうところが食えないのよねぇ~。まあ、そういうところも気に入ってるんだけどネっ!」
「あ、あの……挨拶が遅れました。私は咲さんと桂先輩の後輩で、香住理乃と言います!」
理乃さんが明日美さんにペコリとお辞儀をする。
「あぁ! ごめんなさい。私も自己紹介がまだだったわね。私は九字明日美。咲とは大学時代からの親友。よろしくね♪」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「(桂君のことを桂先輩、と………ふ~ん)」
「(凄い綺麗な人だなぁ~)」
理乃さんをしばらく見つめた明日美さんは何か思いついたように
「…………ところで――――あ、理乃ちゃんって呼んでいい?私のことも明日美でいいから」
「あ、はい」
「理乃ちゃんって桂の後輩なのよね。会社での桂君ってどんな感じなの?」
「え、えーと、桂先輩は優しくてこんな私と仲良くしてくれて、困った時にはいつも助けてくれて、私とのオタクトークにも楽しそうにしてくれて、それから………ッッッッッ!」
話ながら徐々に顔を赤くしていく理乃さん。その様子をみた明日美さんは何かを察し、僕に視線を移す。
「ふ~ん」
「な、なんですか?」
「桂君も罪な男だよねぇ~…………」
「かもねぇ~」
咲さんも呟く。
三人の美人さん達のなんとも言えない視線が僕に集中する。
なんだろうかこの構図は一体……。まるで、ラブコメアニメのワンシーンみたいじゃないか。いつから僕はラブコメ主人公になったんだ!?
まあ確かに、心当たりが無いと言えばウソになるが…………。
「さ、さて……ぼちぼち理乃さんが持ってきてくれたケーキを出して皆で食べましょうか!」
「あ! 私、手伝いますっ!」
「ありがとう理乃さん。じゃあ、お皿の用意をお願いします」
「はい。分かりました」
冷蔵庫からケーキ箱を取り出す。中のケーキはフルーツが沢山乗せてある可愛らしいホールケーキだった。
「桂……アンタ、ケーキとかちゃんと切り分けられるの?」
咲さんが不安そうに聞いてきた。
「それくらいできますよ。バカにしないでください」
例え料理が出来なくても、ケーキを切り分けるぐらい大したことはない……はず。
包丁を持ち、ケーキに狙いを定める。
「なんか、恐いんだけど。あ、桂君が怪我しそうって意味で………」
「もしかして、包丁を握るのこれが初めてとかじゃないよね?」
「あ、あの、桂先輩? 私がしましょうか?」
と、皆が心配そうに見守る。まるで、初めて料理する子供を見守るお母さんの様に。
「大丈夫です。これくらい綺麗に切り分けてみせますよ!」
ケーキ入刀!–––––––––なんとかケーキの生地を崩さずに切り分けられた。ふぅ……
「ケーキ切り分けるだけでそこまで意気込む必要ある?」
「ちょっとぎこちない感じだけど、まあ、良いんじゃない?」
「桂先輩、上手でしたよっ」パチパチ
「あ、ありがとうございます」
なんだろう。なんか、とても恥ずかしい。
「じゃあ、残ったケーキは冷蔵庫に戻しますね」
「ありがとう理乃さん」
「このケーキ、何処で買ったの?」
明日美さんが理乃さんに尋ねる。
「隣町の『シャーロット』というケーキ屋さんです」
「へぇ~、今度言ってみようかなぁ~。何処にあるの?」
「中央通りの少し曲ったところにあるんですけど」
「へえ〜。あ、理乃ちゃんの連絡先教えてくれない?LINE、交換しない?」
「へ?……あ、はいっ! それじゃあ――――」
明日美さんの突然の連絡交換のお願いに若干戸惑うも、理乃さんはスマホを取り出し、連絡先を交換をする。
そして、その様子を見ていた咲さんが呟く。
「明日美って、あーやって女子なら誰とでもすぐに仲良くなって友達を作るのが得意なんだよね」
「咲さんもそうして友達になったんですか?」
「かもね……」
その後は明日美さんが僕とのデートの事を突然話し、理乃さんの顔を赤くし動揺している様を可笑しそうに笑っていたり、前触れなく三人が僕の部屋を散策し『お宝探し』という名のエッチな物探しをしだしたり。
まあ、そんなものはないんだけどね。そもそも探して見つかるようなところにおいて置くようなことはしない。
「そろそろ片付けましょうか」
時刻は午後3時。僕と咲さんとで、食器類を片付ける作業に入る。洗うのは僕で拭くのが咲さん。
「すみません。手伝わせてしまって」
「いいのいいのこれくらい。お呼ばれした者の礼儀ってやつ」
「!————そうですか。ありがとうございます」
「っ…………」
一緒に台所に立つのは、これで二度目だ。
この不思議と違和感が無いというかしっくりというか、まるで………
「まるで、夫婦みたいなんですけどー!」
「なっっっっ!」
「はぁっ!」
「あ、明日美さんっ? な、何を……」
「だって、台所に立っている二人がエプロン着て一緒に食器洗いって、まんま新婚夫婦の共同作業みたいじゃない」
明日美さんは何か拗ねた様子でこちらを睨む。
理乃さんも言われてみればという感じで僕らを注視する。
「な、何言ってんのよ、バカッッッッ!」
「そうですよ! 僕と咲さんが台所に立ったぐらいで新婚夫婦に見えるわけないでしょ!」
ドスッ
「痛っ!」
「ッッッッ…………」
何故か分からないが、ムスッとした咲さんに無言で肘で横腹を打つけられて、明日美さんが何故か呆れた様に溜息をした。
あらかたの片付けが終わり、ゆっくりとする僕ら。
「ねえねえ桂君、この家にはゲームとか置いて無いの?」
「ありますけど……オタク向けのやつしか無いですよ?」
家にはプレイステーションが置いてあるが、ソフトは全部、PC版から移植された全年齢対象版の美少女ゲームしかない。元々誰かとゲームしたりとかしないしな。
昔は友達のゲームオタクの家に遊びに行ってそこで格ゲーとか、FPSを夜遅くまで遊ぶことがほとんどだった。
「そういうことだからちゃんとソフト持ってきた」
「え?」
と、咲さんはカバンからソフトを取り出す。
「わざわざ持ってきたんですか?」
「この前桂のうちに遊びに行ってゲームがそれしかないて言ってたから、私のうちにあるマリカーのソフトを持ってきた」
「わ、私は別に桂先輩と一緒に美少女を攻略していくのもいいかなぁ、なんてッッッッ……」
というわけでのまさかで、僕の家で美人三人とマリカーをすることになった。
結果、僕と理乃さんが決勝戦に残りラストレースの末、理乃さんが勝利。
「じゃあ理乃ちゃん、桂君に一つだけなんでも言うこと事を聞いてくれるから、なんかお願いしてみたら?」
「はっ!?」
「ふぇっ!?」
明日美さんが突然意味がわからない事を言い出した。
「明日美さん? 何を言ってるのかわかりませんが……。そんなルールありませんよ?」
「あら。これくらい男なら女の願い事一つぐらい叶えてあげるほどの技量を見せないとネ♪」
「えぇー!」
「………………」
理乃さんはさっきからずっと考え込んでいる。どうやら本気で僕になにをしてもらおうか考えているらしい。
「り、理乃さん?」
「桂先輩………」
「はい、なんでしょう?」
「お願いしたことがありますッッッッ」
「そうですか(理乃さんのことだから変なことは言わないと思うけど………)」
「————いつか、私の家に遊びに来てください!」
「………あー!なんだそういうことなら別にいいけど?」
「ホントですか!?」
「別にいいけど?」
「ヤッタァ………」
小さい声で喜ぶ理乃さんを横目に、僕に視線を向ける二人。
「桂君って本当に隅におけないよねぇ〜」
「それなぁ……」
「え? 二人ともどうしました?」
「「べっつにぃ〜!」」
「????」
二人の言動の意味するところは分からない。が、いつかの日に理乃さんの家(実家)に遊びにいくことが決まった。せっかくだ。オススメの漫画とラノベを何冊か持っていくとしよう!きっと喜んでもらえるだろう。
夕方、三人は帰っていった。
帰った後の部屋はとても広く寂しく感じた。いつも一人で住んでいたのに、寂しいと思うとは、僕も大分変わったものだ。
誰のおかげかな………。僕は咲さんの顔を思い浮かべていた。
すると————
ピコンピコンとスマホに着信が鳴った。
着信先は妹だった。
『もしもしどうした
「あ!桂兄ぃ、おっスー久しぶりぃ!相変わらずぼっちしてる!?』
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