第13話

 ピーンポーン!


「来たよぉ―!」

「こ、こんにちはッッッッ!」


 玄関扉を開けるとモデルさんのような美人さん二人が立っていた。


「いらっしゃい。どうぞお上がりください」

「はーい!」

「お、お邪魔します……」


 二人をリビングに通し、お菓子の準備と冷蔵庫に冷やしておいたグラスを取り出し、氷を入れジュースを注ぐ。


「適当に座ってくださいね」

「あ。桂先輩、これよかったら……」


 理乃さんの手にはケーキ箱が。わざわざ買ってきてくれたらしい。


「わざわざありがとう。冷やして後で皆で食べよう」

「はい!」

「桂、私からはこーれ」


 梨乃さんの手には紙袋が。


「なんです?」

「お酒。桂でも飲める低アルコールのフルーツカクテルのセット」

「ありがとうございます。これ、高いヤツじゃないですか?」

「そう!だから味わって呑んでね!」

「はい。いただきます」

「あ、呑んだら感想聞かせてね!」

「分かりましたよ」


 リビングのセンターテーブルにお菓子とジュースを置く。


 二人は気候が暑くなってきたこともあり、肩が露出し胸元があいたお洒落なトップスを身に纏っていた。

 咲さんはショートパンツ、理乃さんはミニスカートと、その細くて白い太ももが露わになり、床に女の子座りした彼女達のモデルのようでお洒落だけど無防備すぎる姿に、僕は目のやり場に困った。


 男の部屋にお洒落といえどもそんな無防備な服装に来るというのは如何なものか!とやや顔を赤くして思った。


「あれ、桂どうしたの?顔赤いけど」

「い、いえ……そんなこと、ないですよ」

「あ~もしかして。私達の露出度の高い格好に目のやり場に困ってるんでしょー!?」

「い、いや、そんなことはッ!」

「理乃ちゃんも男の家にお邪魔するのにこんな可愛い格好してきてぇ~。しかもミニスカートで。随分気合い入れてきたじゃないっ」

「わわわ私は、そんなことッッッッッ!」

「私も今日は暑かったからけっこう露出多めのやつにしたけど、三次元の女に免疫がない桂にはちょーと刺激が強すぎたかなぁ~?」


 からかう咲さんに僕は為す術がなく言い返す言葉も出せなかった。


「ね、桂。理乃ちゃんのこの服どう?可愛いでしょ?」

「ちょ、ちょっと咲さん!?」


 咲さんが理乃さんの両肩を掴み、僕に近寄らせるように前に押し出す。


「!」


 彼女を近くて見ると、華奢ながらもほどよく育った二つの膨らみがあるのを生地の薄い衣服の上からでも視認できた。


 また、彼女が背が低いことから、胸元の開いたトップスから今にも谷間か下着が見えそうなほど白い胸肌が目の前に飛び込んでくる。


「ッッッッッ…………!」

「ッッッッッ…………!」


 僕と理乃さんはお互いに恥ずかしすぎて顔を真っ赤にし無言になる。

 何か言わなくては!

 せっかく可愛い服を着てくれたなにも言わないのはダメだ!


「り、理乃さん!」

「ひゃいッッッッッ!」

「そ、その―――――」


 胸元に視線を向けずに、理乃さんの目に視線を向けるように意識した。


「とっても、可愛いですッ!」

「ッッッッッ――――――!あ、ありがとう、ご、ございます……」

「………………ッッッッッ」

「ウフッ よかったね!。理乃ちゃん」

「ッッッッッ―――――!は、はい………」

「……………咲さんも」

「うん?」

「可愛いっすよ―――――」

「っ!……………」


 桂の優しく笑った表情でのその意表を突かれた言葉に、咲さんは隠しきれないほどに顔を赤くし照れて、だが、素っ気ない素振りで


「ほ、褒めてもなにも出ないからッッッッッ…………!」

「クスッ、別に期待してませんよっ」

「でもまあ、ありがとっ!」

「どう致しまして」



 以前は“独り”だった。

 独りでも平気だった。

 独りがラクだった。



 でも今は、二人の慕って仲良してくれる美人な咲さんと可愛い後輩の理乃さんが居る。

 いつの間に僕の日常はこれほどに恵まれていたのだろうか。


 独りでもよかったはずなのに、どうして今になってからこの二人の側に居たいと思う程、掛け替えのないものになったのだろう。


「―――――ありがとうござまいます」

「え?」

「うん?」


 キャッキャッとしていた二人がこちらを向く。


「なんか、僕の毎日が明るくなったような感覚というか、荒れ地に花がいっぱい咲いたような感じというか―――」

「……………」

「……………」

「それも、咲さんと理乃さんのおかげです。ありがとうございます!」


 僕は二人の前で頭を下げる。


「あ、頭を上げて下さい桂先輩っ!」

「そーよ。別に御礼を言われるようなことじゃないんだから」

「私は、桂先輩の優しいところに救われました。桂先輩に出会えたから私はここまで自分の事が好きになるまで変われることができました。だから、御礼をしたいのは私の方です。むしろ御礼が言い足りないほどですっ!」

「私は桂と一緒に居たいから楽しいからこうしてるだけ。だから、そんなにかしこまらないのっ!」

「はいっ………」

「あ、それじゃあ今日は、桂先輩のこれからの明るい毎日を願い祝していうことで乾杯しませんか!」

「あ、それいい!」

「えぇー、なんですかそれ……」


 そういいながらも嬉しく思ってしまっている自分がいる。

 各々グラスを持ち――――


「それじゃあ――――」



「「「かんぱぁぁぁぁぁいッッッッッ!!!!!」」」



 僕一人で住んでいるこの広い部屋に、祝福するかのようにグラス同士を当てる音が響き渡る―――――。


「理乃ちゃん、会社の仕事にはもう慣れた感じ?」

「はい。おかげさまで。最近はいろんな仕事を任されるようになりました」

「任されるのはいいけど、あまり多く仕事を引き受けないようにね。溜め込んで後からパンクして潰れちゃう事があるから。ちゃんと自分が抱えられる範囲で仕事を受けるように。あそこの連中は容赦なくどんどん頼んでくるから」


 と、理乃さんに念を押して、理乃ちゃんの空いたグラスにジュースを注ぐ。


「あっ! すみません。―――大丈夫ですよ。ちゃんと考えてますから。それに、社員の皆さんはとても親切ですよ」

「親切なフリをして自分だけ楽しようとしている可能性もあるから、気をつけて!」

「そんな捻くれて卑屈なことばっかな目で見てるから、皆に煙たがれるのっ! 唯でさえアンタは皆より大変な業務をしてるから、皆アンタに何も言えないでいるけど……。それでボッチになったんじゃ本末転倒じゃない!」

「僕は大丈夫です!今までもこれからもこの環境下でも充分働いていける自信があります!」

「はぁ~。このバカァ……」


 咲さんは肘を着きながら頭を押えため息をつく。


「え、え~と……。あ、ありがとうございます桂先輩!桂先輩の助言を胸に頑張っていきます!」

「理乃ちゃん、このバカは仕事はデキて優しくて良いヤツだけど、こういう根暗で捻くれた思考回路だけはリスペクトしなくていいからね?」

「はい……。分かりました……」


 苦笑いする理乃さんは、僕としばらく目を合わせる事はなかった。


「あ、そういえば聞きたかったんだけど!」

「なんです?」


 咲さんのグラスにジュースを注す僕。


「理乃ちゃんが私と桂のところに来た時に、理乃ちゃんが桂とアキバに行く時も!って言ってたけど、二人で秋葉原行ってきたの?」

「はい。先週の日曜日に行きました」

「私が、桂先輩をお誘いしたんです」

「理乃ちゃんって桂と同じオタクだったんだよね。この間、三人でお昼食べた時も話してたけど……」

「はい。桂先輩も私と同じオタクだと知って、意気投合して……。それで、私の方から桂先輩にアキバ……秋葉原探検に一緒に行きませんかと………」

「へぇ~! 大丈夫だった? 桂はオタクっぽく暴走してなかったぁ?」

「いえいえ!どちらかと言えば暴走したのは私の方でッッッッッ……………」

「へ?」

「理乃さんが行きたがっていたお店に行った時に、理乃さんが値が高い限定フィギュアを注文したんです」

「それでそれで?」

「で、その後もグッズを沢山買ってたんですけど、お昼にレストランで昼食をとって、彼女が食事代を僕も分まで払おうとしてくれたしいんですよ。最初は、僕も半分出すつもりで、理乃さんも断っていたんです。でも財布を見たら、序盤でお金を使いすぎた所為で自分の分の食事代を払うだけで帰る交通費が無くなることに気付き、結果僕が払うことにしたんです」


 僕が経緯いきさつを話している間、横の理乃さんは終始恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


「クスッ! へぇ~、じゃあよっぽど楽しかったんだ?」

「はい。――――――同じ趣味の人とあんなにはしゃいで笑って夢中になって遊んだことなかったので、とても楽しかったですッッッッッ……………」

「そう…………。よかったじゃんっ!」

「はいっ!あと、桂先輩にプレゼントも貰って………」

「えっ! プレゼント!なになにどんなの!?」


 咲さんはジュース片手に理乃さんに躙りながら近寄る。


「えーと………」


 理乃さんはバックからスマホを取り出し、スマホ画面を咲さんに見せる。


「スマホに撮って待ち受け画面にしてるんです」

「なにこれネコ!? カワイイーッ!これ、ぬいぐるみ!?」

「いえ、陶器で作ったオブジェなんです」

「へぇ~!でも陶器ならそれなりに高かったんじゃな~い?」

「大したことないですよ」


 と僕は素っ気なく答える。


「それにしても、待ち受けにするほど嬉しかったんだぁ」


 ニヤニヤしながら理乃さんに詰め寄る咲さん。


「ッッッッッ!」


 そして、安易に待ち受け画面にしてることを話してしまい、しかも、プレゼントした本人の前ということで顔を真っ赤にする理乃さん。


「プレゼントした者としては嬉しい限りだよ」

「い、いえッッッッッ…………!」


 僕の言葉がとどめの一撃だったのか、増々顔を赤らめる理乃さんであった。


「もぉー、理乃ちゃんカワイイーッ!」


 理乃さんに抱きつく咲さん。

 その光景を微笑ましいと思う僕であった。



 ―――――ピーンポーン!



「ん?誰だろう? 宅配便かな?」

「なんか注文してたの?」

「いえ、ここ最近はなにも注文してませんけど………」


 と、言いながらインターホンのモニターの通話ボタンを押す。


「はい」

「桂君、私ぃ~! 遊びに来たよぉー!」


 …………明日美さんだった。


「……………明日美さん」

「あ、明日美!?なんで?」

「?(誰だろう……。咲さんの知り合いかな?」


 やむなく玄関扉を開ける。


「やっほー! 桂君、来ちゃった♡ ―――って、あれ!? 咲もいるじゃない」

「明日美、なんで桂のマンション知ってるの?」


「え? だってこの間の夜に、桂君の部屋に泊まらせてもらったから――――」



「「      え?     」」

「!!!!!!!!!!!!!!!」



 その瞬間、僕の背中に二つの鋭い、そして何か『ヤバイ』視線が刺さるのを感じた。


「桂、どういうことか説明、あるよね?」

「え、えーとですね………」


 咲さんはニコッと笑っているが、先ほどの穏やかさはそこにはない。むしろ、以上ほどの圧を五感で感じ取れる。


 理乃さんはふらっと立ち上がり真顔で僕を見つめている………が、何かが違う!


「ちょーと待って理乃さん!? 目にハイライトがないよっ? それ、ガチのヤンデレ目みたいになってるよ!? 大丈夫? いや、大丈夫じゃないよね? ひぐらし的に目には見えないけど今にもエアーの鉈を振り下ろしそうなんだけど!?」

「桂先輩、その女の人、ダレ、ですか? 泊めたってどういうこと、ですか――――?」

「お、落ち着くんだ理乃さん! なんかよく分からないけどシャレになってないよ!?」


 あれ、おかしい。

 どうして、こうなった――――?という言葉を人生で思う日が起きようとは……。


 というかなんですかなんなんですか!

 さっきまで暖かくイイ雰囲気だったのが、明日美さんが来てから急にラブコメの修羅場みたいになってるんですがっ!?



「桂――――――――」ゴゴゴゴゴゴッッッッッ

「桂先輩――――――」ゴゴゴゴゴゴッッッッッ

「ん?なに、どうしたの?」ポカーン



 あ。これ僕、今日死ぬわ――――――多分。

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