003  プロローグⅢ

「世界がおかしくなってから七十年間。現在の我々、世界の理を守るものとして手が足りないのです。三千世界ざんぜんせかいを統一すれば、すなわち、世界を制する。これらの霊気を元に戻すことができればいいのです」

「三千世界……」

「だが、その霊気れいきもまた、これ以上乱すことがあるとするならば、そこを中心に徐々にそれは広まり、やがて人類は支配されるだろう」

「そして、その霊気を徐冷する方法はどうすればいいのですか?」

 春佳が退治方法を訊き出す。どうすればいいのか、まだ、知らない。

「ああ。それは霊獣化れいじゅうかして現れる。それを倒せばいい」

「霊獣化とは?」

「霊気が合わさって作り出された獣ことです。我々はそう呼んでいます」

「それを戦闘で倒せばいいんですね」

「そうだけど、霊獣にも弱いのから強いのまでうじゃうじゃといる。霊獣を倒し、一条家の名に恥じぬように行って参れ……」

 信之は扇子を広げ、力強く言い放った。

「本当に私でいいのですね……」

「もちろん。僕が苦悩と戦い続けた結果がこれだからね。それに他の本家と遭遇した場合は、共闘すること」

「は、はぁ……。共闘ですか」

 気が乗らなさそうに小さく頷く。

 今まで戦闘訓練は積んでおり、実際に兄の仕事で何度か実践をしたことがあるが、自分たち以外の名家の者と交流をしたことがない。だが、知っている人物は数えるほどしかいない。彼らがどう接触してくるのか。見当がつかない。

「一応、餞別せんべつとして向こうの学校に転校の手続きも取ってある。それに今まで木刀だったが自分の刀を持って行きなさい。生半可な相手じゃないからね」

 そして、後ろに置いて木箱から通帳、印鑑。そして、新品の銃とマガジンを春佳の前に出した。その隣には封印のお札が備えてある。

「このお札は何ですか?」

「これはお守り代わりに持って行きなさい。いつか、きっと役に立つはずだから……」

 これはたぶん、信之が自分の霊力を込めて作りだしたお札。

 それに新品の銃とマガジンは、これは対霊獣用のマガジンと普通の実弾用のマガジンに分けられている。霊力の籠った弾は、発砲した後に発動するように術が組み込まれている。そして、通帳と印鑑は、生活に必要な物だ。

 これだけあれば生活に困らないと考えているのだろう。だが、弾が切れたら補充用の箱を春佳は持っていない。

「分かりました。ありがたく頂戴します」

 箱の蓋を閉じ、ひもを結び直すと春佳に渡した。

 この高級そうな木箱は、現代の匠が作ったにしては出来がいい。

「それと、予備の弾は毎月送るから心配しなくてもいいよ。今は、これだけあれば十分だから。後は、自分の荷物をまとめて部屋の前に置いておきなさい」

「それで神代町のどこに私は住めばいいのでしょうか?」

 春佳はるかは困りながら言った。

「それはこの住所に書いてある。まあ、一応一軒家だから一人じゃ広すぎると思うけど、自由に使っていいから」

「兄様。さすがに一軒家は広すぎますよ。アパートかマンションぐらいでいいです」

「いや、ここには結果意を張っているから心配はない。それに不憫な事もあるだろうし……」

「まさかとは思いますが、私に男が出来るとでも思いですか? そんなことは一切ありません」

 察した春佳は、溜息をついた。

「僕はそんなこと一言も言ってないよ。別に春佳が男を連れてこようとどうでもいいけどね」

「…………」

 顔が赤く染まり、恥じらい。そして、顔をうつむく。

 彼女は立ち上がり、そして、一礼して、信之の部屋から姿を消した。

 春佳が姿を消した後、信之のぶゆきは笑いながら腹を抑えて、扇子を仰いだ。

 彼はこれが運命の定めだと感じた。星占いは、すべてを有耶無耶にしており、見えない道がある。


 だが、彼と出会えばまだ分からないとそれだけしか思っていなかった。そう、彼が覚醒すればという話————

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