007  白銀の少年②Ⅱ

「ああ、さっぱり分からないね‼ 一条いちじょう家か何条家か知らないが俺にはそんなこと関係ない。あんたが誰だろうと俺は何も知らん!」

「そう。それならそれでいいわ。あなたがそのままで隠し通してこれから日常を送れるならね」

 春佳はるかは正寿を見下すような目で睨みつけながらそう言った。彼女のそのままの意味が何を示しているのか。まだ、この時は知る由もなかった。

 彼女は警戒を解き、正寿まさとしに背を向けて、振り替えりもせずにその場から立ち去ろうとする。

「おい、ちょっと待て……。それはどういう意味だ。なんでそんなことが分かるんだ⁉」

「それは自分の目で見た方が早い。それはすぐに訪れるはずだ。自分の力を知るにはいい機会だろう」

 春佳は、フッと、微笑みながら軽くジャンプをし、屋根の上に上った。

 刀を持った春佳は、表情を変えず、屋根に上った後にそこで立って、また、正寿の方を遠くから張り込み始めた。彼女の名前は一条春佳いちじょうはるかと言っていた。正寿とは少し違うが、苗字に数字の一が入っている。偶然なのか、彼女は正寿に対して、妙な事を言っていた。

 空き地を出て、元来た道を戻り始め、妹の春乃はるのが待つアウトレットの方へと向かった。

 その途中で、また左手に妙な違和感を覚えた。それはさっきよりも大きく震え上がっているのだ。自らやっているわけではない。体が自ら震えている。それはアウトレットに近づくたびに大きくなってきた。

「なんだ、この震え……」

「それは霊圧れいあつによって自分の体に重圧がかかっている証拠だ」

「うわぁ‼ い、いつの間に後ろに⁉」

 突然後ろから声をかけられて、びっくりした正寿は振り返った。

 春佳は左手をつかみ、ずっと見つめた。この異常な震え方。徐々に霊力が高くなってきている。これはきっと何かある。

「あなたはこの感覚をいつからか覚えていますか? これは……なるほど……」

 春佳の表情が変わっていく。額から顎に向かって冷や汗が流れ込む。正寿には、春佳が何を言っているのか分からない。ただ、この左手を見て状況が変わったのだけは自分でもなんとなく分かった。

 自分の身体にも他の者の霊圧がのしかかってくる。春佳よりかは低い霊力の持ち主がどこかで暴れているようだ。その霊圧を放っている方向を見ると、正寿を置いて、一人、刀を抜き、瞬時にこの場から去った。

 正寿も彼女の後を追いかけて、突き放されないように全力で走った。行先は正寿が向かおうとしていたアウトレットの方角だ。だとすると、春乃の身が危険だ。

 そして、向こうで何が起こっているのかが分からない。

 春佳が向かった先には、誰かが暴れていた。白い何かを纏った人間のような形をした人物。人々は急いで逃げ、襲われている人がいる。車は横転し、地面にはヒビが入っていた。その白い人型は、雄叫びを上げながらその声が広範囲に響き渡る。正寿は耳を塞ぎ、その場に立ち止まる。春乃の携帯に電話を掛けるが、一方に掛からない。

 正寿は横転した車の陰に隠れている春佳の方に駆け寄ろうとした。

 その時、白い人型が正寿に気づき、同時に襲い掛かってきた。

 ギャアアアアア、と叫びながら右腕から鎌のような鋭い刃を出したのだ。正寿は足がすくんで動けなくなる。その二人の間に今まで様子を窺っていた春佳が再び、鞘から刀を抜き峰打ちで人型に対して腹を狙った。その後、

束塞そくさい!」

 春佳が左手の人差し指と中指を重ねて、呪術を唱えながら人型の方に掛ける。人型は硬直し、身動きが取れなくなる。そして、後ろの方へ飛ばされる。

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