010 白銀の少年④
家にたどり着いたのはそれから約三時間後だった。
先に帰っていた
夕食を食べるまで何度頭を下げただろうか。
春乃の機嫌は、全く良くならなかった。ほかの二人は自分が頭を下げながら誤っている姿を見ながらソファーの方から笑い声が聞こえた。
そして、条件付きで許しを得たのはそれから数時間後だった。
それから彼は夕食を終えると、風呂に入り、自分の部屋に入るとベットで仰向けになりながらそっと目を閉じた。
今日、起きたことが現実だったこと。自分の体がいつもより疲れている。
眠りたいのに眠れない。じっとしてもじっとしていられない。
これが何度も繰り返され、土曜日から日曜日にかけて続き、そして、いつの間に休みは終わっていく。
一日が終わるのは早いが、週末が終わるのはもっと早く感じる。
時計の針が十二と五十九秒を超えた時、また、新たな週が始まろうとした————
頬が回数の増えるたびに痛みが増していた。
右、左と交互にその刺激を感じている。この痛みは夢ではない。
すると、左目の半分の視界に人影が現れる。もう朝か、と思った矢先に耳元に、
「
起こしに来た挙げ句、頬を何回も手で叩き、少し怒り口調で正寿の隣に座っていた。しっかりと頭が覚醒したのはその後で、体を起こしながら欠伸をする。
正寿同様、朝っぱらから死んだ魚のような目をしている長女の
フリーダムな服を着ており、朝っぱらから厳しい態度をとってくる。
黒髪のショートカットで、セットしていない髪はボサボサのままだ。
身長は三つ子の中では一番背が高く、中学三年生にしては普通の身長である。性格は正寿に似ており、男勝りな少女である。スポーツ万能で、その上頭も平均以上にいい。所々に筋肉が小さく見えるくらいの体である。
頭が覚醒したとはいえ、本調子ではない兄に対して、夏海は大きな欠伸をした。
「休日もとっくに終わっているというのに正兄は、いつも通りだね。ま、いいけどさ。それよりも何この部屋。少し暑いんじゃない? うわっ、二十八℃ってほぼ真夏に近い状態じゃん。窓開けて、扇風機でもつけてよかったものを……。早くしたくしなよ。私は先に降りているからさ」
軽く愚痴を言いながら夏海は窓を開け、扇風機を点けると、風に当たっている。
正寿とほぼ性格の似ている夏海は、やることも同じであれば考え方も変わらない。それに中三にしては、可愛らしい顔をしている。
だから、女子らしいことをするときは不器用であり、家事や服の選び方などほとんどが大雑把である。
三つ子でもこんなに違うと、それぞれの対応について本当に面倒である。一番楽なのが夏海という事になるのだ。
昔から夏海とは、一緒にいる機会が多く、友達と遊ぶよりも正寿とスポーツをしたり、ゲーセンに行ったりしていた。それに兄弟喧嘩も派手であり、一度やり合えば、どちらかが降参するまで終わらない。そのたびに次女である春乃が喧嘩の仲裁に入り、二人揃って正座させられながら怒られるのだ。
正寿は、携帯の画面を横にスライドさせて、誰からか連絡が来てないか確認する。
「おい、正兄。……って、聞いてねぇし」
夏海は呆れながら立ち上がると、体を伸ばしながらストレッチをする。
「聞いているよ。聞いていないようで聞いているのが一番いいだろ?」
「訳分かんない‼ それよりも春乃が怒る前に行くよ!」
夏海は正寿の服の襟を掴み、引きずりながら階段を降り始める。
「い、いて。尻が痛いって‼ 自分で降りられるからそれを放せ」
「はいはい。そう言うことは、降りる意思がある者が言うことだよ。私は春乃に怒られたくないからね。巻き沿いなんて絶対に嫌だからね。正兄も嫌でしょ。朝から春乃に怒られるの。だったらシャキッとする!」
「分かったよ……」
正寿は階段の途中で立ち上がると、夏海の後ろを歩き、ゆっくりと階段を降りる。リビングに入ると、朝食はもうできている。そして、秋菜と春乃は先に座っていた。
「それで朝っぱらから二人は上で何していたんですか? 先に食べちゃうところだったよ」
「そうそう。春乃ってば、もう少しで噴火していたんだから」
春乃の付け加えに三女の秋菜がそう言った。
秋菜はやれやれと機微を振りながら、顔が未だに引きずっていた。どうやら、怒る寸前の春乃の表情を見ていたらしい。
「ちょっ、それはないでしょ! ただ、私は片付けが遅くなって学校に遅刻するのが嫌なだけよ。それ以外はないんだから……」
「分かってるって、それは誰もが分かっているからさ」
「それよりもお前ら早く食べないと送れるぞ。もう、朝の七時前だし。姉妹で言い合うのは後にしてくれよ」
「「「誰のせいだと思っているの!」」」
三人は正寿に対して、口を揃えて言った。
「と、言っている俺も時間がないんだけどな」
「だったら早く食べる」
「……」
「それにさ、夏海も
パクパクとご飯を目玉焼きの黄身と一緒に食べながら春乃が言う。
「そう言えば、テレビのリモコンどこに置いた?」
「確か、テレビが置いてある棚の下に誰かが置いていたような……」
秋菜は薄い記憶を思い出しながら言った。確かに向こうの小さな隙間にそれらしき物陰が潜んでいる。正寿は、テレビのところまで行くと隙間に手を伸ばし、リモコンを取った。その後、電源を点け、ニュース番組に切り替える。
「それって、秋菜自身が昨日、見たいテレビが見終わった後にリモコンを投げたからじゃないの?」
「あれ、そうだったっけ?」
秋菜は手を止め、苦笑いをした。夏海は、そんな態度をとる秋菜に対して溜息をつき、中欧に置いてあるたくあんに手を伸ばす。お茶碗の中に残り少ないご飯粒をかき集め、それを冷たいお茶を注いで一気に食べる。
「げっ、今日もこの地域は最高気温が三十℃かよ」
「ここのところ多いよね。最低気温でも二十四℃。さすがの五月の暑さじゃないよね」
「秋菜の言っていることは間違いではない。学校でもそうだがエアコンすら点かないからな」
朝から不満が不満を呼ぶこの連鎖はまた、まだ暑さを感じさせない暑さがどんどん来そうだ。
「私たちの学校はエアコンよりも扇風機が主だけどね。それにもう風も回っているから少しマシかな」
「いいよな……。こっちは本番まで動かないっていうのに……」
「それよりも早く急がないと、みんな遅刻しちゃうよ! ほらさっさとして、皆は歯を磨いて外に出ていく‼ それを五分でやる!」
春乃がビシッというと、ほかの三人はきびきびと動きながら行動を早くする。
それぞれの仕事を終わらせると、五分後には時間通り四人揃って家の外に制服を着て立っていた。
正寿は、夏海たちと学校は同じ方角にあり、二つの学校の距離はそこまで離れていない。走りながら通学路を通ると、正寿の高校と夏海達の中学の生徒たちと鉢合わせをする。
最後の信号を渡り終えると、それぞれ二手の道に分かれて校舎にたどり着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます