落語じゃなくて小話だなこれは。
古今東西、仕事というものは一つのステータスになるものでして。
よき会社に就職しようと、皆が四苦八苦するのは今も昔も変わらぬものです。
江戸と呼ばれた時代、平和になったのは良かったのですが、困ったのはお侍様たち。争いがないもんだから仕事にあぶれて給料はどんどん下がっていく、その日のおまんまも食えないってもんでした。
武士は食わねど高楊枝、なんて言ってる場合じゃありません。このままじゃ死んでしまうと慌てていたら、瓦版にちょうど『仕事指南教室』なんてもんがあって、しかも無料とのこと。
これは行くしかないってんで、多くのお侍様たちがその『教室』に参加したそうです。
はやきことぉー、かぜのごとくぅー
しずかなるぅーことぉー、はやしのごとしぃー
しんりゃくすること、ひのごとくぅー
うごかざるぅーことぉー、やまのぉーごとぉーしぃー
「すみません、質問いいですか?」
「うむ。なにかね?」
「なんで仕事の指南で、風林火山とか歌わされるんですか?」
「そりゃ君、これが仕事で役に立つからだ」
「風林火山が、ですか?」
「そうだ」
「……本当ですか?」
「本当だとも。考えてもみたまえ、最初の風の部分」
「はやきこと風のごとく?」
「そう! 仕事を早くすませるのは重要だろう?」
「なるほど。じゃあ次の、静かなること林のごとしは?」
「仕事中は静かにしろってことだ」
「え? それって当たり前のことじゃないんですか?」
「そうだ。その当たり前が仕事をする上で重要ってことだ」
「はぁ、そうですか。……じゃあ、侵略すること火のごとくってのは?」
「侵略するんだよ」
「はぁ?」
「侵略するんだよ。仕事を」
「あの……意味が分からないんですが……」
「分からないのかね? 分からないということは君、まだまだ侵略が足らんのだ」
「侵略が足りない?」
「まったく、最近の若者の侵略不足は深刻な社会現象になりつつあるね。これは由々しき問題だよ君。もっと動け! 侵略しろ! と、私は言いたいね」
「……よ、よく分からないんですが、とりあえずこれは置いておくとして。では最後の動かざること山のごとしとはなんですか?」
「動くなということだ」
「はぁ?」
「ちょこまか動いていたら仕事にならんだろう」
「いや、さっきまで動いて侵略しろって……」
「何を言っとるのだ君は。侵略なんて古い古い。今は山の時代だよ」
「山の時代!?」
「君はもっと時代の流れってものを知らなきゃならん。仕事も流れが大事だからな。もっと時代の流れにのりたまえ」
「いやいや、その流れとやらにのったら動いちゃうでしょうが! 山が!」
「馬鹿を言うな。動かずに流されていくのだよ」
「めちゃくちゃだな!!」
「うるさいぞ君は。静かにしないと先生に怒られるだろうが」
「アンタも生徒かよ!!!!」
……お後がよろしいようで。
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