悪魔の要求

アフロの人

第1話

超古代の遺産を発掘するべく、考古学者のA博士は奮闘していた。研究者になってこそ長いものの、まだ、めぼしい発見には至っていない。


そんな中、ある遺跡の発掘調査で妙なモノを発見し、自身の研究室へ持ち帰って調査していた。



それは、バスケットボールくらいの大きさのまんまるに削られた石だ。


ここまで綺麗に削るなど、その当時の技術では出来ないはず。博士は、研究室にある機材で分析するための準備に取り掛かった。




様々な検査をしていくうちに、どうやらその石の中心部から金属反応が出ていることが解った。博士は、その石を割って、中に何があるのかを確かめたがったが、自前の小さな研究室の設備では、それは叶わなかった。


「うむ、どうにかしてこの中身を確かめなくては…」


そう思い、まんまるな石のそれを両手で持ち上げた瞬間、ピキっと音を立てて真っ二つに割れたのだ。


驚くのも束の間、石の中から金属製の、派手な装飾がされた壺が出てきた。




「まずはひとつ。お前の願いは叶えたぞ」




博士の背後から、男の声がした。振り返ると、小柄な体格だが頭に二本の角があり、全身は赤黒く、背中には羽根が生えている。



「な、なんだお前は」



「ああ。驚かせてすまない。その壺から出てきた。永い眠りから覚めさせて貰い感謝する」



見た目はまさに西洋の悪魔のようなそれは、お辞儀とともにそう言った。



「なんと。こんなことが現実にあるのか。貴様は、その壺に閉じ込められていた悪魔で、私はそれを蘇らせてしまったというのか」



「察しが良くて助かる。だが、お前達人間の思う悪魔だと思われるのも少し癪だが…」




「ならば貴様はなんなのだ。私はとんでもないものを発掘してしまったのか」



「オレを悪魔か、もしくはお前達の思う善良な神と見るかはお前が決めてくれ。どうでも良い。それよりも、残りの願いはなんだ」




壺から出てきたそれは、そういって博士のいつも座っている椅子へ腰掛けた。



「残りの願い?もしかして貴様は、願いを叶えるとかいう類のモノなのか」



「なんだ、やたらと察しがいいな。以前の時もそういってた人間がいたが、我々のことをいい伝える文化か何かが根付いているのか」





「…オレの名はイゴール。あるお方に使える悪魔だが、そのご主人の逆鱗に触れてね。壺の中に閉じ込められ、それを見つけた人間のねがいを5つ叶えるまで帰ってくるなと言われた」



イゴールと名乗る悪魔は、そう続けた。




「5つ?なんと5つも願いを叶える悪魔だというのか」




「ああ。だが、ひとつめのお前の願いは叶えた。石の中から壺を取り出す、というな」



博士は驚いた。



「それも1つとして数えられたのか、なんということだ。」



「そんなことより、次の満月の夜までにあと4つの願いを言え。さもなくば、オレはお前の魂を奪い、また壺に閉じ込められてしまう」



「なんということだ。そんな事を、いきなり言われても困る」



博士はその言葉に動揺したが、イゴールは続けた。



「なぁに、人間という生き物は強欲だと聞く。4つの願いなどすぐ思いつくはずだ。ましてや、その願いを叶えればお前も死ぬことはなく、オレも晴れて自由の身だ。早くご主人のもとへゆきたいのだ」





博士は息を大きく飲み込んだ。




「よ、よし。なんでも良いのだな」



「ふふ、決心はついたな。だが制約はある。叶えられない類の願いもある」



「どんなものは駄目なのだ」



イゴールは、組んでいた足を組み直し、机にある地球儀を退屈そうにまわしながら博士に言う。




「まず、不老不死にしてくれとかは駄目だな。オレの力じゃそれは及ばん。あと、過去や未来を行き来することも出来ん。…管轄外だ。別のやつに頼め」



イゴールは続ける。



「あと、重複するような願いも駄目だな。人間界では、だいたいのことは金で解決する。巨万の富を得たあとに、その金で手に入れられそうなモノを欲しても駄目だ」



そう言って、イゴールは天井にある窓を見上げ、夜空を見る。



「満月まであと10日ってとこか。さあ人間よ、残りの願いはなんだ」



「わかった。なら二つめの願いは、その巨万の富だ。私の研究には、莫大な費用が要る」



「…承知した。ならば明日、その壺をお前の雇い主に見せるのだ」


そういってイゴールは、壺のなかに吸い込まれるようにして消えた。




「必要なときに、また呼べ。いつでもお前の前に現れる」







次の日、博士は発掘調査の成果として、その壺を所属する研究所へ提出した。もちろん、壺から出てきた悪魔の存在は伏せて。




そしたらやはり、この壺は世紀の大発見らしく、その存在は、すぐに世間に知れ渡った。世界中の博物館から展示依頼が殺到し、報奨金も支払われることになった。そして、博士の名も有名になり、その地位も確固たるものとなった。



博士は驚いた。こんなにもトントン拍子にことが進むとは思わなかったが、これも悪魔の力なのか。




さらに数日後、なんと別れた妻が戻ってきた。どうやら世紀の大発見の噂を聞きつけ、よりを戻したいと願ってきたのだ。



博士は戸惑ったが、これを了承した。もともと、無謀な生活を続けていた自分に非があるのをわかっていたからだ。



博士は、自分の研究室で、壺に話しかけた。




「おい、イゴールよ。まさか巨万の富と同時に、別れた妻まで戻ってきたぞ」




「どうやらそうみたいだな。まあそこはオレの力ではないが、結果オーライってとこか」




「ありがとう、本当に感謝する。資金もしばらくは心配ないだろうし、なにより妻が帰ってきた。これからは…」




「おっと、待て博士。次の満月の夜まであとわずかだぞ。残りの3つの願いはなんだ」



博士が感謝の言葉を言うのを遮るように、イゴールは言い放つ。



博士は困惑した。




「確かにその約束だ。だが、研究者として成功し、富も得た。別れた妻も戻ってきたのだ。これ以上、望むものなど…」




「博士。そこから先は言って良いのか?お前はオレと5つの願いを叶える約束をしたのだ。それが出来なければ、お前は魂を奪われるのだぞ」


不敵な笑みを浮かべてイゴールは言う。



「ならば、あとの願いは要らない。パスってやつだ。それはどうなんだ。それも私の願いだ」




「おいおい、冗談はよしてくれ。いうまでもなく、制約に反する」




その言葉を聞き、さらに博士は困惑した。



イゴールは言った。




「…もういい。どうやら博士、お前はオレとの約束を守れそうもないようだ。まだ満月まで少し時間はあるがもういいとしよう。次の人間に、オレの願いを叶えてもらう」



イゴールは博士に向けて掌を向け、呪文のような言葉を言った。すると、博士は突然もがき苦しみ、そのまま生き絶えてしまった。







「まったく、今回も駄目だったか。しかも、2つしか願いを言わなかったなど、とんだ期待はずれだ。前の時も、その前の時もそうだ。人間というのは金以外に欲しいモノが無いのか。いやむしろ、金でなんでも手に入るような世界で5つの願いを叶えるというのは、難儀なことなのだろうか。ご主人もなかなか、難しいことを要求するもんだな」





ブツブツと言いながら、また1つ魂を喰らい、イゴールは壺の中に吸い込まれていった…。






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