第6話
6月某日。
天候、雲一つ無い快晴なり。
「どうして、どうしてこうなった………」
自分の所為です。はい。
明日美さんとデートすることを了承してしまった。断る理由も思いつかなかった。
明日美さんに変に興味を持たれてしまった。
冴えないオタクが巨乳の美人とデートに行くなんてどこのラブコメだよまったく。
僕はラブコメの主人公になりたいなんて頼んでないぞ!
一応、デートプランは考えている。といっても、内容は全てラブコメアニメやギャルゲーを参考にして、そこにプラス、僕のオリジナルを混ぜた構成になっている。
待ち合わせ場所には10分前には到着し、彼女、明日美さんを待ちながら、スマホの電子書籍でラブコメ漫画のヒロインとデートしている場面を読み、予習復習をしていた。
待ち合わせ時間丁度になると
「けーくーん!」
手を振ってこちらに駆け足で向かってくる明日美さんが視線に入る。
明日美さんの今日のコーデはこの前の時より肌の露出が多く、谷間が見えてしまう程の少々男子には過激的な格好をしていた。
「おまたせー。待った?」
「いえ。大丈夫です」
「何分待った?」
この瞬間、僕は思った。
明日美さんは僕を試そうとしていると。
僕の行動、言動、そして今回のデートプランから僕をどんな男か見定めよとしている、と―――――
「5分前に到着してました」
「待たせちゃってゴメンね」
「いえ。こういう時、デートプランを計画した男性が先に集合場所にいるものだと考えますので」
「ふーん、そっか。偉いネ、桂君は」
「いえ。大したことではないです。それでは、そろそろ行きましょうか」
「どこに連れてってくれるの?」
「それはあとのお楽しみということで」
「ほほう。随分と自信があるみたいね」
「ご満足頂けると幸いです」
「それじゃあ、今日一日よろしくネ!」
「うわッ!」
明日美さんが僕の腕に手を回してきた。しかも身体も密着させて、当然ながら彼女の豊満な胸が当たるのは仕方がない。うん。仕方がない。
「あ、あの、明日美さん。これは一体……?」
「ん?だってデートなら普通こうするでしょ?」
「彼氏でもない僕にでも、ですか?」
「今日だけ、桂君は私の彼氏だよ。ネ!」
「あ、はい」
どうやらそういうことらしい。知らんけど。
明日美さんはこうして女の武器を使って幾人もの男性陣を落としてきたのだろう。なんて恐ろしい人なんだこの人は……
僕等はバスに乗って都市部から離れた農場公園に来た。
「此処って………」
「農場公園です」
「どうして此処にしたの?」
不思議そうに僕に尋ねる明日美さん。
「この前、明日美さんと出会って話した時、明日美さん、遊園地とか活発的に遊ぶような人には見えなかったし、スマホとかあまり触らない人だったから。なので、時間とかにはあまり縛られたりするのが嫌い、というか時間にはルーズでいたい人なのかなって。そういう人は時間に追われる遊園地とかは行かないと思いました。それに、水族館とかは見て廻るだけのところはゆっくりできるけど、明日美さんにはつまらないだろうなと。そこで、ゆっくりと居られてしかも遊べる此処にしました」
「………」
「此処は、ウサギとかの動物とふれあうところもあって、しかも今日は動物イベントで犬達のサーカスもやっています。それに此処ではお菓子作り、お土産屋さんでは小物や雑貨の手作り体験もできる所もあり、身体を動かさなくても見て触って遊べるので、明日美さんには此処が一番楽しめるところだろうなと思いました」
「…………」
明日美さんは相づちをせず僕の話を黙って聞いていた。つまらなそうにしているわけでもなく、ただ、僕をずっと見て聞いていた。
「あ、あの、明日美さんどうしました?」
「桂君―――」
「はい」
「ギュッてしていい?」
「え?」
そう言った途端に明日美さんは真顔で僕に抱きついてきた。
胸部に2つの柔らかく弾力のあるモノが当たる。なにこれ、すっごい。
ていうか周りの人の目線が!
「あ、あ、あ、あ、明日美さんッッッッッ!!!!!!!??????」
「初めて――」
「へぇ?」
「こんなに私のことを考えてくれたの」
「それりゃあ、明日美さんに喜んで貰うために考えたプランなので………」
「今までの男達は、とりあえず此処に連れて行けばいいだろうと、遊園地とか水族館に連れてっていたけど。ここまで私のことを見てくれた人、桂君が初めて」
「そう、だったんですか………」
「だから、すっごく嬉しい。ありがとうネ」
「いえ、どういたしまして」
そこまで言われると流石に照れてしまう。
というか、明日美さんがちょっと可愛いく見えてきた。
「明日美さん。ここ、美味しいソフトクリームが売ってあるんです。これから食べに行きませんか?」
明日美さんは僕に抱きついたまま顔を上げて嬉しそうに『うんッ!』と可愛らしく頷いた。
因みにここには僕の好きな抹茶と小豆のソフトクリームがある。正直、これを食べたいが為に来たというのもある。
因みに明日美さんはイチゴのソフトクリームを頼んだ。
「如何ですか?」
「美味しいよ!」
「それはよかった」
「桂君は抹茶が好きなの?」
「はい」
「味見させて」
「それじゃあスプーンをもらってきて―――」
「ぺろッ」
「!!!!!!」
明日美さんは僕のソフトクリームをぺろっと舐めた。
なんかエロかった。
「うん。抹茶も意外と美味しいネ」
「そ、それは良かったです………」
どうしよう。口をつけられない
「あれ~?もしかして間接キスしちゃうって意識してる?」
「い、いや、そんなことは…………」
「そう?じゃ、私のも味見してもいいよ。ほら」
と、イチゴのソフトクリームを僕に差し出す。
「そ、そんな。明日美さんのものに口をつけるんて」
「食べてくれないの?」
わざとらしく拗ねた表情を見せる。
「それでは少し頂きます。―――あむ」
「美味しい?」
「はい。美味しいです」
「間接キスだね」
「!!!!!!!!!!」
「クスッ」
それからの明日美さんはとても楽しそうだった。
動物とのふれあい広場では、ウサギを愛でている彼女はとても可愛いかった。
お土産屋さんでの手作り体験では、試行錯誤しながら手作りを楽しんでいた。時折、僕にどうしたらいいのかと、聞いてくることがあり、僕がアドバイスをすると「ありがと!」とまるで童心に返ったかのような笑顔を見せることがあった。
犬のサーカスでは子供用にはしゃいでいた。
あの、妖艶で大人びた印象等は随分掛け離れていた。実はこれが素の彼女なのかもしれない。
お昼になり、僕と明日美さんは公園内のレストランで昼食をとることにした。
「桂君てさ」
「はい」
「今まで咲以外でデートかした事とかないの?」
「ないですね」
「へぇ~以外。桂君みたいな男だったら世の女が見過ごすわけないのに。あ、咲がいるか~………」
「咲さんは違いますよ。唯の仲の良い先輩と後輩です」
「あの咲が唯の仲の良い後輩に彼氏役をお願いするとは思えないけどなぁ」
あれ?さっきの可愛い明日美さんは消え、妖艶で小悪魔で意地悪な明日美さんに戻ってしまったような………?
「どう、でしょうか………」
「ま、いっか。彼氏役の事は咲に直接問いただすとしますか」
「お手柔らかにお願いします」
「でさ、話は変わるんだけど」
「なんでしょう?」
「私、桂君の彼女に立候補していい?」
「へぇッ!?」
「ネ、いい?」
頬杖をつきながら僕に近づき僕を目をジッと見つめてくる。
「僕を彼氏にしてもなにも得することないですよ?」
「でも、こうして私を楽しませてくれたじゃない。それに、こんな私のことを考えてくれる彼氏といて損することってあると思う?」
「………………」
これってどう返事したらいいのだろうか?
「立候補」ってなんだよ。
「どうぞ……」
「やった!」
「…………」
こうして僕と明日美さんのデートは終わった。
疲れたけど正直ちょっと楽しかった。明日美さんの可愛いらしいところも見れた。でも最後はいつもの明日美さんに戻ったけど。
◇◇◇◇
翌日。会社にて。
「お疲れ。昨日はどうだった?」
「お疲れ様です」
お昼。
社内の休憩室でコンビニ弁当を食べていると、どうやって僕が此処にいるとわかったのか不明だけど、咲さんが僕を見つけ出し声を掛けてきた。
「よく此処に僕がいると分かりましたね」
「桂が好きなそうな所は大体察しがつくから」
「そうですか」
「で、結局、明日美とのデートはどうだった?」
「そうですね……。結果的には成功しました」
「へぇ~。どこに連れてってたの?」
「農場公園です」
「農場公園って、あそこの?」
「はい」
「なんでそこ?」
僕から見た明日美さんの印象を話し、そこから導き出した農場公園の楽しさのポイント。
そして、実際に明日美さんとデートしてみての明日美さんの様子を話した。
「―――という感じでした」
「ふーん。あの明日美がね…………。ちょっと意外」
「僕も最初は驚きました。明日美さんもああいう可愛い一面のあるだなって」
「好きになった?」
「ふぇっ!?」
意地悪そうに僕を見下ろす。
「ハハハ。まさか」
「可愛かったんでしょ?」
「そりゃあ、まあ………」
「で、好きになったと」
「だから、違いますって!」
「どうかな~?」
「明日美さんが近いうちに咲さんに問いただすことがありそうなので」
「え?なにそれ?」
「さあ、知りません」
「え?ちょっ、桂?からかって悪かったから何のことか教えて!」
「どうですかね~?」
「先輩には報連相は大事じゃない?」
「プライベートのことまでは言う必要はないと思いますが?」
「な、生意気な事言うようになったじゃない」
「これも、咲さんのおかげです」
「ッ!………そう。それはなによりね」
なんだかんだで僕は意外とこの冴えなかった人生を楽しんでいるのかもしれない。
「あ!そうそう。桂にちょっと言っておきたい事があるんだけど」
「何でしょう?」
「明日、後輩の面倒をお願いしてもいい?」
「え?」
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